モンスターファーム
太陽が一層赤く燃え、地平線へと沈んでいこうとしている時、ミジョツカ城の会議室では主力メンバーが集まりはじめていた。
これから定例会議なのだ。
「カッツェ殿はどうした?」
さり気に主の隣りの席を陣取っているシュウは、丁度のらりくらりとやってきたフリックにそう尋ねた。
「仲間集めに行くって昼過ぎに出てったぜ」
その言葉にシュウは顔を顰める。
「………人間のか?」
「え…っと…」
一瞬言葉に詰ったフリックはすっとシュウから視線を逸らす。
「……さあ……」
そしてその逸らした視線の先には窓。
「ムムーー!」
窓の外を颯爽と横切っていく赤マントムササビ。
「「「「ムムーーン!!」」」」
その後に続いて横切っていく青、緑、ピンク、黄のマントを付けた四匹のムササビ。
「………」
フリックは余計気まずくなって視線を床へと向ける。
カサカサカサ……
床を這って会議室を出て行った青い毛玉を見送ってフリックは再びフリックの顔を見る。
「…………あのさ、なんでふさふさがいるんだ?」
苦虫でも噛み潰したかのような顔をした正軍師殿は大きな溜息を吐く。
「……カッツェ殿がどうしても飼いたいそうだ」
その言葉にフリックも大きな溜息を吐く。
最初、ムササビを連れてきた時は「何故モンスターを?!」と思ったがルックの管理している石板にはちゃっかり「ムクムク」と名前が記されているではないか。
それならば仕方ない、と言う事になったのだが、翌日、カッツェは更にムササビを一匹連れてきた。今度は名前こそ記されなかったがムクムクの仲間だというのでこれまた仕方なく許可をした。そして二日後、更に三匹追加。これまた仲間だというのでなんとか許可。ムササビ達もこちらの言葉を解するようだったのでまあよし、という事になったのだ。
……が、カッツェは更に四日後、また連れてきた。今度はムササビではない。
「ホラホラ可愛いでしょ!ひいらぎこぞう!!」
これにはさすがに反対したがカッツェの
「……この子、僕に懐いてきてくれたのに……酷いやみんな!!」
という泣き落としに負け、「害が無いなら」と許してしまったのが運の尽き。
「ほら!ふさふさ!!もさもさもいるよ!この撫で心地がいいよね!!」
「げっこうろうしとアイアンムーン!!渋くてカッコイイよね!!」
「ひいらぎパパ!部屋に居てもらえば空気が綺麗になるね!あ、あとひいらきのせいもついて来ちゃった」
「ねえねえ!ピクシー!可愛いでしょー?!」
……この有り様である。
どうやらカッツェの持つ「人を惹き付ける力」は「何でもかんでも惹きつける力」だったらしい。気性の荒い物は無理らしいが、大概は手懐けてしまう。
最近はバドと仲が良くなり、調教の仕方を教わっているという話も聞く。
どうして普通の仲間を連れて来れないのか。そしてどうしてその熱意を人間の仲間に向けられないのかは解らないが、城内の人外率が高くなる一方である。
時折、ちゃんと人間の仲間を連れてくるが、やはりモンスターと比べれば極まれである。
「…どうしたものか……」
今の所被害報告は来ていないし、皆カッツェによって言い聞かされているのか子供たちがじゃれて来ても逃げるかさせるがままかのどちらかである。
二人が再び深い溜息を吐く頃、どうやらカッツェを除く全員が集まったようである。
シュウは気を取り直して一同を見る。
「では、カッツェ殿が戻られ次第会議をはじ」
ばたーん!
「遅れちゃってごめんなさい!」
ぱたぱたと入って来たのは頬をほんのり上気させながら息を切らしているこの城の主であった。
「いえ、丁度今からでしたのでご心配無く」
シュウが立ち上り一礼をするとカッツェは「よかった」とほっと息を吐く。
「それでね、新しい仲間を連れてきたんだ!大勢いるよ!」
その言葉に一同は固まった。
人間なのか?人間の仲間なのか?
