永遠の恋人へ十の言葉





初めてのキス、最期のキス
(隆仁×聖/封殺鬼)
聖の事を恋愛対象として好きだと気付いたのは、隆仁が高校生の時だった。
一度自覚してしまえば後は想いが募るばかりだった。
それから一年悩んで、とうとう隆仁は聖にその想いを告げた。
聖は目を丸くした後、少しだけ困ったように笑ってありがとうな、と言った。
受け入れて貰えるとは思ってなかった。それでも遠まわしの拒絶の言葉は胸に刺さった。
弓生がいるから?と問えば、更に彼は困った表情をした。
「確かに俺にはユミちゃんがおる。それもあるけどな、お前は神島を継ぐ人間や。俺に構っとる暇はないはずやで」
それでも好きなのだ、と駄々を捏ねる子供の様に言って聖を困らせた。
そして言った。一度だけでいいからキスしてもいいか、と。そうすればきっぱり諦める、と。
聖は少しの間唸っていたが、やがてわかった、と頷いた。
「それでお前の気が済むんなら一回くらいしたる」
そうして交わした口づけの後、隆仁は一人誓った。
必ず鬼使いになると。そして、二人を守るのだと。
聖はきっと、そんな事気にしなくても良いと笑うだろう。けれど。
必ず二人を守るのだ。隆仁はそう心に決めたのだ。

 

***
「きみが悲しむことは全て」とリンクしてます。

 


気が付いた時には、もう
(弓生×聖/封殺鬼)


いつから、なんて聞かれても困る。
気が付いた時には、もうお互いがお互いに並々ならぬ執着を抱いていた。
弓生は聖がいないと生きていけなかったし、聖も弓生がいないと生きていけなかった。
そうなってしまったのは、仕方のないことだとお互いに思っている。
だからこそ、今までやってこれたのだとも思っている。
片割れを何よりも欲したからこそ、今まで生きてこられたのだと。
「なあ、ユミちゃん」
聖はソファにころんと横になり、片割れの腿に頭を乗せて見上げた。
「何だ」
「俺な、あの時ユミちゃんと一緒に死んでもええって思ったんや」
でも、と視線を伏せて聖は微笑う。
「一緒に生きとるって、もっとええな」
弓生は広げていた新聞紙を畳むとさらさらとした聖の髪をそっと梳いた。
「……そうだな」
これからもきっと、二人は変わらない。時代が変わり、移ろっていっても。
二人は、二人でいるのだろう。

 

***
あと千年先だって、一緒。

 


健やかなる時も病める時も
(火村×アリス/有栖川有栖)


「珍しいな、君が熱で倒れるやなんて。鬼の霍乱やろか」
訪れるなり第一声がそれで火村は布団の中で深い溜息を吐いた。
「ご覧のとおりでお前の相手はできないぞ」
いつもより低く掠れた声にアリスは構へんと勝手知ったる足取りでキッチンへと向かった。
「アリス?」
「君の事やから飯もろくに食べてへんのやろ」
作ったる、とキッチンに立つ姿に、お前料理できたのか、と問いかければ失礼な、と憤慨した声が返ってきた。
「俺にだってお粥くらい作れるで。何せ温とめるだけやからな」
「インスタントかよ」
「うるさいやっちゃなさっきから。細かい事気にしたらあかんで」
ぐつぐつとお湯の沸騰する音を聞きながら、火村はぼんやりと天井を見上げる。
風邪なんてひいたのはいつぶりだろう。久しぶりすぎて体が軋んだ音を立てている。
ぼんやりとしていると温めたお粥をお盆に乗せたアリスが戻ってきた。
「ほら、食べて薬飲み」
仕方なくのそりと身を起こす。卓袱台に置かれたそれは温かな湯気を立てていた。真ん中にちょこんと乗せられた梅干しがその存在を主張している。
「……いただきます」
食べながらふと思う。
「そういえばアリス、お前どうして来たんだ」
元々今日会う約束はしていた。だが今朝方にキャンセルの連絡はしておいたはずだ。
するとアリスは当然のように言った。
「君がしんどい思いしとんのなら、看病してやるのが親友やないのか」
当たり前のように言うその様に、火村はくすりと笑って粥を啜った。

 

***
雨の中脱走したモモでも探してたんじゃないんですかね。

 


振り返ったその先に
(ヤマネコ×カーシュ/クロノクロス)


