永遠の片想いで十の御題





これは、必然
(ランスロー→カーシュ/クロノクロス)


※花咲く〜IF設定。


ランスローは流れの傭兵だった。その場その場で契約し、護衛をしたりして生計を立てていた。
彼がエルニド諸島に足を踏み入れたのはその仕事上での事だった。
ある商人の護衛としてテルミナ港に入港し、僅かながら自由時間を貰えた。
初めて訪れたテルミナは、想像していたより発展していた。
エルニド諸島と言えば電気もろくに通っていない最南端の辺境地。その程度のイメージだった。
確かにパレポリやチョラスと比べれば田舎だった。けれど活気はあった。
近場の店で軽く食事を済ませ、雇い主の元へと帰ろうとしたその時、ランスローは彼と出会った。
藤色の長く美しい髪を背に流し、緋色の瞳を穏やかな笑みの形にかたどった彼は青リンドウを腕に抱え、初老の男性と何か話しながらランスローとすれ違った。
その瞬間、ランスローは確信したのだ。あの人が、俺の主となるべき人だ、と。
ランスローは流れの傭兵だったが、いつか誰か一人に主を定めて剣を捧げたいと常日頃から思っていた。
それに値する人物を、見つけたのだ。
勿論、この時点でランスローには彼がどういう人物であるかなど全く知らない。
けれど確信してしまったのだ。彼であると。
すぐさま踵を返すとランスローは青リンドウを抱えた青年の後を追った。彼らは街の重役なのか、すれ違う人々から声をかけられたり頭を下げられたりしていた。
やがて霊廟へと降りて行った彼らを追いかけて、ランスローもまた霊廟へと足を踏み入れた。そして一際大きな墓の前で彼らが祈りを捧げる姿をランスローは離れた場所から見守った。
声をかけてきたのは、青年の方だった。
「さっきから後つけてたみたいだが、俺らに何か用か?」
ランスローはその場で片膝を着くと、自分の意思を告げた。貴方の力になりたいのです、と。
だが、青年は言った。俺に尽くすんじゃなくて、このエルニドに尽くしてくれる奴は大歓迎だ、と。
遠まわしに断られたようなものだった。けれどランスローは額面通りに受け取った。
エルニドに尽くすことが貴方への忠誠となるのならば尽くしましょう、と。
そしてランスローは知る。彼がアカシア龍騎士団元帥であると。そしてその傍らにいた初老の男が先代の蛇骨であると。
ランスローはその場で騎士団に入団することを決意した。そして雇い主に違約金を払い、自由の身になると蛇骨館の門を叩いたのである。
本当に蛇骨館にやってきたランスローをカーシュは気に入ったようだった。
初めは当然の如く下っ端だったランスローはあっという間に隊長クラスになり、部隊を任されるようになり、やがて当時四天王だった一人を下して新たな四天王の一人となった。
その頃にはカーシュが凍てついた炎を身に宿しているという事は聞き及んでいた。なおさらに思った。やはり彼は自分の主たる人物であった、と。
ランスローはカーシュに心酔しており、それはもう忠犬の如くカーシュに付き従った。ランスローはカーシュへの好意を隠そうとしなかった。
しかし彼には心に決めた相手がいるという事で、ランスローの想いは受け入れられることはなかった。
ランスローは年若い事もあって同じ四天王のガレスやガラハドには可愛がられていた。しかしパーシヴァルとはあまり仲が良くなかった。短期間で成り上がったランスローを余りよく思っていないようだった。
だが、ランスローは気にしなかった。彼にとって大事なのはカーシュに気に入られることであり、パーシヴァルと仲良くする事ではない。
そしてランスローは入団して十二年後、その身の時を止めた。
ランスローはそれを後悔していない。これこそが、自分の選んだ人生なのだと誇りを持っていた。
あの日カーシュと出会ったのは、必然だったのだと。
世界の終わるその時まで、彼に剣を捧げて生きていくのだと。
そう、決めていた。

 

***
オリキャラのランスローとカーシュの出会い。

 


叶う筈もない想い
(パーシヴァル→カーシュ/クロノクロス)


