黒縁眼鏡と牛乳瓶



「…152っと…1cmだけど伸びた事は伸びたね」
 リョーマの身長を測りながら、乾はそう言って手元のノートにそれを書き込む。
「ねえ、身長は良いとして、何で体重やスリーサイズまで測るわけ?」
「趣味と実益を兼ねて」
「あっそ……今日、先生は?」
 いつもなら微笑ましげ笑いながら二人を見ている保健医が居た。だが、今日はその姿は見当たらない。
「出張。予め今日来る事は伝えてあったから鍵は俺が持ってるよ」
「ふーん…で、もう部活に行って良いっすか?」
「駄目」
 即答される答えにリョーマは小さく溜息を吐く。月に一度とはいえ、部活を休んでまで身長を測りに来るのはどうかと思う。
「はい、いつもの」
 リョーマの溜息を全く歯牙にかけない乾は、冷蔵庫から牛乳の瓶を二本取り出すとそれをリョーマに渡した。
「冷蔵庫、勝手に使っても良いんすか?」
「先生の許可は貰ってるよ」
 乾の返答にリョーマはまた溜息を吐くと、ベッドに座って一本目の蓋を開けてちびちびと飲み始めた。
 そしてその間に乾は何やらノートに書き始める。
「これだけで休むなんて、部長は何も言ってこないんすか?」
 確かに身長を測って牛乳を飲むだけなら別に昼休みにでもやれば良い。
「柔軟もやっておくからって事で納得させたよ」
「でもなんでこんなに色々やってくれるんすか?」
「君はまだまだ伸びるからね。その手助けさ」
「ふーん…案外オレと一緒に居たいからだったりして」
 その言葉に乾はペンを止め、リョーマに視線を向ける。
「図星?」
「それもあるね」
 にっと笑うリョーマに、乾は特に動揺するでもなく再びペンを走らせた。その反応が面白くなく、リョーマはふて腐れたように足を前後させながら一本目の牛乳を飲み干す。
「はい、もう一本」
 ひょいっと空き瓶を奪われ、代わりに二本目の牛乳を渡される。
 正直言って牛乳は余り得意ではないリョーマは、機嫌の悪さも手伝って飲みたくなくなっていた。
「……飲みたくない」
 乾は嘆息してペンを置くと、リョーマの手から牛乳瓶を取り上げる。
 本当に飲まなくても良いのだろうかと思い、じっと乾の手を見ていると彼は蓋を開け、一口含むと徐にリョーマに口付けてきた。
「んっ…?!」
 唇を抉じ開けられ、そこから体温で温くなった牛乳が流れ込む。
 リョーマが咽そうになりながらもそれを飲み干すと、乾の唇が離れた。
「な、なんっ…!」
「温くなった牛乳は不味いだろう?」
 冷えた牛乳を自分で飲むのと口移しで飲まされるのとどっちが良い?
 そう聞かれ、リョーマはぐっと言葉を詰らせる。
「……自分で飲む」
「よし」
 渋々飲み始めたリョーマに頷くと、書く事がなくなったのか、ペンをケースにしまった。
「知ってるかい。カルシウムは摂取するだけでは体に吸収されないんだよ」
「ふーん?」
 二本目を飲み終えると、その瓶を取り上げて乾は流し台へと持っていく。瓶を水で軽く濯ぎ、流し台の角に置くとリョーマの元へ戻ってくる。
「適度な運動をしないとそのまま排泄されてしまうんだ」
「それって……」
「そう。つまり、今日部活に出ない君が飲んだ所で然して意味はないって事」
 最悪。リョーマはそう呟いてベッドに倒れ込む。
「そーゆー事は飲む前に言って下さいよ」
 もうこのまま下校時刻まで寝てやろうかと思っていると、乾が覆い被さって来た。
「要は適度な運動をすればいい」
 軽く口付けられ、リョーマは不服そうに唇を尖らせる。
「それが狙い?」
「いや、今思い付いた。据膳食わぬは男の恥ってね」
 カーテンを閉め、乾は首筋に口付ける。そのまま鎖骨へ滑らせるとその体がぴくりと身じろいた。
「んっ……乾先輩ってむっつりスケベ?」
「さて、どうだろうね」
 乾は眼鏡を外すとそれを枕元に置き、再びリョーマに覆い被さる。
 シャツの裾から乾の手が滑り込み、リョーマはその大きな手を羨ましいと思いながら身を捩る。
「ぁっ」
