恋になる前に十題





友達は恋人未満か否か
(火村×アリス/有栖川有栖)

お前が好きだ、と思いつめたように囁いた火村にアリスは腕を組んで首を傾げた。
「……俺も好きやけど?」
「そうじゃないアリス。俺はお前にキスをして、裸に剥いて」
「わーわーわー!」
わかったからそれ以上は言うな、と赤くなった顔で火村を見た。
「なんで突然そんなこと……」
「突然なんかじゃないさ、アリス。俺はずっとそう思ってたんだ。お前が気付かなかっただけで」
火村の言葉にアリスはうーんと唸ってまた腕を組んで首を傾げた。
「せやけど俺にとっては突然や。青天の霹靂や。悪いけど、君をそういう風に考えたことはなかったんや」
「アリス、俺は」
何か言いかけた火村を遮ってけどな、とアリスは続ける。
「君がそう言うんなら考える。ちゃんと、考えるから」
それまで少し待っとって、と笑うアリスに火村はアリス、とその名を呼んだ。
「なんや?」
「抱きしめて、いいか」
「ええよ」
迷いのない応えに火村は腕を伸ばし、アリスを抱き寄せた。するりと腕が背に回される。
「きっと君は色んな覚悟をして俺に好きや言うたんやと思う。けどな、これくらいでどうこうなるほど俺と君の絆は脆くないんやで」
アホやなあ、君は、と腕の中でくすくすと笑うアリスに火村はそうだな、とその髪にこっそりキスを落とした。


***
火村に告白されたらアリスは真っ赤になって慌てるか、ケロッと受け入れるかのどっちかだと思う。

 


(されても構わなかったのに)
(野上×アリス/有栖川有栖)


有栖川有栖という人間は、きっと空間処理能力が低いのだと野上は思う。
一緒に街を歩いていると、よく人にぶつかる。注意力も低いのかもしれない。
その度に呆れ顔の野上にへらりと気恥ずかしそうに笑う。
「あんたはもう少し周りを見たほうがいい」
すると有栖川は恐縮そうにそうなんですけど、と指を弄りだす。そしておずおずと言うのだ。
「野上さんと一緒だと、つい、舞い上がって周りが見えへんくなってしまうんです」
すんません、と謝る有栖川に野上は一瞬目を丸くしたもののすぐにいつもの仏頂面に戻した。
そして二言、三言と言葉を交わしながら歩いていると、有栖川がまたぶつかりそうになっている。
咄嗟にその手を引いて避けさせると、彼はきょとんとして野上を見た。
「……余計なことをした」
咄嗟のこととはいえ、思わず握ってしまった有栖川の手は思っていたより硬かった。
何となく、この男の事だから女のような柔らかい手をしているかと思っていたが、ちゃんと男の手だった。
そんな事を考えているとぼそりと有栖川が何かを言った。
何だ、と問えば彼は何でもないです、と笑う。
手、繋いでも構わへんのに。
そう言ったように聞こえたのは、気のせいだと野上は思うことにした。
きっと、自分の願望が聞かせた幻聴だと。
そう思うことにした。

 

***
少し前進した、のか?いやそれよりアリスが乙女でどうs(ry

 


どうにかなってしまいそうだ
(ヤマネコ×カーシュ/クロノクロス)


※花咲く〜IF設定。


どうにかなってしまいそうだ。カーシュはそう蕩けた頭で考える。
四年振りにその姿を見せたヤマネコはカーシュを執拗に求めた。
離れていた期間を埋めようとするかのように回数を重ね、下半身はお互いの精液でどろどろになった。
それでもヤマネコは止めようとしない。カーシュの中のヤマネコ自身も衰えない。
どうにかなってしまう。カーシュはもう一度思う。
すべてがヤマネコに暴かれ、貫かれ、揺さぶられて。それでも止めてほしいとは思わないのだから自分も重症だ。
ヤマネコに求められている、というだけで心が満たされる。
けれど満たされた次から次へとまた欲しくなる。自分の貪欲さを見せつけられているようで少し恥ずかしい。
ああいっそ、どうにかなってしまった方が楽なのかもしれない。
それでもこのギリギリの所で踏みとどまっているのが良いのだ。
自分が自分のままで、ヤマネコはヤマネコのままで、別の存在だからこそ、愛しい。
たまには溶けて一つになってしまいたいと思うこともあるけれど。
やはり、今のままがいい。

