ジャイアニズム




「どうする?」
「どうするって…どうするよ」
コートの一角で男二人による問答が幾度と無く繰り返されていた。
「だって……なァ?」
そう言って溜息を吐いたのはテニス部二年の林。
「……だよな」
続いてこれまた重苦しい溜息を吐いたのは同じく二年の池田。
二人はもう一度深い溜息を吐くと、Aコートへと視線を向けた。
Aコートではレギュラー陣が元レギュラーである乾の指示の元、特別メニューをこなしていた。
乾自身はいつ練習をしているのだろうかとか、そんな事は今は問題では無い。
レギュラーのその中で一際小さな少年がいた。一年レギュラーである越前リョーマだ。
そう、彼等の延々と繰り返される問答はその越前リョーマが原因だった。
「レギュラーは10分間の休憩!」
手塚の声に、自分達とは五分遅れで休憩を貰ったレギュラー陣が思い思いの場所へ休みに行くのを眺めていると、信じられないことにそのリョーマがラケットを小脇に抱え、すたすたとこちらへ歩いてくるではないか。
途中、菊丸や桃城に何やら話し掛けられていたが、それをさらりとあしらい、リョーマは真っ直ぐにこちらへと向かってくる。
そこに至って漸くリョーマが自分達の後ろにあるベンチ下の水筒を取りに来たのだと察し、妙な期待を微かにでも抱いてしまった二人は自己嫌悪に陥る。
そんな間にもリョーマは二人の間を抜け、水筒を取るとそれを口にする。
その様を二人はついじっと見詰めてしまっていた。

二人は、この少年に恋をしていた。

リョーマの不遜な態度や形の良いアーモンドアイズ。その所作一つ一つに、彼等は気付けば心惹かれていた。
だが、この少年に囚われているのは何も林と池田の二人だけではない。
レギュラー陣や乾を始めとする多くの者がリョーマに多かれ少なかれ関心を抱いている。
第一に、例えそれらがいなくとも、二人が前に踏み出すことはできなかった。
想い人が同じ人だからと、あっさり恋敵になれるほど林と池田の付き合いは浅くはない。
それに、第一印象からして自分達がリョーマに好感を持たれているなどとは思えない。
「ねえ」
高めの声に二人ははっとする。体の欲求を満たしたリョーマは水筒をベンチ下に戻し、二人を見上げて来た。
「最近、よく視線を感じるんだけど、何か用?」
先輩を先輩と思わぬ物言い。だが、その視線が自分達に向けられていると思うだけで心拍数が上がった気がする。
「もしかして、オレの事、好きだったり?」
リョーマはにっと冗談めかして笑った。
その問に、彼等は否、と答えなければならなかった。
だが、想う少年を目の前にどうして否定の言葉を言えようか。
「……マジなわけ?」
リョーマの顔からからかいの色が失せ、きょとんとして二人を見上げる。
その眼差しに軽蔑の色が無かったのがせめてもの救いだった。
「二人とも?」
きょとんと小首を傾げるその愛らしい仕種に二人は顔を赤くし、にやけそうになる口元を片手で押さえる。
「オレは誰のものになる気もないよ」
「知ってるっての、んな事」
林はそっぽを向き、苦々しく呟いた。この少年が束縛を嫌うことなど見ていればよく分かる。
リョーマは池田にも視線をやると、彼も知ってる、と言う風に、困った様に笑っていた。
でも、とリョーマが呟くが、それは手塚のレギュラー招集の声に遮られてしまう。
「あ、呼んでる」
リョーマは踵を返すと手塚たちの元へと駆け出した。
だが、「あ」と小さく呟いてくるっと二人を振り向いた。
「オレは誰のものにもなる気はないけど、先輩達がオレのものになるってんだったら歓迎しますよ」
「「え…?!」」
林と池田の声がハモる。リョーマはくすっと笑うと再び駆け出していた。
「……林、今のって……」
「あ、ああ……」
リョーマの言葉を自分達の都合の良い様に解釈をしても良いのだろうか。
喜びと困惑の混ざり合った表情で二人は顔を見合わせた。



「越前、これからどっか行くか?」
部活も終わり、着替えているリョーマに桃城が声を掛けて来た。だが、リョーマはそれをあっさりと断った。
「林先輩と池田先輩と帰るんで遠慮しとくっす」
リョーマの口から意外な名が出て桃城は目を丸くする。
「林とマサやん?偉く珍しい組み合わせだな」
「そうでも無いッスよ」
リョーマはバッグを背負うとさっさと部室を出ていった。
「お待たせ」
扉の側に寄り掛って立っていた林と池田にリョーマはそう声を掛ける。
「俺らは構わねえけど、よ……オマエ、本当に良いのか?」
林が未だ途惑ったような表情でリョーマを見る。池田も何も言わないが、その表情は右に同じく、だった。
「良いって言ったじゃない」
リョーマは少し怒ったように言うと、左手を林の右手と、右手を池田の左手と繋いで今度はにっこりと笑った。
「好きですよ、先輩方♪」





(END)
* ―*◇*―*
寒…。つか、タイトルから離れてしまいました。本当はもっとこう、リョーマが我が侭ぶっこいて「オレのものはオレのもの、お前のものもオレのもの」みたいな事を抜かす予定だったんですが実際書いてみたらこんなん出来ちゃいました。(爆死)
相変わらずのへぼさにストーリーについてはもう触れません。ノーコメントで宜しく。(爆)
所で、高槻の中では林って笛の三上さんと被ってるんですが、どうでしょう。そしてよく良く考えると林の名前って何なんだろう…マサやんは「池田雅也」って出てましたけど、林に至っては名前不明……。気になります。それとも何処かに出てましたっけ?
次は金田リョを…そして伴リョvv(笑)更には亜久津リョと橘リョを…!!橘リョは毎度お馴染み(?)の子猫シリーズです。
(2001/10/14/高槻桂)

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