※花咲く〜IF設定。


パーシヴァルはチョラス国の王族として生を受けた。
チョラス国初代国王の弟の息子であった為、正統なる王位継承権を持つ王子だった。
チョラス国王と同じ銀の髪を持ち、容姿にも恵まれた彼は何不自由なく育った。
しかし彼は十八歳になると同時にその地位を捨てて出奔した。宮廷内の権力争いに飽き飽きしていたのだ。
出奔してからはあちこちを旅した。剣の腕には自信があったので何でも屋として傭兵紛いの事をしながら生計を立てていた。
当時彼がいたのは大国パレポリだった。この大都市ならばその身を隠すのにちょうどいいと考えたからだった。
そんなある日、金もある程度貯まってきた事だしまたあちこちを旅してみるのもいいかもしれない、と思うようになった。
そこで目を付けたのがエルニド諸島だった。未だ未開の地も多いといわれるエルニド諸島。冒険心を擽られた。
初めて訪れたテルミナの街は活気に溢れていた。温暖な気候、魚介類の豊富な品ぞろえ。パレポリとはまた違って楽しかった。
最初は宿に泊まっていたパーシヴァルも、次第に資金が底をついてくる。
そこで目を付けたのがアカシア龍騎士団だった。衣食住完備で賃金も貰えて万々歳。そう軽い考えで入団した。
そこでパーシヴァルは出会った。カーシュという人と。
蛇骨総統閣下の右腕と言われる生ける至宝、凍てついた炎をその身に宿した男。
彼は誰に対しても気さくに話しかけた。新人だったパーシヴァルに対しても同じだった。
一人毛色の違うパーシヴァルを彼は気にかけていてくれたようだった。
それから四年をかけて四天王にまで上り詰めたパーシヴァルをカーシュは手放しに褒めた。嬉しかった。あのカーシュ様が、私を。
四天王になってからはカーシュと会う機会も増え、四天王とカーシュで酒を酌み交わすこともあった。
けれどそれから一年後、ランスローという男が入団した。彼はカーシュが目的である事を隠そうともしなかった。
パーシヴァルはそれが不快だった。なぜ不快であるかはわからなかったがとにかく不快だった。
ランスローはあっという間に四天王にまで上り詰め、パーシヴァルと同じ立場となった。それも気に食わなかった。
ある日ランスローは嬉しそうに告げた。十年後、俺はカーシュ様の騎士になるんだ、と。
その瞬間理解した。この不快感は、嫉妬であると。
カーシュに対して明け透けに好意を表せる事も、それを受け入れられた事も、全てが妬ましかった。パーシヴァルはカーシュに恋をしていたのだ。
そしてもう一つ、理解した。自分はいつかカーシュを置いて逝くだろう。ランスローの様にはなれない。
ランスローの後に自分も騎士になりたいだなんて、プライドの高いパーシヴァルには口が裂けても言えなかった。
叶う筈もない想いを胸に、パーシヴァルは今日もカーシュの傍らに立つ。
せめてこの身が朽ちるその時まで、彼の傍らに在ろう。そう誓いながら。

 

***
パーシヴァルは当初そんなにカーシュに入れ込んでないキャラの予定だったのですが…おかしいなあ。

 


今、この瞬間だけでも
(ランスロー→カーシュ/クロノクロス)


※花咲く〜IF設定。


ランスローはカーシュの部屋の前に立ち、軽くノックをした。
今日の報告書を持ってきたのだが、返事がない。
「カーシュ様?」
居ないのだろうか、と思いながらノブに手をかけるとくるりと回った。開いている。
「開けますよー?」
そうっと扉を開けて中を覗くと、そこには執務机に突っ伏して寝ているカーシュの姿があった。
ランスローはそうっと中に体を滑り込ませ、静かに扉を閉めた。
気配を殺してそろそろとカーシュに近づく。カーシュの寝顔をじっと見つめる。初めて見た。
今、この瞬間だけでもこの人が手に入ったらいいのに。
その髪を触ってみたくて、思わず手が伸びる。
「!」
それを遮ったのは、カーシュの使役であるクローセルだった。
何?と言わんばかりにカーシュとの間に現れたクローセルはじっとランスローを見つめる。
「わ、悪かったよ。触らないから、見てるくらい良いだろ?」
ひそひそとクローセルに話しかけると、クローセルは理解したのかしないのか、またカーシュの影の中へと戻って行った。
ほっと一息吐くと同時にカーシュが微かに呻き、目を覚ました。
「……あれ、ランスロー?俺、寝てたのか?」
ああ、もう少し見ていたかったのに。そう思いながらランスローはそうですね、と微笑んだのだった。