 

***
何事も程々に。←え

 


君と僕との適切な距離
(火村×アリス/有栖川有栖)


冗談だった。冗談で言ったのだ。
「一緒に寝るか?」
なんて。きっとアリスは顔を赤くしてアホ言うな、と怒るだろう。
そう思ってた。なのに。
「ええよ」
アルコールでとろんとした目でアリスが頷く。
そして火村の布団に潜り込むと寝心地のいい場所を求めてもぞもぞと動いた。
「……マジか」
まさかの、腕の中に入ってきたアリスに火村は思わず呟く。
ぴとっとくっついて収まるべきところに収まったと言わんばかりに満足げなアリスの旋毛を見下ろしていると、おやすみ、とフニャフニャした声がした。
「……おやすみ、アリス」
これはもう甘受すべきだ、と判断した火村はそっとアリスを抱き寄せて自分も目を閉じた。
明日の朝が楽しみだ、と思いながら。

 

***
アリスはきっと固まる。

 


恋愛対象というものは
(火村×アリス/有栖川有栖)


恋愛対象というものは、これまで女性に対してのものだった。
少なくとも、アリスはそうだった。
しかし先日アリスは親友である火村に告白されたのだ。好きだ、と。
少し考えた後、俺もやで?と応えればそうじゃない、と否定された。
どうやら恋愛対象として、好き、らしい。
いつから、と問えば学生時代から、と答えが返ってきて思わずのけ反った。
十四年もよくもまあ。物好きなものである。
しかしちゃんと考えるといった手前、考えなくてはならない。
何を?今後の身の振り方?いやいや、まずは火村を恋愛対象として見れるかだ。
火村のことは好きだ。これに変わりはない。
けれど、恋愛対象。キスできるかってことだろうか。
……出来そうな気もせんでもない。
キスは大丈夫そうな気もする。じゃあ次は?裸になって抱き合えるのか?
ええと火村の裸は温泉行った時とかに見とるから、ええと……ええと……?
ところで、男同士って何したらええんやろ。触りっこやろか。
火村のに触れるやろか、俺。うーん、出来そうな気もせんでもない。
あかん、基本的に俺、火村のこと好きやから答えが出んわ。実践した方が早い気がしてきた。
「なあ火村、キスしてみよか」
あ、噎せた。

 

***
「友達は恋人未満か否か」の続きみたいな?

 


甘酸っぱいセンチメンタル
(野上×アリス/有栖川有栖)


野上さんはどう思うてるんやろ。たまに思う。
話しかけてくれるようになって、雑談も出来るようになった。
こないだなんて、野上さんお薦めの喫茶店に連れて行ってもらった。
何となく、この事は火村には秘密にしてる。内緒事みたいで楽しかったから。
最初は馴れん番犬が近づいてきてくれた、そんな微かな達成感というか、優越感というか。
向こうもきっと、野良猫でも手懐けているような、そんな気分だったんだろう。
それが話をするようになって、コーヒーの美味しい店に誘われて。
野上さんがくれた電話番号をメモした紙は今も大事に持っている。
何度かメールをした。電話はまだ怖かったからかした事はない。
野上さんのメールはいつも簡素だ。必要最低限のみ。らしいといえばらしい。
話をしていても、大抵は野上さんが聞き役になって俺がべらべら喋っとるんやけど。
好意は感じる。でなければせっかくの非番に俺を連れ出したりせんやろ。
せやけど、実際はどう思うてるんやろ。今でもまだ、俺は野良猫でしかないのだろうか。
そうじゃなかったら、いいなあ、なんて。
甘いやろか、俺。

 

***
たまにはアリス視点の野アリでも。

 


友情の有効期限
(火村×アリス/有栖川有栖)