一同の動揺に気付かぬカッツェは一旦扉の外に出ると、「大丈夫だって」等といいながらその「新しき仲間」を引っ張っているようである。
一同が緊張して見守る中、カッツェに引っ張られて出てきたのは…。
「うん、でもみんなが…」
なんと十歳前後であろう少女だった。少女は少々おどおどしながら入ってくるとぺこりとお辞儀をする。
「あの、じいちゃんと逸れちゃったので、それまでお世話になります。名前はユズで、年は十歳です」
頭の上で二つに縛った少女はそう言うと「タロウおいで」と扉の外に声を掛ける。
エェーーー…ンメェエーーーー
ピィピィピィ……
入って来たのは四頭の羊と一匹のひよこ。
呆気に取られる一同にユズはにこっと笑う。
「本当に困ってて…助かりました。あ、ちゃんとトイレのしつけはしてあるから大丈夫」
そう言ってもう一度お辞儀をして出て行ってしまった。
「可愛いでしょ〜?ユズちゃんもひよこも」
そう笑うカッツェに一同は乾いた笑いを洩らす。
まだ、マシな方だな。という笑いを。
そう思う事にしているとカッツェは「まだいるんだ」とウキウキして扉の外へ向かった。
「女の人ばっか連れてきちゃった」
「え?!美人?!」
一人シーナが期待する中、カッツェはその人物を連れてくる。
『……………………』
現れた数人の人物に一同は固まる。無論、シーナも例外ではなかった。
確かに女性であろう。
確かにシーナの期待通りの美人ぞろいであろう。
だが。
「右から紹介していくね〜。ネクローディアさんに、三姉妹のランラン、リンリン、テンテン、それにターゲットガール!」
妖艶な笑みを浮かべるネクローディア。無表情の三姉妹。くすくすと何が可笑しいのか笑い続けるターゲットガール。
「あとね、ドレミの精もいるんだ。黄、緑、赤の子が倒されちゃって…なんか半端なグループは仲間に苛められるらしいんだ。ほら、みんなに挨拶は?」
嘘か本当か、真偽の程は解らないが青と桃と水色のドレミの精は横一列に並ぶと
「「「ア〜〜」」」
ベシッ
「ぐはっ」
近くにいたフリック、182のダメージ。
「あ、こら!挨拶の時は衝撃波出しちゃ駄目だよ!」
フリックさんは唯でさえ運が無いんだから、とドレミの精達を叱っているのか何なのか解らないカッツェにフリックは胃が痛くなってくるのを感じた。
「カッツェ殿!!」
とうとうシュウがキレた。その怒りのオーラは、会議室内の全員が逃げたくなるくらい凄まじかった。
「いい加減にして頂きたい!今までは被害報告が無いからと見過ごしてきたがもう限界です!!これ以上この城にモンスターを連れ込むのはお止め下さい!!」
「で、でもシュウ、害が無ければいいって言ったじゃないか!」
びくびくとターゲットガールの陰に隠れてカッツェが言い返すと「問答無用」とぴしゃりといい窘められる。
「今すぐ捨ててくるなり処分するなりしなさい!!」
「やっ、やだよ、みんな可愛いのに!!」
「貴方は…!」
シュウがつかつかとカッツェに歩み寄ろうとすると、今まで何処を見るでもなく突っ立っていたランラン、リンリン、テンテンが素早く動いてカッツェとシュウの間に割って入り、カシンと棍を構える。
「…っ…!」
帰り道中に躾てきたらしい。
さすがにこれにはシュウも脚を止めてカッツェを睨むだけに留まる。
「カッツェ殿!」
「やだ!シュウさんのバカ!けち!」
シュウ、140のダメージ。
所詮頭脳労働者。体力など僅かしか無いシュウにこれは痛かった。
「〜〜っ…けちで結構!処分しなさい!!」
それでも負けるわけにはいかないとカッツェを睨むとカッツェはとうとうその瞳に涙を浮かべる。
「処分だなんて…みんなを殺せって言うんだね……?!」
シュウがしまったと口を噤むが解き既に遅し。
「シュウさんなんか大っキライ!!」
シュウ、623のダメージ。戦闘不能。
そしてライバルが減ったと喜ぶ者数名。
こうして、城主に続く権力者のダウンによって、ミジョツカ城はモンスター城の異名を欲しい侭にしたという。
(END)
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とうとうやっちゃったですハイ(爆)一度は書いてみたかったこのネタ。だってモンスターって言っても人型とか結構いるじゃん?とくにあの三姉妹(姉妹なのか?)はどう見ても人間にしか見えません。ネクローディアとかターゲットガールは明らかに人とは違うトコありますけどね。尻尾とか肌とか。ま、これはやった者勝ちという事で(笑)
(2000/07/25/高槻桂)