好き過ぎる7のお題





どうやら君には依存性があるらしい
(ヤマネコ×カーシュ/クロノクロス)


※花咲く〜IF設定


ある日、ボートでセルジュ達と天下無敵号に戻ってきたカーシュはきょろりと辺りを見回した。
そしてそこに目的の姿がないと知るとむっと唇を曲げ、眉間に皺を寄せてもう一度見回す。
やはり、いない。
どういうことだと自分に割り当てられている客室へと足早に向かうが、その向かった先にも目的の姿は無かった。
むーっと機嫌を下降させながら船内を歩き回る。
時折かけられる声にも漫ろな応えを返しながらその姿を探す。
広い船内だ。目的の姿を見つけるには骨の折れる事だろう。
それでもうろうろとあちらこちらを歩き回っていると、次第に下降していた機嫌は不安を呼びはじめた。
もしかして、なんて言葉が頭を過ぎる。
もしかして、彼は去ってしまったのだろうか、と。
への字になっていた唇をきゅっと引き結んで、カーシュは不意に立ち止まった。
そしてくるりと踵を返すと来た道を戻り始める。
こんな気持ちになるのは、嫌いだ。
風呂にでも入ってさっさと寝てしまおう。
カーシュは客室へと足早に戻っていった。
「戻ったのか」
するとそこには何やら書類を片手にした猫科の亜人の姿があり、カーシュは思わず脱力した。
最近はヒョウ鬼の姿でいることの多い彼が珍しく亜人の姿でいる事すら今はどうでもいい。
「……どこにいたんだよ、ヤマネコ」
カーシュの気の抜けた問いに、ヤマネコは胡乱げな眼で彼を見た。
「大佐と共に星の塔の調査結果を纏めに行くと言った筈だが」
「……」
言われてみれば、昨夜そんな様な事を聞いた様な気もする。
「そうかよ」
むすっと返してベッドに腰掛けると書類を机の上に置いたヤマネコがその前に立った。
「何だよ」
「どうやらお前には依存症があるらしいな」
依存症、とカーシュは口の中で呟いて首を傾げる。
「はあ?」
ヤマネコは意味の分かっていないカーシュの腰を抱き寄せ、意地の悪い笑みを浮かべて囁いた。
「私への、な」
数秒の沈黙の後、理解したカーシュはぼっと頬に朱を上らせて顔を背ける。
「べっ、別にそんなんじゃねえよ!」
「ほう?」
幾ばか楽しそうな色を含んだ声に、カーシュは視線を逸らしたままぽつりと呟いた。
「……ダメなのかよ」
小さな小さな呟きに、ヤマネコはふっと微笑むとその場に片膝をついてカーシュを見上げた。
「いや、それでいい」
腕を伸ばせばするりとカーシュの腕が寄り添って抱きついてくる。
優しくその背を撫でてやればカーシュはほっとしたように強張った体を弛緩させた。
それでいい。
お前は私に依存して生きていけばいい。
永久に離れられぬくらいに。
そうして生きていけばいい。

 

***
ヤマネコ充が足りないと不機嫌になるカーシュ。

 


俺以外見るんじゃねえ
(火村×アリス/有栖川有栖)


その日、アリスは火村と共に街へ繰り出していた。
本屋をぶらりと巡って、その後に最近出来たというイタリアンの店で食事をするためだ。
「あたっ」
不意に傍らでそんな声が上がって火村は足を止めた。
「あ、すみません」
アリスにぶつかってしまった男が反射的に謝る。
「いや、こっちこそえろうすんません」
アリスが男にぺこりと頭を下げると、向こうも穏やかに笑って軽く頭を下げた。
「何やってんだお前は」
再び歩き出してそう呆れ交じりに言えば、アリスは全く気にしてないように見たか?と火村を見上げた。
「何がだ」
「今のお兄さん、えらいイケメンやったで」
「……だから何だってんだ」
「ああもイケメンやと人生得やろなあ」
しみじみと頷くアリスに、火村は一つ溜息をついた。


「あれ」
目的のイタリアンの店で食事をしていると、アリスがきょとんとして火村の後ろを見ていた。
「何だ」
つられて背後を振り返ると、そこには隣のテーブルにちょうど一組のカップルが座った所だった。
「さっきのお兄さんやん」
確かにカップルの片割れは先ほどアリスとぶつかった男であった。
向こうもアリスに気づいたらしく、僅かに目を丸くした後にまた穏やかに笑って軽い会釈をした。向こうも覚えていたらしい。
「えらい偶然やなあ。あのお兄さん、彼女さん迎えに行く途中やったんか」
先ほどぶつかった時は一人だったから恐らくそうなのだろうが、アリスにも火村にもそんな事は関係ない。
「あんだけイケメンのお兄さん連れとったら彼女さんも鼻高いやろな」
「知るか」
マグロのカルパッチョをつまみながら返すと、あれ、とアリスが火村を見る。
「君、何で不機嫌なん」
「知るか」
もう一度同じ言葉を繰り返して火村はワインを呷った。
そして口の中で小さく呟いたのだった。
「二人でいる時ぐらい、俺以外見るんじゃねえよ」