※花咲く〜IF設定。


ヤマネコとケンカした。
ケンカ、と言っても一方的にカーシュが怒ってヤマネコを避けているだけなのだが。
原因は些細なことだった。今思えば何であんな事で言い合いになってしまったのか。
けれど起こってしまった事は仕方ない。問題は、それからどうするかだ。
謝らなければならない。そう思うのにカーシュの足は図書館から遠ざかる。
ふとその時、背後でざわめきが起こってカーシュは立ち止った。
振り返ったその先に、ヤマネコがいた。
滅多に階下には降りてこない彼の姿に一般騎士たちがざわめく。
彼はそんな声には頓着せず、真っ直ぐにカーシュを目指して歩いてくる。
そしてあと数歩で腕が届く、という所でヤマネコは足を止めると、すいっと右手を差し伸べた。
「カーシュ」
「……!」
その声に、カーシュは堪らない気分になる。
怒鳴ってしまった後悔とか、避けてしまっていた後ろめたさとか、そういう感情が渦巻いてどうしていいのかわからなくなる。
だが、ヤマネコはただ手を差し伸べる。この手を取れ、と。
カーシュは数歩前に歩みだすとそろりと右手を持ち上げてその手を取った。
「……すまねえ。つい、かっとした」
絞り出すように低く呟くと、構わん、と頭上から応えが返ってくる。
「たまにはそういう事もある」
穏やかな声に、無性に口づけたくなった。
だがここが廊下であることを思い出して、カーシュは恥じ入るように顔を伏せた。

 

***
くだらない事でも本人は真剣なんです。多分。

 


離れている時間
(ヤマネコ×カーシュ/クロノクロス)


※花咲く〜IF設定。


ヤマネコは今、このエルニド諸島にはいない。本の仕入れだとか言って、一週間前から大陸へ行っていた。
こういう事は度々あった。蛇骨館にある図書館の蔵書量は多い。しかしそれらを全て読みつくしてしまったヤマネコは更なる知識の吸収を求めて大陸へと向うのだ。
「カーシュ様、次はこちらの書類に目を通していただきたいんですけど」
ランスローの声にはっとする。そうだった、今は執務中だった。
「ああ、よこせ」
受け取った書類に目を通しながらも考えるのはヤマネコの事だ。
今何をしているのか、今はどのあたりに居るのか。
凍てついた炎の力を使えばコンタクトを取ることも可能だったが、用もないのに繋いでも仕方がない。
「……カーシュ様、今日はこの辺にしておきましょうか?」
「は?どうかしたのか」
どうかしたのはカーシュ様でしょう?とランスローが苦笑する。
「先程からぼんやりとして。その書類だって頭に入ってませんよね」
失礼な、と反論しようとしたが頭に入ってないのは事実だったのでカーシュは言葉を詰まらせた。
「司書殿ならもうすぐ帰ってきますよ」
「え……」
「執務が終わるまでお知らせしないでおこうと思ったんですが、先刻、司書殿を乗せた船がテルミナ港に入港されたそうですよ」
伝令から報告が来ました。そう苦笑する。
先程伝令役がやってきたのはその事を伝えに来たのか。カーシュは得心する。
「さ、気掛かりが消えた所で、もう一仕事しましょうね」
ずいっと書類を差し出され、カーシュは渋々とそれを受け取った。

 

***
まだルーカンが騎士になるだいぶ前。

 


守りあえる、そんな関係でいたい
(ヤマネコ×カーシュ/クロノクロス)


※花咲く〜IF設定。


守りあえる、そんな関係でいたい。カーシュは常々そう思っている。
だが、守られてばかりだと痛感する今日この頃。
先日は麻酔で眠らされて誘拐されそうだったのをランスローと共に助けてもらった。
あれは不覚としか言いようがない。もう少し瞬時に機転が利けば倒れる前に蛇骨館まで空間を跳べたはずだ。
カーシュは守られてばかりというのは性に合わないと思っている。
確かにヤマネコは傍から見れば一介の司書だ。狙われる理由がない。
それに比べてカーシュは違う。秘宝と呼ばれる凍てついた炎をその身に宿しているのだから狙われる事はよくある事だ。
それが不満というわけではない。カーシュとてそれだけの代物を手に入れてしまったのだという自覚くらいはある。
けれど守られてばかりで何も返せないのが口惜しい。
そうヤマネコに訴えると、彼は呆れたように溜息を吐いた。
「私はお前に守られているよ」
「どこがだよ」
「私はお前という存在が私という存在を許してくれているから存在していられる。お前が私を許す限り、私はお前に守られている事になるのだよ」
よくわからない理屈だとカーシュは思う。けれど、そうならば。
この力を手に入れた事、それ自体が彼を守ったのだ。

 

***
カーシュから自動的に供給を受けてヤマネコ様は生きてます。

 


信じてる
(高良×聖/封殺鬼)

 

「どうしてこんなに良くしてくれるんですか?」
問いかけに、聖はきょとんとして小首を傾げた。
「俺、なんかしたったか?」
「ええ、美味しいご飯を食べさせてくれたり、パーティーに呼んだりしてくれました」
「ユミちゃんに作るついでや。大勢で食べた方がうまいやろ」
どうやら本人には特に自覚はないらしい。
「僕に良くしても得なんてありませんよ」
「別に損得でお前に飯食わせてるんとちゃうし」 
「僕、見返りを求めない善意っていうのがどうも信じられなくて」
難儀なやっちゃなあ。聖は笑う。
「別にやりたくてやっとるんやから甘んじとけばええねん」
「はあ、そんなもんですかね」
けど、いつか僕に寝首かかれるとか思わないんですかね。そう続ければからからと彼は笑う。
「俺がそうそうやられるかい。それにな、お前はそんな事せんて信じとるからええねん」
何が良いのか高良には分からない。ただ、いつも感じる苛立ちを今は感じないという事だ。
ああ、そうか、これは。
「そうですか」
「そうなんや」
喜びだ。

