熱血青春バカ!





「ああ、あとこれもっと…あ、これも美味そうだ」
「あ、あの…チーフ……」
夕刻、夕食の買い出しに来るおばちゃん達の波も一息つき、人気のまばらなスーパーのデザートコーナーには二人の男子高校生があれやこれやと買い物篭に入れていた。
「おお!これは新発売の…よし、これもだ」
否、買い物篭に放り込んでいるのは一人だけで、もう一人は何処と無くげんなりとした面持ちである。
「ん?どうしだ、逆ギレ大作戦成功がそんなに嬉しかったのか?」
「…何でもないっす」
痛い所を突かれて炉暖が黙り込む。それをいい事に青春はひょいひょいとまたゼリーやらプリンやらを放り込んでいく。
「ま、こんなもんだろう」
棚にあったデザート類全種類あるだろうその買い物篭の中身に炉暖は大きな溜息を吐く。
どうやら今月の小遣いはここで費えるようだ。
「さ、行くぞ」
青春はそれに全く気付いていないような素振りでさっさと炉暖をレジへと向かわせる。
「わかりましたよ…」
所詮、この人には叶わないのだ。
炉暖は涙を飲んでレジのおばちゃんに有り金のほぼ全てを手渡した。




「まあ、こうやって奢ってもらった事だし、夕飯でも食っていくか?」
「え?!いいんスか?!」
学校近くのスーパーを出て駅へ向かい、それぞれの路線へと向かおうとしていた時青春はそう声をかけた。炉暖が目を丸くして聞き返すと、青春はふふっと鉄扇を自分の口元に当てて笑う。
「まあ、今日はウチの親共は居ないからすずなの手料理になるがな」
「え?!すずなちゃんのですか?!」
まさか料理が出来るとは思っても見なかった炉暖である。何せこのチーフの妹だ。どんな料理を作るのか炉暖は興味が涌いてきた。
「お邪魔させて頂きます!」
無邪気に喜ぶ炉暖を尻目に、青春は鉄扇隠れた口元をにやりと歪めた。




「……チーフ、この為に俺を呼んだんですね……」
蕪木宅にて夕食を頂いた炉暖は、青春の自室でぐったりとしていた。
「美味かったろ?」
「美味しかったですが……」
意地悪くにやつく青春を尻目に炉暖は胃の辺りをゆっくりと撫でる。
出された食事は美味かった。だが、その量が半端じゃなかった。だからといってせっかくなずなが作ってくれたものを残すわけにはいかない。
(最後の方は根性で食ってたな……)
ベッドに凭れ掛かり、天井を見上げて息を付くとクリーム色の天井が映っていた視界ににょきっと青春の顔が映る。
「どわっ!」
勢い余って頭を跳ね上げそうになり、慌ててその衝動を抑える。
「チ、チーフ…?」
首をかくんと上げたまま炉暖が声を絞り出すと、青春がくすりと笑う。
「俺が何の思惑も無しにお前を呼んだとでも思っているのか?」
「は?お、思惑ですか?」
訳が分からないといった様子で目をぱちくりさせる炉暖の顔に自分の顔を寄せ、青春はその唇に口付ける。
「んっ?!」
じたばたとする炉暖を抑え込み、歯列を割って舌を差し入れる。
「ふ、ぅ…!」
押し入ってきたそれは生暖かく、口内を思う様蹂躪していく。抵抗しようと腕を青春の胸元に当て、力を込めようとするが舌を軽く吸われ、背中に電流が走ったような感覚に襲われ、力が抜けてしまう。
「…っはぁ……チー、フ……」
唇を放され、ぼやけた視界で青春を見上げると、青春はその濡れた口元の端を微かに吊り上げ、炉暖の首筋に顔を埋めた。
「チーフッ!」
マフラーを引き剥がされ、首筋に舌を這わされながらも炉暖は青春の肩を掴んで抵抗する。
「何ださっきから騒々しい」
しれっとして言い退ける青春に炉暖は「何だじゃありません!」と怒鳴る。
「俺、そんなつもりで来たんじゃないっす」
逃げ場が無い為じっと青春を睨み付けると青春は歯牙にも止めていない様子で鉄扇を取り出す。
「なら、何時になったらお前は触らせてくれるんだ?」
こつんと鉄扇の先を額に押し付けられ、炉暖は言葉に詰る。
青春の気持ちは当人がいともあっさり吐いた為知っていたし、炉暖自身嫌いではない。
だが、どうしても身体が拒否してしまうのである。
男だとか、そういう事ではなく、純粋にそういう好意に対しての抵抗感や不安から受け入れられないのである。
「い、いつって言われても…」
もごもごと口篭もる炉暖の反応に青春はくすりと笑うと炉暖からすっと身を引いた。
「まあ、ゆっくりと慣らしていくさ」
立ち上がり、にやりと鉄扇で扇ぎながらそういう青春に炉暖は顔を紅くしながら小さく謝罪する。
「さ、駅まで送っていってやる」
手を差し伸べられ、炉暖は一瞬躊躇ったがそれを握るとぐいっと引き上げられ、立ち上る。
「あ、すいません」
「行こうか」
握られた手に口付けられ、炉暖は更に顔を紅くする。そんな反応に満足した青春は、鉄扇を広げるとくつくつと笑った。






(END)
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
WJ44号掲載の第二十話「運勢最悪月間」を読んでふと書いてしまったSS。さて、これをUPするのはいつだろうね…ふふふ…。そしてなんでこんなマイナー書いてんだ俺。所詮マイナー道からは逃れられないという事か…!本当はね、エロが有ったのよ。でもね、その他のSSでエロまで書いてられっかという事で削除〜♪「これにはどうしてもエロが必要なのよ!」って時しか書きません。面倒だから。ホラ出た、高槻の面倒臭がり癖。あっは〜☆
(2000/10/14/高槻桂)

戻る