子猫と若獅子〜子猫な小生意気、その後はどうなった?編〜


 橘家にお泊りとなったリョーマ。既に何回も泊まっている事から妹の杏は元より、両親とも既に顔なじみとなっていた。
「リョーマ君、蜜柑食べる?」
 橘桔平の母はにこやかにそうリョーマに聞いた。
 普通、突然留まりに来られれば大抵の母親は良い顔はしない。だが、彼女は殊更リョーマの事を気に入っていた。「毎日でも良いから連れておいで」と息子に言い聞かせるくらいなのだ。
「頂きます」
 小さく頷いてリョーマが答えると、彼女は喜んで幾つかの蜜柑をリョーマに手渡す。
「ありがとうございます」
 そう言って会釈をすると、彼女はいいのよ、と嬉しそうに笑った。
「じゃあ、部屋行くか」
 橘に促され、リョーマはこくりと頷いて橘の後を追った。
「橘さん家って良いね」
 橘の部屋に入り、リョーマがベッドを背にして座ると橘もその隣に座って笑った。
「そうか?」
「うん。和食だし」
「ウチは杏以外和食派だからな」
 そう言って、猫にやるように下頬を指で擽ってくる橘にこてんと体を預ける。
「ねえ、今度オレと試合してよ」
「何だ突然」
 体の向きを変えて預けられた体を抱き込み、リョーマのその長い前髪をかき上げてやる。
「橘さんに勝って、手塚部長にも勝つ」
 つんっと唇を尖らせ、そう言うリョーマに橘はくすりと笑った。
 この少年が手塚国光と試合をし、負けた事はこの少年自身が語った。そして、負けた故に強さへの渇望を手にした事も知っている。
「俺に勝てるのか?」
 その言葉にむっとしたリョーマは橘の胸から体を起こすと、今度は飛び付いて橘を床に押し倒した。
「おっと…」
「勝つまでやる」
 自分の上に乗っ掛かったリョーマの体を引き寄せ、そうかと橘は笑う。
「絶対勝つんだからねっ」
 脚をばたばたさせて駄々っ子の様に言うリョーマの頬に軽く口付け、橘は少年の損ねてしまった機嫌を直そうと試みる。
「なに?それで機嫌とってるつもり?」
 そう言いながらもリョーマの表情は先程よりかなり和らいでいる。
「そのつもりだが?」
 そう言ってもう一度、今度は唇に口付けて挑戦的に笑うと、リョーマはぎゅっと抱きついて橘の頬に唇を落す。
「仕方ないから機嫌直してあげる」
 そう言うリョーマに橘は礼を言い、その頬にもう一度口付ける。

「二人の世界のトコ邪魔して悪いんだけど、ちょっといいかしら」

「嫌」
 突然振って沸いた声にリョーマは一瞥もくべる事無く即答し、橘は苦笑して上半身を起こす。
「どうした?杏」
「和英辞典貸して欲しいんだけど」
 溜息交じりにそう言うと、橘は棚の一点を指差してそこにあると告げる。
「ありがと」
 そういう間にもリョーマはごろごろと橘に擦りより、構えと訴えて来る。
「ん?構って欲しいのか?」
 猫みたいだな、と橘はリョーマの髪を梳いてやり、リョーマは嬉しそうに眼を閉じる。
「……じゃ、借りてくから」
 もうあたしゃ知らんと言わんばかりに溜息を吐き、「御馳走様」と呟いて杏は和英辞典を片手に部屋を出ていった。
「なんか今日は静かだったね」
「そうだな。杏のヤツ、どうかしたのか?」
 いつもは騒がしい杏が脱力していた理由が、まさか自分達にあるなどとは思いも寄らない二人は揃って首を傾げた。


 翌日、杏と伊武、神尾の三人がコートの隅で愚痴りあっていたとかいないとか。





(END)
――――――――――――――――――――――――――――――――――
「子猫な小生意気」のその後と言うか続編です。
すんません。ひたすらじゃれあってるのが書きたかっただけなんです…。
なんちゅーか、リョーマはオコサマだから、橘さんはスポーツバカだから性欲とは程遠く、ひたすらじゃれ逢うのが一番の愛情表現って感じがしたので…。
や、正直言うと俺がオフラインでかなり精神参ってるので癒しを求めたと言うか…あーこのままスランプ突入したらどうしよう…アイタタタ〜…(爆)
あ、ちなみにこれ、見直しとか全くしてないので誤字脱字やらあっても無視して下さい。
(2001/08/23/高槻桂)

戻る

x