 

***
高良、結構好きだったんだけどなあ。

 


この先二人に何があっても
(ヤマネコ×カーシュ/クロノクロス)


※花咲く〜IF設定。


カーシュとヤマネコがまた喧嘩したらしい。
と言ってもいつものようにカーシュの方が勝手に怒っているだけのようだが。
カーシュに原因を聞いても教えてくれないし、その話をすると逃げられる。
付き合いの長いランスローとルーカンからすれば、この先二人に何があっても二人が道を別つ事ないと知っているのでそれほど心配していない。
しかしそれが一週間にもなると、少しばかり不安になる。
いつもはヤマネコの方がさっさと折れてそんなヤマネコにカーシュが謝る、というパターンなのだが。
しかし今回はそのヤマネコが何の行動も起こさない。それが喧嘩を長引かせているのだ。
「今回は何が原因なんですか」
カーシュが駄目ならヤマネコに聞けばいい。怖いもの知らずのルーカンがそう問うと、ヤマネコはさもつまらなさそうに答えた。
「閨事の問題だ。お前たちは気にしなくて良い」
ルーカンがランスローに報告すると、ランスローが今度はカーシュの元へ走って行った。
「カーシュ様!」
カーシュはその時、いつもの様に部屋で書類に目を通しているところだった。
「何だ、どうかしたのか」
その表情に微かに憂いがあるのは欲目だろうか。
「カーシュ様、正直におっしゃってください」
「うん?」
「司書殿との夜の営みに満足してないんですか?」
「な、ななな何を……」
カーシュが声をどもらせるがランスローは至って真面目だ。
「司書殿に満足してないなら俺に乗り換えませんッイッテ!」
ぼすっと分厚い本でランスローの頭を叩いたのはヤマネコだった。
「阿呆な事を言っている暇があったら職務を熟せ、黒騎士」
「アンタが不甲斐ないから……!」
「ランスロー!違う、違うんだ……!」
「何が違うんですか、そうなんで……」
「だから、逆なんだよ!」
一瞬の沈黙。ランスローは言われた意味を反芻してみる。
「……逆?」
思わず聞き返したランスローにカーシュは顔を赤くしながら観念したように言った。
「俺が回数が多いから減らせって言ったら断られてそれで……」
「……」
ぽかんとカーシュを見下ろした後にヤマネコへと視線を向ければ彼はいつもの無表情でランスローを見返してきた。
「そういうことだ。……カーシュ」
ランスローから視線を外し、カーシュを見下ろす。
「私はお前の要求を呑むつもりはない」
ぐっと息を飲むカーシュはだって、と絞り出すような声でぼそぼそと告げた。
「こんなに頻繁にしてたらアンタ、いつか飽きるんじゃないかって……思って……」
「お前はまた愚かしい事を」
ヤマネコの声音が甘さを帯びてカーシュの耳朶を擽る。という事はランスローにも聞こえているわけで。
「……お邪魔しました」
急に馬鹿馬鹿しくなってきて、ランスローはそそくさと退散することにした。

 

***
日常茶飯事。

 


守るべきものが出来たんだ
(火村×アリス/有栖川有栖)


俺には何もなかった。何も持っていなかった。
それを不満に思ったことはなかったし、これからもそうであろうと思っていた。
けれどアリス、お前と出会った。
明るくて前向きで、なのにどこか繊細さを孕んでいて。
そんなお前を、守りたいと思ったんだ。
俺は初めて、守るべきものを見つけたんだ。
お前は守られるなんて御免だって言うかもしれないけれど。
俺はお前を守りたい。この身全てを懸けてでも。
守るべきものが出来たんだ。それがこんなにも誇らしい。
俺とお前が出会ったのは偶然だ。運命なんかじゃない。
けれど俺とお前は出会ったんだ。知ってしまったんだ、お前という存在を。
だからアリス。
大人しく俺に守られておけよ?

 

***
過保護火村。

 


私より、一日でも永く生きて
(火村×アリス/有栖川有栖)


君は俺の事を好きやと言った。どうしても手に入れたいと懇願した。
俺はそれを受け入れよう。君の事が好きやから。
けれど一つだけ、どうしてもこれだけは約束してほしい。
俺より、一日でも永く生きて欲しい。それだけは守ってほしい。
君が俺に何をしても、言っても、最後には許したる。
だけどこれだけはあかん。何が何でも守ってほしいんや。
君は危なっかしいから。
それさえ守ってくれるなら、俺は君を受け入れる。
だからほら。俺から手を差し伸べたるから。
どうか、俺より一日でも永く生きてくれ。

 

***
自分より先に死なれるのは寂しいから嫌、というわがまま。



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