子猫は蜜柑が嫌い



 ある晴れた日曜日。青学と不動峰の練習試合が行われていた。
 試合会場は青学テニスコート。
 そして午前中にダブルスを終わらせ、シングルスは午後からという事で現在昼食タイムだったりする。

「ほら、口元、ついてるぞ」
「ん」

 両校弁当持参だったので外へ食べに出るものは居らず、コート近くの木陰には青学メンバーが。そしてそこから幾ばかはなれた木陰には不動峰メンバーが屯して弁当を広げていた。

「これも食うか?」
「食べる」

 だが、一人例外がいた。

「越前、これも食うか?」
「っす」
 石田の差し出した弁当箱からカボチャの煮物を一つ貰い、それを食べるリョーマ。
 彼だけが一人青学グループから抜け、不動峰グループの中で昼食を摂っていた。
 不動峰連中は何だかんだと言いつつもリョーマを気に入っているらしく、リョーマは思い切り可愛がられていたりする。
 しっかり橘の隣を陣取ったリョーマは当たり前の様に不動峰の中で黙々と弁当を平らげる。
「橘さん、アレ」
「ん?」
 内村が苦笑して右方面を指差した。
 橘は指の先へ視線を移すと、ああ、と笑う。
 視線の先には恨めし気な視線を送ってくる青学メンバー。
「越前を取られたのがよっぽど悔しかったんでしょうね」
 森が微かに笑ってそう言うと、神尾が金平を摘まんでリョーマに差し出した。
「越前、ほら♪」
 和食好きのリョーマがこれを拒む事無く、素直にそれに口にする。雛鳥や幼い動物に餌をやるような感覚に神尾は楽しそうに笑った。
「神尾…わざとだろ」
 桜井がジト目で神尾を見る。
「まァね♪」
 青学メンバーが殺気立っているのを眺め、神尾は可笑しそうにくつくつと笑っている。
「アキラ」
「わかってますって」
 橘が苦笑しながら窘めると、神尾はそれでも可笑しそうに笑う。
「蜜柑食わないのか?」
 空になった弁当箱を片付け始めたリョーマの膝の上には、蜜柑がちょこんと乗っていた。
「……皮剥くのが面倒臭い」
 橘の言葉にリョーマがそう呟くと、ひょいっと橘がその蜜柑を取り上げた。
「全く、お前は物臭だな」
 橘は笑いを滲ませてそう言うと、蜜柑の皮を剥いてやる。
「…キミ、橘さんに甘え過ぎ……大体さぁ、皮くらい自分で剥」
「深司」
 ウサギカットの林檎を齧っていた深司がぼそりと呟くが、いつもの如く橘の一言で再び沈黙する。
「ほら」
 一房摘み、差し出すとリョーマは橘の指先からそれを口にする。
「甘いか?」
 橘がそう問うと、リョーマはこくりと頷いて橘の手から一房取り上げる。
「はい」
 まさかリョーマがやるとは思っていなかった橘は多少面食らったような顔をしたが、すぐにふと笑うとその細い指先から蜜柑の房を口にする。
「甘い?」
「ああ…ってどうした、お前ら」
 二人のラブラブムードに充てられた不動峰メンバー。桜井や森なんかは草の上に突っ伏して痙攣を起こしている。
「た、橘さん……ちょっと…いえ、かなり恥かしいんで…そ、そーゆー事は、二人の時に……」
 内村が顔を赤くしながらしどろもどろにそう進言する。
「?」
 既にこの接し方が当たり前となっている橘。
「これが普通になってるからなあ……なあ?」
 同意を求められ、リョーマはこくりと頷くとその大きな体にぎゅっと抱きついた。
「橘さん、大好き」
「リョーマ……」
 さっきの進言何処へやら。橘は微笑んでリョーマを抱きしめ返す。
 そして溢れるらぶらぶパワー。
 恥かしさから身悶える不動峰連中。
 その近くでは、嫉妬に燃える青学連中の姿があったとさ。





(強制終了)
――――――――――――――――――――――――――――――――
ハイ、橘リョ第三弾です。どっちかってえと不動峰×リョーマみたいだわ…アラヤダなんでかしら。(爆)
本当は、このタイトルは「子猫は蜜柑が御嫌いなのです」でした。が、長いので却下。めでたく(?)「子猫は蜜柑が嫌い」に短縮されました。
本当はリョーマが皮剥くのが面倒発言する所、面倒ではなくて嫌いって言う予定だったんですね。前回の「子猫と若獅子」を絡めたかったので…。ていうか、本当はこの蜜柑ネタ、若獅子でやる筈でした。なのでリョーマは最初に蜜柑を貰っていたのです。が、高槻がすっかり忘れてたのでどうせだからもう一作書いてしまえvという事でこの話が出来ました。
リョーマは蜜柑自体は好きだけど皮を剥くのが面倒だから嫌い。だけど今は橘さんが甘やかしまくって剥いてくれるから好きっと。(笑)
なんちゅーか、書き易いっす、橘リョ。ほのぼのはシリアスに比べて頭使わないし話自体短いのでちゃちゃっと書けて好き。でもやっぱり頭使って無い分あほな話が多い。
そういや猫って柑橘類嫌いですよね〜。何ででしょうね。
(2001/08/29/高槻桂)

戻る

x