人形の恋五題





恋人たちの有効期限
(ヤマネコ×カーシュ/クロノクロス)


※花咲く〜IF設定。

一体いつまでカーシュ様とあの司書殿は恋人気分でいるんだろうか。ランスローは思う。
ランスローが騎士になってから五十年ほど経つが、夫婦間によくある「恋人じゃなくて家族」化現象が起きる気配がない。
その隙を狙ってカーシュを手中にせんと目論むランスローにチャンスが訪れる気配もない。
ぐぬぬ、と悔しげに歯を食いしばりながらランスローは今日もカーシュの元を訪れる。
「カーシュ様、ランスローです」
軽くノックをするといつもならすぐに入れ、と声がかかるはずだった。
だが応えがない。いないのだろうか。
ドアノブに手をかけてみると、抵抗なく回った。開いている。
「失礼します」
そっと扉を開けると、カーシュはベッドで眠っていた。
その枕元には司書が座り、その美しい藤色の髪を梳いていた。
髪を梳く手はそのままに、ランスローに向かってもう片方の手で静かに、と人差し指を口元にあてた。
「失礼しました」
ランスローは囁くような声でそう言うとそっと扉を閉めた。
そして来た道を戻りながら思う。
ランスローが知る限り、カーシュがああして無防備に眠れるのは司書の前だけだった。
完全なる信頼。それを見せつけられた。
「畜生、負けるもんか」
現時点で完全に敗北している事はさておき、ランスローはぶつぶつと司書への文句を言いながら自室へと戻っていった。

 


***
いつまでたってもバカップル。

 


あれは代替品
(マジック×シンタロー/南国少年パプワくん)


アスからシンタローが影だと告げられた時、マジックの脳裏にはシンタローと過ごした日々が蘇っていた。
金髪碧眼の一族の中の唯一の異端児。
だからこそマジックはよりシンタローを愛した。
心無い言葉を吐く親族もたくさんいた。それでもマジックはシンタローを愛することを止めなかった。
シンタローは、マジックのすべてだった。
だから取り換え子だとか、影だとか、血が繋がっていなかったとか。
そんなものは関係ないのだ。シンタローはシンタローであり、ずっとマジックの愛しい息子だった。
お前に代わりなどいないのだ。
だから戻ってこい。シンタロー。
パパの元へ、帰っておいで。

 

***
マジックは病的にシンタローを愛してる感じが好きです。

 


必要な身体と不必要な恋情
(ルーカン→カーシュ/クロノクロス)


※花咲く〜IF設定。


ランスロー先輩は懲りない男だと思う。
ランスロー先輩がカーシュ様と出会ってから三十年以上経っているらしいが、その間ずっとカーシュ様を好きで居続けているって凄いパワーだと思う。
最近では行動にこそ起こさないが、隙を虎視眈々と狙っているのは見え見えだ。
まあ、それを言うならカーシュ様と司書殿もいつまで恋人気分でいるんだろうという気もしないでもないが。
それにしたっていい加減懲りても良さそうなのに。
ランスロー先輩に勝ち目がない事なんて、目に見えているじゃないか。なのにランスロー先輩は諦めようとしない。学習能力がないのか。
いつもカーシュ様、カーシュ様、カーシュ様って、聞かされるこっちとしては少しばかりうんざりしているのだが。
司書殿がいるカーシュ様への恋情なんて、不必要じゃないか。
自分たち騎士に必要なのは心身の強さとカーシュ様への忠誠心。それだけで良い。
でなければ、きっと辛くなる。恋情なんて抱いてしまったら、手に入れたくなって、でも届かなくて辛いだけだ。
ランスロー先輩はそれすらも楽しんでいるようだったが、自分には無理だ。
そう、こんな気持ち、不必要なのだ。
カーシュ様のお人柄が好きだ。尊敬している。それだけでいいじゃないか。
そこに愛だの恋だの、手に余る。
だからこの気持ちは、不必要なのだ。

 

***
カーシュに恋するランスローと恋しないようにするルーカン。

 


心は切り離してゴミにポイ
(ダリオ×カーシュ/クロノクロス)


※花咲く〜零設定。


ダリオがリデルと婚約した。
二人からそう報告があった後、ダリオとカーシュは二人きりで少しだけ話した。
そこでダリオは声を詰まらせて言った。
お前は本当にそれでいいのか、と。
カーシュに何が言えたというのか。
形見のペンダントをはにかむ様に、そして嬉しそうにつけていたリデル。あんな風に喜ぶリデルを見たのは初めてだった。
幸せな、形。本来あるべき、理想の形。
それを壊せと言うのか。あの笑顔のリデルから、ダリオを奪えとでも?そんなこと、できるはずがない。
祝うしか、ないじゃないか。カーシュに言えるのは、それだけだ。
「……オメデトウ」
どうか、幸せに。

 

***
そう思う事しか、できない。

 


愛を夢見る人形
(キンタロー×シンタロー/PAPUWA)


いつか必ず殺してやる。
キンタローの胸に常にあったのは、シンタローへの憎しみだった。
体を奪われた事だとか、もうそんな事はどうでもいい。
とにかくシンタローをこの手にかけたかった。
そうすれば、きっとこの胸の渇きも癒せる。そう信じて。
けれど。
衝動のままに奪うように口づけて、組み敷いて、その体を貫いて。
シンタローは抵抗しない。むしろキンタローの背に腕を回して抱き寄せてくる。
この男の鼓動が、自分の鼓動と重なっていく。
この感情は何なのだ。全てを破壊してしまいたい情動がキンタローを動かす。
一層激しく腰を打ち付けると、シンタローの声が甲高く跳ね上がった。
ああ、この感情は、この感情は。
「シンタロー……!」
その最奥に熱を放ち、シンタローときつく抱き合う。
漸くわかった、この感情の名が。
「……俺を、愛してくれ」

 

***
髪切ったくらいのキンタローとシンタロー。



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