 


***
たまには嫉妬丸出しの火村でも。

 


相当侵食されていると思う、心の奥底まで
(ヤマネコ×カーシュ/クロノクロス)


※花咲く〜IF設定


相当浸食されていると、思う。この心の奥底まで、深く、深く。
凍てついた炎は、カーシュの暴かれたくない暗闇の底までもその赫い枝を伸ばして侵していく。
心底の泥を掬い上げ、その答えを知りたいかと問うてくる。
だがカーシュはそれを否定する。
否、と。
俺はもうその答えを知っている。だからもういいのだ、と。
ぽう、と闇の中に光が宿る。
ああ、彼が呼んでいる。目を覚まさなくては。


「目が覚めたか」
「……」
ぼんやりと見上げた先には亜人の姿をとったヤマネコ。
枕元に腰掛けた彼はゆっくりとカーシュの藤色の髪を梳いている。
その感触が心地よくてカーシュは再び目を閉じた。
「夢を、見た」
カーシュがぽつりと呟く。髪を梳く手は止まらない。
「炎が悪さをしたか」
そういうわけじゃない、とカーシュは眼を閉じたまま微笑んだ。
「あんたが傍にいてくれて、良かったって思っただけだ」

 

***
最初これ、炎×カーシュじゃないかと思って慌てて軌道修正した。

 


目が合うとどうしていいのかわからない
(ヤマネコ×カーシュ/クロノクロス)


※花咲く〜IF設定


不意に彼がこちらを向いたので、カーシュは反射的に視線を逸らした。
危ない危ない。
しかしまた気づくと彼を見ていて、ふと彼が偶然にかカーシュの視線に気づいてかこちらを見る。
また逸らす。この繰り返しだ。
打ち合わせを終えて部屋へ引き揚げる途中、背後から突き刺さる視線に居心地の悪い思いをしながらもカーシュは足早に歩き続けた。
「うわっ?!」
部屋に入るなり背後から抱き竦められ、カーシュは声を上げた。
「ななななんだよっ」
ホールドされた身を捩って背後の男を見上げると、腕の主であるヤマネコはくつくつと喉を鳴らして笑いながらカーシュの首筋に顔を埋めた。
「構って欲しかったのであろう?愛い奴め」
「ななななななに言って……!」
「あのように熱の篭った視線で見つめていてはセルジュ達にも気づかれるぞ」
「なっ、ばっ、そんっ……!」
カーシュの抗議はすべて正しく言葉にならず、ぱくぱくと口を開閉させるばかりだ。
「そ、そんなんじゃねえよっ」
「では何なのだ?」
かし、と首筋に牙を立てながら問えば、カーシュは甘く喉を鳴らして違う、と否定する。
「た、ただ、あんたと目が合うとどうしていいかわかんなくなるんだよっ」
「ほう?それは何故だ?」
「わ、わかんね……けど、気付くとあんたを見てて……でも、あんたと目が合うと心臓がばくばくするからヤなんだよ……!」
首筋への愛撫にひくりと震えながらの言葉にヤマネコは一層笑みを深くした。
これだからこの男はこんなにも。
愛しい。

 

***
ヤマネコ様に愛い奴めって言わせたかっただけです。

 


好きなのに、どうして傷つけてしまうのか
(カーシュ×キッド/クロノクロス)


