Non Ho L'eta





「シュウ殿…」
ジュンを呼び出す為に使いにやったクラウスが途惑いながら戻ってきた。
肝心の主の姿はない。
「ジュンはどうした?」
「それが…また見当たらないんです」
クラウスの言葉にシュウは小さく溜息を吐く。
「……またか」
最近、ジュンはよく姿を消す。やっと見つける頃には夕方だったり、夜だったりと様々だったが、その度に誰かに行き先を行っていけと言うのにも関わらず彼は知らぬ間に外出しているのだ。
「それで、一応城門の警護に当っている兵士に聞いた所、今日は一度もジュン殿を見かけてはいないそうです」
ならば、とシュウは立ち上る。
「ビッキーが何か知っているだろう」


「ええ〜っとぉ…クスクスへお買い物に行くって言ってました〜」
いつもの定位置にポケッと突っ立っていたビッキーに声をかけると、彼女はあからさまにビク付いて答える。
「……本当だな?」
「ハイ、そうです!」
シュウがもう一度聞くと、ビッキーは何度も肯くが先程から決してシュウと視線を合わせようとしない。寧ろ泳ぎっぱなしである。
「仕方ない……クラウス、あれを」
「はい」
シュウに促され、クラウスはビッキーの前に歩み寄ると持っていた小箱を静かに開けた。





その頃、肝心のジュンはと言うと……。
「ええ〜っと、ここを曲がって…二つ目の十字路を左……」
だだっ広く、豪奢な廊下をきょろきょろしながら歩いていた。
「…あ、ここを左…あ!」
角を曲がろうとした時、ジュンは小さく声を上げて近くの彫刻の陰に隠れる。
「………」
息を潜めてじっとしていると、先程までジュンが歩いていた廊下を数人の兵士達が歩いて行く。
「………ふう…」
兵士達が角を曲がり、見えなくなるとジュンはほっとして彫刻の陰から抜け出す。
「さっすがに見つかるとヤバイよね〜」
辺りを見回して、人影が無いのを確認すると再び廊下を進んでいった。
ジュンが今居る場所は、ハイランドの皇都ルルノイエの真っ只中。
何故ジュンが敵の巣窟に忍び込んでいるのかと言うと、総大将であるルカ・ブライトを暗殺する為でも、リーダー自らのスパイでもない。
(今日はルカ、暇だって言ってたよね♪)
暗殺どころか殺意や戦意など欠片も無いジュンは、ただ恋人に会いに来ただけなのである。
鼻歌でも歌いたくなるほど上機嫌なジュンは、覚えたての道順をたったかと駆けて行く。

ぼすっ

「ぅえ?!」
突然現れた人物にジュンは見事激突し、奇妙な声を上げる。
「イタタ…っげ!ルック!」
「『げっ』て君ねえ…」
その人物はまさかこんな所で会うなどと夢にも思わなかったルックである。
風の魔法で現れたのだろう彼は呆れ顔でジュンを見ていた。
「君さあ、敵の本部に堂々と忍び込んで何考えてるわけ?」
「な、何でここが…」
「ビッキーがブルーベリータルト二個で口を割ったよ」
そう、クラウスが持っていた小箱の中にはブルーベリータルトが入っていのだ。
ジュンはやられた、と額に手をやる。ビッキーが甘いものに弱いのを失念していた。
「何しに忍び込んでいるのかは知らないけどね、さっさと帰るよ」
ジュンの腕を取ろうとするルックからジュンは一歩退く。
「……叱られると分かってて」
「ジュン?」
「素直に帰るヤツが何処に居る!」
そう言うが早いかジュンは一気にルックの脇を駆け抜ける。
「な?!」
ルックが慌てて振り返ると、そこには脱兎の如く駆け、十字路を曲がるジュンの後ろ姿が見えた。



ジュンは走った。とにかく走った。
後ろから風に乗ったルックが追いかけてくるもんだからそれはもう必死に。
(魔法で追っかけてくるなんて卑怯だよ〜!)
たとえ兵士に見つかったとしても知るかと言わんばかりに駆け抜け、目的の扉に辿り着くとジュンは慌てて扉を開けて室内に身を滑り込ませ、廊下を見る。
ルックの姿はない。
(撒けたかな?)
ほっと行息を付いて扉を閉め、しっかりと錠をかけた。
「あ〜、びっくりした…」
扉に背を預けて息を吐くと、部屋の中から声が掛かる。
「ジュン?」
「あ!ルカ!」
ジュンはパタパタとルカに駆け寄り、その逞しい肉体にしがみ付く。
「どうした、兵に見つかったのか?そんなに慌てて」
そうじゃなくて、と首を振るジュンのその小さな唇にルカは自分の唇を重ねる。
「ん……」
ジュンは素直にそれを受け入れ、きゅっとルカの服を握り締める。

ジュンはこうやって優しく触れてくれるルカが大好きだった。
戦場で敵として垣間見る時は残忍で、冷酷なルカ。
でも、二人きりの時はその冷たさはなく、ぶっきらぼうではあるけれど、彼なりに優しく触れてくれる。

「ルカ、大好き」
唇が離れると同時にそう言うと、ルカは苦笑した。
「俺にそんな事を平然と言えるのはお前くらいなもんだ」
だって、とつま先立ちをして、今度は自分からルカにちゅっと口付ける。

敵だとか、そんなコト、どうだっていい
ルカが好きで、ルカも自分を特別に想ってくれるなら
そんな些細な事、ふっ飛ばしてしまうくらい

「ルカ、大好きだよ」





数時間後、結局は城に戻った所をシュウに捕まり、延々三時間ほど説教を食らう羽目になったのだが、それでもジュンのハイランド潜入は三日と置かず実行されていたらしい。






(END)
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嗚呼、バカップル……えっと、タイトルはイタリア語(だったか?)で「夢見る想い」と言う意味です。夢、見過ぎですね。すみません(>_<)いつもSSを頂いているジキル様へのお礼のつもりだったのですが……お呪いって感じですね。
それでは、これからもキリバン踏みまくっていくので(笑)よろしくお願いします♪
(2000/07/05/高槻桂)

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