恋歌4
「剣にしろ。そんな獲物では敵を殺せん」
これでいいんだ。ぼくはすべてが大切で…守りたい。だから、殺さない。
「だが、俺はお前以外の者の手にかかるつもりは無い」
じゃあ僕があなたを殺さなければあなたは死なないんだね
「どうした、かかってこないのか」
矢が何本のその逞しい肉体に突き刺さり、返り血と自らの血で汚れながらルカは毅然として立っていた。
「来ないのなら、こちらから行くぞ!!」
ルカが一気に間合いを詰め、その剣で僕の居る所を薙ぎ払う。僕はとっさに後ろへ飛ぶ事でそれを避けたけど、信じたくなかった。
じゃあ僕があなたを殺さなければあなたは死なないんだね
わかっていた。
「ハァ!!」
ガァン!!
剣とトンファーのぶつかる音が辺りに響き渡る。
わかっていたんだ。
「お前の力はそんなものか!!」
ルカの剣が僕の頬を浅く斬る。
あの、幸せな時が続く事はないと言う事を。
「クッ…そうだ…それでいい!!お前の力の全てを見せてみろ!!!」
僕の攻撃に一瞬よろめいたが、踏み止まって再び豪剣を繰り出す。
ソロンの時も、ルカの時も、わかっていたんだ。
ガキィィン!!!!
剣をトンファーで止めた瞬間、その剣は鋭い音を立てて三分の一ほどが折れてこちらに吹っ飛んでくる。
「っ!!」
吹っ飛んだ剣先は僕の左肩を裂き、地面に落ちる。
「カッツェ!!」
僕とルカの一騎打ちを見守っている仲間の誰かが叫んだ。
大丈夫。僕は、大丈夫。
ガツン!!
渾身の力を込めた一撃は、綺麗にルカの腹に決まった。
「ぐっ……かはっ!」
ルカががくりと膝を付く。
お互い息を切らせながらじっと見詰め合う。ルカはぎらぎらと獣のような視線を僕に向けたまま、折れた剣を支えにしてゆっくりと立ち上る。
ぼろぼろになり、血で汚れても尚、その瞳の輝きは変わらないルカは、まるで羅刹のようだった。
「カッツェ…お前はこの先に何を願う」
ルカが掠れた声で僕に問う。
「俺を殺し、我が王国を破ったとしてもそこに残るのは平穏などではないぞ!!!ただ恨みの声が木霊する荒野だけだ!!!」
僅かに目を伏せると、再びその瞳を開き、ルカをひたと見詰め返す。
「それでも、僕はこの方法が最善だと思う。僕は大切な人達を守りたい。所詮は子供の浅知恵でも……それでもぼくはやってみたい。やらずに「出来ない」って言うのとやってみて「出来なかった」って言うのでは全然違うものなんだよ」
いつか、ルカに言った言葉をもう一度繰り返す。
「やってみるがいい、この先見えぬ戦乱の世を正し、人間共を守れるものなら守ってみよ!!」
ルカも、同じような言葉を返す。
覚えていてくれたんだね。
「うん。約束する」
僕は微笑んだ。仲間達からは見えなかっただろう。これは、ルカだけに送った笑顔。
大好きだよ。
想いの全てをその笑みに込めて僕は笑っていた。
ルカも、これに答えるように少しだけ、笑ってくれた。多分、すぐ側にいる僕にしか気付けないくらいの僅かな表情の変化。でも僕はその笑みを知っていた。
――ずっと一緒に居れたらいいのに…
そう僕が言った時、「無理を言うな」と笑った時と同じ笑み。
でもその笑みはすぐにいつもの獣のような笑みに変わってしまう。
「俺は!!!俺が想うまま、俺が望むまま!!!!邪悪であったぞ!!!!!!!!」
ルカの叫びは空気を震わせ、きっとその場にいた全員の脳裏に焼き付いただろう。
ガシャリとルカは膝を付き、そのまま前のめりに倒れた。
そして、そのまま、二度と動かなかった。
わかっていた。
いつか僕を置いて逝ってしまうことを。
「倒し、たの…か…?」
「ルカ・ブライトを…倒した!!」
仲間達が次々に喜びの声を上げる。
自分が置いて逝くことを考えたことはなかった。
「やった!!とうとう狂皇子を倒したぞ!!」
「我らが勝利したのだ!!」
皆が沸き立ち、歓声を上げて僕の回りに集まってくる中、一人だけ人の輪の外でじっとこちらを見ている人物がいた。
(ナナミ…)
彼女には、全て話してあった。
彼女は辛そうな、悲しそうな表情で僕を見つめている。
(そんな目で見ないでよ…)
残された者の悲しみを、ソロンにもルカにも味わって欲しくなかったんだ。
「これで少しは平和になるわね!!」
みんなが僕を取り囲む。
「よくがんばったな!カッツェ!!」
フリックさんに頭を撫でられた時とうとう涙が溢れて、僕はフリックさんにしがみ付いて涙を流した。
みんなは気が緩んで安心した事からの涙だと信じて疑わず、「お前はよくやった」とか誉めたり一緒に感動して泣き出したりしていたけれど。
涙の本当の理由はそんなことじゃあないんだよ。
ソロン、僕は最善の未来を選べたのだろうか。
あなたの死は無駄になってはいないだろうか。
ルカ、僕は本当に大切な存在を守れるだろうか。
あなたの死は無駄になってはいないだろうか。
ソロンは僕と出会って幸せだっただろうか。
ルカは僕と出会って幸せだっただろうか。
答えはわからない。
この地に平穏をもたらせばわかるだろうか。
誰か教えて……
僕の中には、もう、何の答えも見つからないんだ……
ソロン、ルカ…
答えはあなたたちが持って逝ってしまったの……?
(恋歌5へ続く)
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今回、結構短かったな……。でもこれで過去の話は終ったんだ。まだオチ決まってないんだ。……ごめんです……いや、流れは決まっているんだが、とある事のキーパーソンが決まらないつーか何つーか……。あ〜あ、最初はこれ、「雨は優しく僕のために」ってタイトルだったんだって。んで読み切りだったんだって!なのに何をとち狂ったのかソロン主から、ルカ主を絡めたソロン主に変わり、読み切りが長編に変更。そしてタイトルも恋歌に変更。(その結果「闇ハ優シク僕ノタメニ」が出来た)
はあ、やっぱり俺がルカ様至上主義人間だから「ルカ主を絡めたソロン主」ってより、「ソロン主を絡めたルカ主」になっているような……あ、でもソロン主はエロ入れたけどルカ主はエロ入れなかった。これはある意味けじめだった。こうでもしないとほんと「ソロン主を絡めたルカ主」になっちまうからね(滝汗)
は〜、「恋歌」、いつまで続くのかな…?予定では?で完結予定。
(2000/05/19/高槻桂)
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