 胸の突起を摘み上げられ、小さく声を上げる。だが、その声は思った以上に室内に響き、リョーマは頬を羞恥に染めた。
「…っ……!」
 リョーマは首元までたくし上げられたシャツを噛み、必死で声を抑えようとするが、乾が触れる場所はどこも弱い所で、時折声が漏れてしまう。
 ベルトを外される音が妙にエロティックで、リョーマは羞恥から耳を塞ぎたい衝動に駆られる。
「ゃ…ぁっ……!」
 勃ち上ったそれを握り込まれ、その指が蠢き、リョーマはぎゅっと眼を閉じる。
「まだ馴れない?」
「ぁんっ…」
 耳元で低く囁いてみればリョーマの背が撓る。その背に手を這わせ、そのままズボンを引き摺り下ろして後部に指を這わせる。
「やっ……ぅ……」
 前後を同時に弄られ、リョーマが震える。乾はその唇に口付け、不安がる少年を宥めてやりながら指を動かした。
「も、いいから……!」
 保健室の放送は切ってあるのか遠くで部活時間の終わりを告げるチャイムが聞えた。
 テニス部員はリョーマたちが保健室に居る事は知っている。もしかしたら、桃城辺りがリョーマを呼びに来るかもしれない。
「確かに時間は無いが…痛いよ?何なら今日の所は君だけイっても良いし」
 まだ殆ど解れていないそこに二本目の指を捻じ込むと、その唇から悲鳴じみた嬌声が上がる。
「ヤダ…ッ…乾せん、ぱいも……!」
 熱で潤んだ目で哀願されて誰が断れようか。乾は仕方ないねと小さく笑って指を引き抜くと、細い両脚を抱え上げて取り出した自身を押し当てた。
「んっ……」
「息を詰めたら駄目だっていつも言ってるだろう?」
「だって、ぃ、ぁっ…!」
 反論しようと詰めていた息を吐いた途端、乾のそれが押し入り、リョーマは痛みに顔を顰める。
「っは、ちょ、待って……ぁっ!」
「君が最後までしたいって言ったんだから今更待ったは無しだよ」
 それに、テニス部の面々もそろそろ片付けが終わって着替えている頃だ。ゆっくりとしれられない。
「ひ、ぁっ……」
 根元まで挿れ、ゆっくりと前後させると、動きに合わせてリョーマの薄らと開かれた唇から掠れた声が漏れる。
「はっ、ぁ、っ……」
 やがて痛みが薄れて快感へと変わって来たのか、乾の二の腕を掴み、顎を逸らしてその喉を露わにする。
 律動を繰り返しながらその喉に舌を這わせ、吸い付けるとびくびくと跳ね、それが面白かった。
「外と中、どっちがいい?」
 激しく動かしながらそう問うと、閉ざされた瞳を薄らと開き、乾を見上げる。
「ぁっ、な、中に出し、て、ぇっ…!」
 予想通りの答えに乾は小さく笑う。
「ならそうさせてもらうよ」
「っん、ゃ…オレ、も…出る……!」
 普段ならまだ長引かせる事も十分可能だったが如何せんここは学校で、しかも誰か来るかもしれないというオマケ付き。
 乾はリョーマの目尻にそっと口付け、一層深くそこを攻め立てる。
「っ…!!」
 リョーマは声にならない嬌声を上げ、自らの腹に精液を散らした。
 そしてそれに続くように体内に熱い迸りを感じ、ぞくりと震える。
「…っは、はぁっ…ふ……」
 荒い息を吐きながらリョーマはくたりと手を乾の二の腕からベッド上へと落した。
「……最短記録だね」
 さほど疲れた様子の見られない乾は、そんな事を言いながらゆっくりとリョーマの中から自身を引き抜き、手早く衣服を整える。
 リョーマはまだとろんとした目つきでそれをぼうっと見ていた。
 乾は自分の身支度が終わるとリョーマの腹部などをティッシュで拭いてやり、たくし上げられて皺くちゃになったシャツを下げて整える。
「ほら、下も履いて」
「ん……」
 のろのろと下着とズボンを手繰り寄せ、覚束ない手付きで履く。
「いつも言ってるけど、精液はちゃんと処理しないと下すよ」
「わかってる……」
 ベルトは留めずに引っかけたまま立ち上ると、ぽてぽてとドアへ向かってそのまま出ていってしまう。すぐ隣の男子便所へ向かったのだ。
