TABLEAU



「………」
 跡部景吾は悩んでいた。
 それはもう青学の部長、手塚国光並みに眉間に皺を寄せて。
 別に目の前のサポーターが、この店と隣町の店ではどちらが安いのだろうか、とかそんな事ではなく。
「ねえ、それ買うわけ?ならさっさとしてよ」
 悩みの根元である少年が背後から声を掛けてくる。
「………」
 元々暇潰しで入っただけのスポーツ用品店だ。特に買うものはない。跡部は溜息を吐くと後ろを振り返る事無く付き従っている樺地に声を掛ける。
「……行くぞ、樺地」
「ウス」
「そう言えば、樺地ってカバディに似てるよね」
 店を出た途端、再び樺地の隣から聞えて来たその声に、跡部は本日幾度目かの溜息を吐いた。
「お前、いつまでついて来る気だ?」
 振り返り、樺地の腕に自分の腕を絡めている少年に問い掛ける。
「二人が家に帰るまで」
 当然の様にしれっとして答える少年に、跡部は先程の溜息から三分と経っていないと言うのにまた溜息を吐く。
「越前、お前今日は部活じゃねえのかよ」
「午前だけだよ。だからテニスバッグ持ってるんじゃない。見てわかんない?」
 少年、越前リョーマはそう言って鼻で笑った。
 小生意気なその口調。だが、その猫のような瞳に見上げられては何も言えず、跡部は「あっそ…」と気の抜けた返事を返すしかない。
 どうやらこの少年は樺地が大のお気に入りらしい。
「行くぞ、樺地」
「ウス」
 そして特に好きなのがこれである。
「可愛い〜!」
 跡部の一歩後ろを歩く樺地の腕にぎゅぅっとリョーマはしがみ付く。
 つい先日、青学に偵察に行ったのが運の尽き。こそこそと隠れて偵察をするつもりはなかったので、見つかったのは特に気にする事でもなかった。なのであれこれ言ってくる彼等に軽く手を振って挨拶をした。
 その時、つい手にしていた携帯電話を落してしまったのだ。
 そしていつもの如く、
「取れ、樺地」
 と告げるとこれまたいつもの如く「ウス」と短く返事をして樺地は落ちた携帯電話を拾う。
 桃城などは「下僕かよ」みたいな事を言っていたが問題はそれからだった。
「可愛い…!」
 なんとそれを見ていた一人であるリョーマがそれをもの凄く気に入ってしまったのだ。
 それ以来、暇あらば樺地にじゃれ付きに来るのである。
 当然、青学のメンバーも止めた。それはもう凄まじく。
 抜け駆け所がスキンシップすら許せないというのに、青学のアイドルが誰かのものになるなど言語道断。
 ましてや他校!ていうか寄りに寄って何故樺地?!
 そんなわけで青学男テニに大混乱を齎し、更に情報は流れ、他校でも騒ぎが起きたくらいだ。
 そしてその本人は何処吹く風。今日とてきっと周りが止めに止めるのを振り切って来たのだろう。
「ねえ樺地、もし跡部さんがオレを殴れって言ったら殴るわけ?」
 樺地の腕に擦り寄っているリョーマがそう言って樺地を見上げる。が、樺地はそれに答える事無くじっとリョーマを見下ろし、そして跡部へ視線を送る。
「んな事言わねえよ」
 跡部はがしがしと後頭部を掻きながら樺地の代わりにそう答える。
「んな事やったら青学の奴等が黙っちゃいねえだろ」
 第一、と跡部は二人に近寄ってリョーマの髪をくしゃりと撫でる。
「樺地はやらねえよ。お前には」
 跡部の言葉に、リョーマはじっと樺地を見上げ、そうなの?と問う。
 すると樺地は空いている腕を上げ、ぽんぽんとリョーマの頭を軽く叩いた。
「な?」
 そう言って跡部は苦笑する。
 言葉こそ無かったが、樺地が自分から人に触れるのは、少なからずその相手を気に入っている証拠であって。
 リョーマは二人を見上げると、にこっと生意気さも大人びた感も無い、純粋な笑顔を浮かべた。

「ありがと」

 道っ端で顔を赤くして固まる男二人。
 そして、幸せな王子が一人。

 王子様がお気に召したお相手は、なんと他国の衛兵。
 誰も予想しなかった、驚くべき事態。
 でも良いのです。

「れ、礼を言われるような事でもねえよ。な、樺地」
「ウス」

 王子様が、その極上の笑顔で笑ってくれるのなら、ね。






(END)
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
………どうやら俺の脳はとうとうおかしくなり始めたらしい…元からって意見は却下。
何だか乙女チックだわ…何故…。そして樺地×リョーマの筈がなんだか跡部と樺地×リョーマになっている…。別に良いけどね。(爆)
そして実はあったりする続編。跡部たちが青学に偵察に来た時の話ですね。要はリョーマが樺地に惚れた時のお話し。(笑)
樺地×リョーマ書いたのってもしかして俺が始めてとか…?や、世界は広い。きっと俺より先に書いたマイナー好きが居る筈だ…!!(最早祈りに近い)
という事でその存在を信じて俺は突っ走ります!!!(爆)
(2001/08/25/高槻桂)

戻る