 

***
ランスローは当初もっと重苦しい雰囲気のキャラだったのですが、気付いたら軽い軽い。おかしい。

 


あの子は彼のものだから
(高良→聖/封殺鬼)


彼のことが嫌いだった。
いつも陽気で元気すぎるほど元気で、前向きで。
どうしてこんな人が鬼になったのだろうと思うくらい。
そんな彼のことが、嫌いだったのだ。
自分にはないものをたくさん持っていて、眩しくて。
もしかしたらこれが羨ましいという感情なのかもしれない、と高良は思う。
こんな人が傍に居てくれたら、もっとこの世界は楽しいものに思えたかもしれない。
けれど駄目だ。彼は片割れのものだから。
あの冷静沈着を体現したような鬼の、片割れだから。
彼らは二人でひとつの絵を描くように生きてきた。
そんな彼らを引き離すなんて、できっこない。
そんな事せんでも俺らはお前のことが好きやで。
きっと彼ならそう言ってくれるだろう。けれどそれでは意味がないのだ。
二人からの好意が欲しいわけじゃない。貴方からの好意が欲しいのだ。
そう言ったところで彼は理解しないだろう。
だって、貴方は彼のものだから。

 

***
好きだけど嫌い。嫌いだけど好き。僕だけを、なんて叶わない。

 


きみが悲しむことは全て
(隆仁→聖/封殺鬼)


今だから言うんやけど、と前置いて聖は言った。
「俺、隆仁とキスしたことあるねん」
「……唐突だな」
弓生が返答に困ってそう返すと、そうなんや、と聖はうんうんと頷いた。
「今唐突に思い出してな。そういやそんな事もあったなあと思て」
何時の話だ、と問えばいつやったかなあと首を傾げている。
「あいつが二十歳んなる前やったんは確かや。俺のことが好きや言うとった」
どうしてこうも自分の片割れは人を誑し込むのが得意なのだろう。無自覚なのが厄介でならない。
「それが苦しそうでなあ。どうにかできんやろか、と思ったんや。そうしたら一回だけでええからキスさせてくれ言うてな。そうしたらきっぱり諦める言うて」
「流されてキスしたわけか」
「まあ、身も蓋もない言い方するならそういうこっちゃ」
せやけど、あれで良かったんやろか、と片割れは呟く。
「あれ以来、隆仁は俺と会わんようになった。俺も無理に会おうとはせんかった。あれが最後になるなんて、思いもせんかった」
「……」
弓生はこの片割れの落ち込んだ声と表情に弱かった。どうにかしなくては、という気分になってくる。
けれど気の利いた言葉など浮かばず、そうか、とだけ返した。
恐らく、隆仁は最期まで聖を想っていたのだろう。だからこそ、最期まで会わなかった。
「……看取りたかったのか」
「別に、そこまでは思うてへん。それは達彦の役割や。せやけど、もういっぺんくらい、会って話がしたかった」
一度くらい、酒を酌み交わしてみたかった。
弓生は聖を抱き寄せると子供にするようにその頭を撫でた。
「泣いてやれ。それが手向けとなる」
「ユミちゃんのシャツが濡れるで」
「構わんさ」
涙くらい、いくらでも受け止めてやる。
お前が悲しむことは全て、俺が受け止めてやる。
だから今は泣け。彼の者を思って。
思いの丈を込めて、泣いてしまえばいい。

 

***
隆仁は出番自体は少なかったけれどおいしいキャラだと思ってます。

 


もしも……なら
(高良→聖/封殺鬼)


