NO SIR!





越前リョーマはコレをどうしたモンかと小さくため息をついた。
「亜久津先輩ぃ〜……」
ずびっと洟を啜り上げながら泣きじゃくっているのは山吹中マネージャーの壇太一だった。
「うぅ〜……」
亜久津が去ってからずっと…と言ってもまだ数分だが…この調子である。
「……あのさぁ……」
「ああ!ご、ごめんなさい…!」
いい加減付き合いきれないといった声音に太一は慌てて目元をぬぐう。
どうやらリョーマの存在を忘れていたらしい。置いて行けば良かったと思いながらリョーマは再度溜息を吐いた。
「伴田さんに会いたいんだけど」
「え、監督ですか?」
案内してくれる?との声に太一は何度も頷くとくるりと進行方向を向く。
「えと、こっちです!」
まだ涙の乾ききっていない目元を擦りながらリョーマを案内しようと歩き出すが、不意に腕を掴まれて立ち止まった。
「目、真っ赤」
腕を捕らえていない方の手を伸ばし、ぐいっと親指で太一の目元を拭ってやる。
「あわわっ?!え、越前君?!」
「冷やしておいた方が良いよ。腫れると見っとも無いし」
「び、びっくりしましたですハイ…」
慌てる太一を尻目に「で、どこ?」と何事も無かったかのように先を問う。
「あっ、はい、まだ部長達の所に居るハズですから…」
一人慌てる自分が気恥ずかしかったのか、太一はリョーマの手を取ると「こっちです!」と小走りに駆け出した。




「あーっ!!」
二人を出迎えたのは千石の悲痛?な叫びだった。
「太一!お前、オレに断り無く越前君と手ぇ握ってんじゃなーい!」
「あわわ!ごめんなさいです!!」
「何でアンタに断り入れなきゃなんないんだよ」
千石は勢いに押されて謝る太一からリョーマを引き剥がすと、リョーマの細い体をぎゅうっと抱きしめる。
「つれないなあ〜、オレはこんなに越前君のことが好きなのに〜!」
「はあ?」
そのままキスでもしてきそうな勢いにリョーマがげんなりしていると、割って入る穏やかな声があった。
「はい、そこまでにしましょうね」
「え〜!」
千石が不満げな声を上げる先には、伴田が相変わらずの笑みを浮かべて立っていた。
「越前君、もうそちらは解散ですか?」
「さあ。何か部長と竜崎先生がお偉いさんと話してたから抜けてきた」
漸く千石から開放されたリョーマが事も無げに言い放つ。
「そうですか」
きっと今ごろ探しているだろうに、伴田は相変わらずニマニマと笑うだけである。
「それで、今日はどうするんです?」
「和食」
短く即答したリョーマに、伴田はそれを予測していたらしく「ええ」と頷いた。
「そうだろうと思って予約を入れておきました。あの店の煮物は特に気に入ると思いますよ」
「ちょ、ちょっと待った伴爺!」
「そうですよ!何で越前君と一緒にご飯食べに行くんですか!!」
さっぱり話の見えない千石と太一がきゃんきゃんと割って入る。騒々しい、と本日何度目かの溜息を付いたリョーマの隣で伴田は「まあまあ」と叫ぶ二人を宥めた。
「伴田さんは俺のパトロンなの」
お分かり?と言わんばかりの視線で二人を見るが、当の二人はリョーマに睥睨されたことなど気にも止まらぬくらい驚いていた。
「何―?!」
「えええええーー?!」
その二人の叫び声にリョーマは言うんじゃなかったと渋面になる。五月蝿いことこの上ない。
「ななな何で?!いつから?!僕という者がありながら!!」
「ウッソダーン!!ショックなのです!!越前君がそんなそんな趣味だったなんてーー!!」
「いつ俺が千石サンとそういう仲になったの!それにそういう趣味ってなに!!」
千石と太一の叫びに、空腹も手伝っていい加減むかっ腹立ったリョーマの怒鳴り声が加わる。
実はさっきから傍にいた南は「こいつらどうにかしてくれ」と片割れに泣き付くが、どうにかなど出来るわけも無く、二人して溜息を吐くしか出来ない。
「ご飯とか奢ってくれるって言うから奢ってもらっただけだよ!」
いや、君それ誘拐されたらどうするの。
そんな南たちのツッコミが届く訳も無く、おやおや、と伴田が呑気に笑っている。
「という事は、越前君が私と一緒に居てくれるのはお金だけですか?」
「っ!」
にっこりと告げる伴田に、ぐっとリョーマの言葉が詰まった。
「どうです?」
「〜〜〜好きでも無い人と食事になんて行かない!!」
「そうですか」
リョーマのやけっぱちな返答に、伴田は満足げに頷いてリョーマの髪をぽんぽんとあやすように撫でる。
「それじゃあ、行きますか」
「…うん」
つんと唇を尖らせてはいるものの、満更でもなくリョーマは頷くと伴田の人差し指を握って二人は並んで歩き出した。
「………壇太一君」
「…何ですか千石清純さん」
残された太一と千石はどう見ても「おじいちゃんと仲の良いお孫さん」にしか見えない二人の後ろ姿を虚ろに見送り、ぎぎぎ、と音がしそうなくらいぎこちない動きで顔を見合わせた。
「これからの御予定は?壇太一君」
「勿論無いですよ。千石清純さん」
何故逐一フルネームを最後に付けるのか。
そんなツッコミもさせて貰えない内に二人はにかーっと笑い、次の瞬間、物凄い形相で一気に駆け出していた。
「絶対邪魔してやるーー!!」
「二人きりになんてさせませんよーー!!」
二人が土埃を巻き上げて駆けていった地には、取り残された三人が所在無げに佇んでいた。
「……オレらも帰りましょうか……」
「あ、室町、居たんだ」
「存在感無かったから気付かなかったよ」
「…先輩たちに言われたくないです」
「「「…………」」」




(完)



*―*◇*―*
えっ?!これで終わりなの?!え?!ええ?!!(お前が言うな)
この年齢差はちょっと、いえ、かなり犯罪の域なのでは…というか、この年齢差で恋愛感情は成立するのでしょうか。します。(え?)
あー、どうも山吹×リョーマっぽくなりました。最初の方壇リョっぽかったし。
最近、忙しくてまともにSS書いてませんでした。何だか懐かしい気がしてなりません。そういやこの話の三分の二は12月初めには出来上ってたな…とか。(痛)
それにしても伴リョだなんて高槻以外に書いた方、いらっしゃるのでしょうか。書いた事ある方、是非お友達になりましょう。
高槻はもうこのままマイナーの花道を突っ走っていこうと思います。
次は…橘リョだとは思いますが、もしかしたら亜久津リョが先に来るかも……予定は未定です。(爆)
(2002/01/05/高槻桂)

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