「お前だって、お前みたいなじゃじゃ馬娘、一生貰い手なんてねえよ!」
それを口にしてしまったのは、売り言葉に買い言葉、うっかりとしか言いようがなかった。
一瞬驚いたように目を見開いたキッドに、カーシュがはっと我に返る。
「あ……」
まずい、と思ったその時にはキッドは頬を紅潮させ、きっとカーシュを睨み付けた。
「じゃじゃ馬で悪かったな!バカーシュ!」
踵を返して走り去ってしまったキッドに、しまった、とカーシュは顔を顰めた。
あんな事を言うつもりじゃなかった。
確かに売り言葉を吐いたのはキッドの方だ。けれどそれを買ってしまってはいけなかった。
キッドの事は嫌いじゃない。むしろ好きなのに、どうして傷つけてしまうのか。
がしがしと藤色の髪を掻き回しながら舌打ちすると、カーシュもまたキッドが去って行った方へと向かった。
「キッド!待てよ!」
木陰で座り込んでいたキッドはカーシュの姿を認めると再び踵を返そうとする。
けれどカーシュが呼び止めるとぴくりと動きを止めて立ち止まった。
「……何だよ」
背を向けたままのキッドに、カーシュは悪かった、と告げた。
「つい、カッとしちまった」
「……」
黙ったままのキッドに、その、なんだ、とカーシュが頬を人差し指で掻きながら言う。
「お前はそのまんまで良いと思う。その、なんつーか、その方がお前らしいっつーか」
じとっとこちらを振り返ったキッドに、だから、とカーシュは手を差し伸べた。
「……俺が貰ってやる」
「!」
驚きに見開かれた青の瞳に、カーシュは照れ隠しもあって憮然とした表情で何だよ、とキッドを見返す。
「俺じゃ不満かよ」
カーシュが手を差し伸べたままぷいっと顔を背けると、キッドはくつりと笑い、やがて堪えきれないと言う様に声を上げて笑い出した。
「お前、ほんとバカだな!」
「何だと?!」
それでも引っ込めようとしないカーシュのその手にキッドの小さく傷だらけの手が重なった。
「仕方ねえから貰われてやるよ」

 

***
一応プロポーズのつもりらしい。

 


あいつになんか近付くな
(火村×アリス/有栖川有栖)


「それじゃあ、今回もありがとうございました!」
ぺこりとお辞儀をして去っていく森下の後姿を見送りながら火村は傍らのアリスへと視線を向けた。
「……さっき、何話してたんだ」
「ん?何の話や」
年代物のベンツに乗り込みながら言えば、火村は珍しく言い難そうに言葉を詰まらせた。
「ん??」
「……さっき、森下刑事と二人で何か話してたろ」
するとアリスは漸く思い至ったらしく、ああ、と頷いた。
「森下刑事オススメのレストランを教えてもらっとったんや」
森下はどうやら最近食べ歩きにはまっているらしい。
しかしその成果を披露する相手がおらず、淋しい思いをしていた所にやってきたのがアリスだったというわけだ。
「今度一緒に連れてってもらうことになっとるんや」
うきうきとそう答えるアリスに、火村はやめておけ、とキャメルを咥えながら言う。
「お前が食われるぞ」
「?どういう意味や」
きょとんとしているアリスに、この男は本当に他人からの好意に鈍いと火村は思う。
なのに。
「あまり森下刑事には近づくな」
「君なあ、何でもかんでも嫉妬するんはようないで」
呆れたように言うアリスに、火村は呆れたいのはこっちの方だとフィルターを噛んだ。

 

***
あれ、どうやらうちの先生は嫉妬を表に出す方らしいよ??

 


多分自分は彼に心底惚れている
(野上×アリス/有栖川有栖)


野上は有栖川有栖という男を見るたびに思う事がある。
多分、彼は自分を心底苦手にしている事だろう、と。
そんな事は彼の笑い方を見ていればわかる。
樺田警部や遠藤に対しての笑い方は明るい。ころころと声を上げて笑うこともある。
けれど野上がその場に姿を現すと、彼はどこか控えめで曖昧な笑みを浮かべることが多い。
苦手です、と馬鹿正直にその柔和な顔に書いてあるのだ。
それがどうしようもなく、苦い。
辛くはない。ただ、苦い思いに駆られるのだ。
今まで野上が彼らにとってきた態度を思えば当たり前の事だったし、だからと野上はそれを改める気はない。
樺田警部も遠藤も彼に甘すぎるというほど甘いので、自分くらいはしかつめらしく振舞うべきだろうと思っているからだ。
けれど常に彼との間にある一線を意識してしまう。
他の人たちには取り払われているライン。
それが消えて彼が自分にあの朗らかな笑みを見せてくれる日は、一生来ないだろう。
だからせめて、野上はコーヒーを淹れる。
署にあるコーヒーは決して野上の納得のいくレベルのものではない。
けれど、その黒い液体に満たされた紙コップを渡す時、その時だけ彼は恐縮そうに、けれどほんの少しだけ嬉しさを滲ませて言うのだ。
すんません、ありがとう、と。
その瞬間、思うのだ。
ああ、多分、自分は彼に心底惚れている。と。
そう、想うのだ。

 

***
あーマイナースキーですみません。でも好きです、ツンおじな野上さん。



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