僕はね、本当はどうでもよかったんです。
この世界がどうなろうと、どうでもよかった。
けれど僕には使命があった。定めがあった。
これがお仕事ですから。そう言って全てを納得させた。
けれど貴方は違った。
貴方にも使命があって、定めがあるはずなのに。
いつも自由で、奔放で、眩しくて。
羨ましかった。そんな風に生きれたらどれほど。
貴方は否定するだろうけれど、貴方が鬼であることが、とても、とても。
何と言ったら良いんでしょうね。この気持ちは。
これも、羨ましい、と言っていいのでしょうか。
ねえ、戸倉さん。もしも、生まれ変わりというのがあるのなら。
もう一度、貴方に会いたいです。
きっと貴方は変わらずそこにいるだろうから。
また、貴方の手料理が食べたいです。
そんな事を思うなんて、どうかしてますね、僕。
でもね。本当に嬉しかったんです。貴方が僕をイイヤツだって言ってくれて。信じてくれて。
だから、もし次の生があるのなら、また貴方とお会いしたいです。
それまで、さようなら。

 

***
高良の死は読んだ当初衝撃でした。

 


それでも、どうしても
(火村→アリス/有栖川有栖)


アリスが俺の事を大切に思っていることは知っている。
俺の弱さを知ってなお、傍に居てくれる。それはありがたい。
けれど、俺が欲しいのはそれじゃない。そんな綺麗な関係が欲しいわけじゃない。
もっと貪欲で、見苦しい感情だ。そこに、アリスを引きずり込みたい。
俺と同じところまで堕ちて、染まってほしい。俺を俺と同じ意味で求めてほしい。
それがどうしようもないエゴだとわかっている。
それでも、どうしても俺はアリスにこの感情を知ってほしい。
お前が欲しいんだとこの身を焦がす想いを。
どうか、受け入れてほしい。

 

***
共に溺れたい。

 


誰にも告げられない
(パーシヴァル→カーシュ/クロノクロス)


※花咲く〜IF設定。


最近調子が悪いな、とガラハドに指摘されてしまった。
ナイフ捌きに迷いがある、とはガレスの言葉だ。二人はよく見ている。
研ぎ終わった二本のタガーナイフを鞘に納め、パーシヴァルは溜息を落とす。
理由はわかっている。先日のランスローの言葉に未だ惑っているのだ。
ランスローがカーシュの騎士となる。
といっても今すぐというわけではなく、十年の猶予を与えられたそうだが。
ランスローの事だ、十年経ったくらいでは考えは変わらないだろう。
ならば、ランスローがカーシュの騎士なることは半ば決定したようなものだ。
羨ましくない、と言えば嘘になる。羨ましかった、妬ましかった。自分だって、もっとカーシュの傍に居たい。
けれどこれは誰にも告げられない思いだった。パーシヴァルの性格が、そうさせた。無駄に高いプライドが許さなかった。
「パーシヴァル」
ノック音と共にかけられた声にパーシヴァルははっとする。どうぞ、と返せば扉が開いてガラハドが姿を現した。
「どうしたんです、こんな時間に」
「いやな、調子が悪いようだからどうしたもんかと思って」
人の好い笑みを浮かべるガラハドに、大丈夫です、とパーシヴァルも苦笑した。
「ちょっと調子が出ないだけです。すぐに治ります」
「だといいが……ランスローの事はあまり気にするな」
ぴくりとパーシヴァルの頬が引きつり、笑みが固まる。
「あれは少し浮かれているだけだ。もう何日かすれば治まる」
「別に、気にしてなど……」
なあ、パーシヴァル。ガラハドは優しく言う。
「俺はランスローのようにカーシュ様一人に剣も全てをも捧げることはできない。だがな、カーシュ様のお役にたちたいとは思っているよ」
「……」
「俺たちは俺たちなりにカーシュ様のお役にたてればいいんじゃないのか?」
パーシヴァルは暫く沈黙した後、そうですね、とため息を吐いた。
どうしようもなく、もどかしかった。

 

***
パーシヴァルはタガー二刀流です。

 


我慢など苦にもならない
(鬼同丸→雷電/封殺鬼)