「友情に有効期限なんてあらへん」
アリスはいつか俺にそう言った。
だから何があっても、いつになっても、君の友達だと。
その言葉にどれほど救われてきたか。同時に、どれだけ苦しんできたか。
アリスの言葉は楔となって俺の中にあった。
その言葉があったからこそ俺は耐えてこれたし、お前の傍らで笑っていられた。
その言葉があったからこそ俺は苦悩し、お前の傍らにあることが辛くなっていった。
友情に終わりはない。ならば、終わらせたいと、次の関係性へと発展させてしまいたいと願う俺は。
お前の友情を裏切っていることになるのだろうか。
この気持ちを告げればお前はきっと真っ赤になって冗談言うな、と怒るだろう。
冗談なんかじゃないんだアリス。アリス、俺を見ろ。
俺はこんなにお前を求めている。それに早く、気付いてくれ。
でなければ俺はきっと、お前の友情を手酷く裏切る。
だけどアリス、アリス。
俺から逃げないでくれ。それだけは止めてくれ。
どうせならいっそその声で止めを刺してほしい。
優しいまでに残酷な、その声で。
さいごの一撃を。

 

***
火村は難しく考えすぎだと思います。

 


越えたい、だけど変わりたくない
(野上×アリス/有栖川有栖)


越えてはならない一線、というものはどこにでもある。
色々な柵や法によって、それはたくさん線引かれている。
その中で、アリスにとって今一番身近な一線とは、野上刑事との間にあった。
話はするようになった、電話番号も交換した。喫茶店も行った。
そこからアリスは進めない。
今度、食事でもどうですか、なんて。怖くて言えない。
越えたい一線。些細な一線。だけど越えてしまったら何かが変わってしまいそうで怖い。
良い方へ、悪い方へ。どちらに転んだとしてもアリスは怖かった。
このままのぬるま湯の中に浸かるような居心地の良さを保っておきたかった。
どうしたものかとアリスが思案していると、不意に携帯電話が目に入った。
メールが一通。野上からだ。
メールに目を通したアリスは目を見開き、やがて嬉しそうに笑った。
きっと、悩んでいたのは、どちらも同じだったのだ。

 

***
少しずつ進展してってます。

 


もう戻れない場所を想う
(ヤマネコ×カーシュ/クロノクロス)


※花咲く〜2設定。


どさり、とベッドに横になってカーシュは小さく疲れた、と呟いた。
本当に、疲れた。ダリオの幻を見せられた精神的なダメージが大きい。
「ダリオ……」
今はもう亡きその姿を思い浮かべて名を呟く。どうした?カーシュ、なんて言って、笑ってほしかった。
けれど彼はもういない。もうあの頃には戻れない。
どうしてこんな事になってしまったのか。
全てはあの男がこの館に来てからおかしくなった。
亡者の島にグランドリオンが眠っているという情報も、ヤマネコからの情報だったらしい。
凍てついた炎もこのエルニドにあるのだと言っていたそうだ。
あの男は何を知っているのか。なんて、カーシュが考えた所で計り知れるはずもない。
カーシュにできるのは、ただ耐える事だけだった。
もう戻れない場所を想って、ただ耐えるだけだった。

 

***
短っ。

 


すべてが変わるよ、明日から
(野上×アリス/有栖川有栖)


きっと明日、何かが変わる。アリスはそう確信していた。
明日は、野上と二人で夕食を食べに行くことになっている。
何のことはない、ただ二人で食事をして、酒を酌み交わして、くだらない話をする。ただそれだけの事だ。
けれどこれは重要なポイントだとアリスは思っている。
明日の雰囲気によって野上との今後の付き合い方も変わってくるだろう。
もしかしたら今後も食事に誘ってくれるようになるかもしれない。
もしかしたら今後はお茶すら誘ってくれなくなるのかもしれない。
そんな期待と不安が綯い交ぜになってどうしていいのかわからない。
どうするもなにも、アリスはそのままの自然体でぶつかるしかないのだが。
それでもアリスは考えてしまうのだ。
これからも、こうして野上とメールをし、食事に行ったりできたらいい、と。
こんな些細なことで一喜一憂しているなんて野上は思いもしないだろう。
アリス自身、驚きだった。こんな風に誰かと過ごすことができるなんて。
火村ほどではないがアリスにも友人と呼べる相手は少ない。
だからだろうか、この久々に感じる人との繋がりを求める気持ち。
それが嬉しくて仕方がない。
早く明日にならんやろか。なんて、遠足前の子供みたいな気持ちでアリスは時計を見た。

 

***
火村にいつかはばれるよな。これ。



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