 後で処理するのが面倒なら中出ししろなどと言わなければ良いものを。そうは思うものの、外に出したら出したでベタベタするだの何だのと煩いので何も言わないが。
 これからはコンドームは持ち歩かなくては。家でなら手の届く範囲に有るから良いものの、また学校でする時に無いと不便だ。
 そんな事を考えながら乾は乱れたシーツを整え、窓を開けて換気をし、先ほどのティッシュは使用済みコットンを捨てる為の黒ビニル袋に入れ、口を縛るとダストボックスに捨てる。
 とりあえずばれはしないだろう。
 乾は自分とリョーマの荷物を持ち、保健室を出る。
 しっかり鍵をかけ、隣の男子便所を覗くとリョーマがちょうど手を洗っている所だった。
「大丈夫かい」
「まぁね」
 ハンドタオルで手を拭きながらこくりと肯くリョーマ。
 いつもは不敵な色を湛えているその瞳も、今はとろんとし、目元を薄っすらと朱に染めている。
「ん〜……」
 リョーマは乾に擦り寄ると、甘える猫の様に頭を寄せる。その様は発情期の猫を連想させた。
「なんか…足りない…もっとちゃんとしたい」
 途中から情事を急いたために、まだリョーマの中で熱が燻っているのだろう。それは乾にしてみても同じ事で、唇の端を小さく持ち上げる。
「今日、ウチ泊まるかい?」
「泊まる」
 誘いに即答したリョーマがすいっと片手を伸ばして来た。乾はその手を取ると一つ一つの指に口付けてやる。
 それに満足したのか、リョーマは小さく笑った。
「じゃあ、行くよ」
 乾から自分の荷物を受け取ったリョーマは小さく返事をし、並んで昇降口へと向かった。
「ああ、そうだ」
 ふと思い出したように乾はリョーマに視線を落す。
「今日は誰かに会っても視線を合わせちゃ駄目だからね」
「何で?」
 小首を傾げて見上げてくるその様に、乾は苦笑する。そんな眼で見上げられたら余計な虫が付きかねない。
 尚且つ無自覚な所が始末に終えない。
「顎、上げると見えるよ」
「!!」
 何が、とは言わなかったが、首筋から鎖骨に渡って無数に付いたそれを思い出したリョーマを俯かせるには十分だった。

 途中、幾人かのテニス部員や級友と出くわしたが、リョーマが顔を上げる事はなかったらしい。







終わっとけ。
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乾リョ第二弾。しまった、お医者さんごっこができなかった…(爆)最近寝不足でふらふらしてるから思考が纏まらないんだよね…(自業自得)
すんません、エロ、かなり手抜きしました。(爆)だってテニプリのエロは俺、読み専だもん…。そして何だが乾さんが妙にリアリティーがあって嫌。(笑)大抵やおいってゴムの存在無視なんすよね。男同士だってちゃんとつけないと駄目なんですよ?そういう俺はわかってても無視して書く事多し。確信犯ですごめんなさい。(爆)いちゃつくのは進んで書くけどエロは面倒。もうこれ書きながら何度逃避した事か。お陰で明陵帝にもハマっちまったい。ビバ速太受け。俺的には半屋×速太、幕真×速太、早良×速太がヒット。……どうしてこう、マイナーばかり……(涙)
ふと思い出したんだが、昔、とあるホモビデオを見ていた。(見るなよ)そして受けがイッた時、そのシーンをスローモーションでリプレイしたのは笑えた。爆笑モノだったね。(笑)
所で、これ、最後の方で「昇降口に向かった」ってありますけど、下駄箱の事です。俺の通っていた中学は下駄箱の事を昇降口って言ってたので…。ウチだけ?皆さんはどうでした?(謎)
本当はパパリョチックなリョーマ受けを先にUPする予定だったんだが…リョーマの本命を誰にするかで迷っている内にこっちが書き終ってしまった…。
そして次は多分塚リョ。またあほ話。さて逃亡、さようなら。
(2001/08/12/高槻桂)

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