体内に打ち込まれた楔が傍若無人なまでに鬼同丸を追い立てる。
だらしなく開かれた口からは言葉にならない音ばかりが漏れた。
それすらも奪おうとするかのように口づけられ、鬼同丸は喉を鳴らした。
雷電に抱かれるのは、初めてではない。
主を失って以来、雷電は時折どうしようもない空虚に襲われ、ふさぎ込むことがあった。
そして鬼同丸を手酷く抱くことでそれを埋めようとしていた。
鬼同丸はそれでもいいと思った。自分を抱くことで雷電の心が少しでも安らぐのなら。
鬼同丸は雷電が好きだった。大切だった。だからどんな形であれ求められるのは嬉しかった。
例え雷電が鬼同丸が想うように鬼同丸の事を思っているわけではないとしても。
それでも嬉しかったのだ。
貫かれる痛みも、手酷く扱われることも、苦にもならない。
全てが終わった後に雷電はいつも鬼同丸に謝る。酷く後悔した表情で、鬼同丸に謝るのだ。
その表情を知っているからこそ、どんな扱いをされても許せてしまう。
そして鬼同丸は繰り返し彼に言うのだ。ずっと傍に居る、居なくなったりしない、と。
その言葉に応えが返るまで。ずっと。
言い続けるのだろう。

 

***
雷電も鬼同丸の事ちゃんと好きだけどまだ意思の疎通がうまくいかない時期。

 


どうか、幸せに
(パーシヴァル→カーシュ/クロノクロス)


※花咲く〜IF設定。


パーシヴァルはアカシア龍騎士団を引退してからはテルミナの片隅に居を構え、そこでひっそりと暮らしていた。
妻は息子が幼いうちに病に奪われた。当時騎士団に居たパーシヴァルが死に目に立ち会えただけ、よかったのかもしれない。
息子のルーカンは家政婦が育て、パーシヴァルがテルミナに顔を出すのは休みの日だけだった。
そんな環境でもルーカンはすくすくと育ち、やがては父親と同じアカシア龍騎士団の門扉を叩いた。
ルーカンは当初一般騎士と同じく剣を使っていたが、小隊長になってある程度自由の利く身になるとチャクラムを使用するようになった。
それからのルーカンの成長は目覚ましく、あっという間に大隊長へと成長した。
そして父親であるパーシヴァルが一線を退き、空いた四天王の座に収まった。ルーカンが二十歳も半ばを過ぎた頃だった。
パーシヴァルは引退すると暇つぶしにと絵を描き始めた。これがなかなかの腕前で、画商がそこそこの値段をつけて買い取ってくれた。
そうして生計を立てながら細々と暮らしていたある日、カーシュがパーシヴァルの住居へとやってきた。
そして言った。ルーカンが自分の騎士になりたいと言っている、と。
パーシヴァルにルーカンを止める言葉は持たなかった。ただ、やはり親子なのだな、と思った。
今なら、きっと言える。パーシヴァルは口を開いた。
「私はね、カーシュ様。ずっと貴方の騎士になりたいと思っていました」
だが妻を娶り子を生し、この年になってわかった事がある。
「年をとれることは、幸せなことなのだと、気付いてしまった」
それでいい、とカーシュは微笑った。それこそが、人としてのあるべき姿なのだ、と。
「ルーカンにそれを捨てる覚悟があるのなら、私は止めません」
ルーカンにはルーカンの人生がある。それはルーカンにしか決められないことなのだ。
カーシュはそうか、と頷くと立ち上がった。そしてパーシヴァルの前に立つと手を差し出した。
パーシヴァルはその手を取り、ルーカンをよろしくお願いします、と告げた。
「パーシヴァル。ルーカンは責任を持って預かろう。どうか、残る人生、幸せに暮らしてくれ」
「ありがとうございます。勿体なきお言葉にございます」
手が離れ、カーシュが踵を返して部屋を出ていく。
その後ろ姿を見送って、パーシヴァルは一筋の涙を零した。
「カーシュ様も、どうか、お幸せに……」

 

***
ルーカンも父親に似て銀髪で容姿端麗です。



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