もどかしい二人へ5のお題





この関係に名前を付けるとするならば
(野上×アリス/有栖川有栖)


居酒屋の帰り道、駅まで送るという野上の言葉に甘えて駅までの道のりを他愛もない話をして過ごした。
駅が見えてきた頃、不意に野上が言った。
「……今度、うちに来るか」
「え……」
「あんたが好きそうなコーヒーが手に入った。淹れてやる」
有栖川は暫く目を真ん丸にして野上を見ていたが、ぱあっと顔を綻ばせて大きく頷いた。
「はい!楽しみにしとります」
「そうか」
駅に辿り着くと、野上が足を止める。ここまでだ、というように。
有栖川も足を止め、野上を見る。
「今日は、ありがとうございました。楽しかったです」
「今夜はよく寝れそうだ」
野上の言葉に有栖川はにこにこしながらそれはよかった、と頷いた。
「では」
ぺこりとお辞儀をして踵を返した有栖川の背に声がかかる。
「有栖川」
「はい?」
くるりと振り返ると、野上が小さく言った。また、メールをする、と。
「はい!……それと野上さん、アリス、でいいです」
その方が、俺は嬉しいです。そう言って有栖川は今度こそ駅に向かって歩き出した。
その後ろ姿が見えなくなるまで見送って、野上も踵を返す。
この関係に名前を付けるとするならば、それは。

 

***
じりじり進展。

 


あと、10センチ
(ヤマネコ×カーシュ/クロノクロス)


※花咲く〜IF設定。


不意にカーシュがじっと見上げてきたので、ヤマネコはそちらに視線を向ける。
「何だ」
「いや、あんたって背ぇ高いよな」
しみじみと言うカーシュに、だからどうした、と視線で促せば、俺もあと十センチ欲しかった、とカーシュは言った。
「ダリオと言いゾアと言い、俺の周りは背の高いやつばっかだ」
「お前はそれくらいで良い」
「何でだよ」
むっとして見上げたカーシュの唇に、触れるだけの口付けを落とす。
「と、突然なんだよ!」
「これくらいの身長差があった方が口付けやすい」
途端カーシュは真っ赤になってそういう問題じゃない!と怒鳴ってそっぽを向いた。

 

***
キスのしやすい身長差って何センチだったっけ。

 


じれったい奴等め
(野上×アリス/有栖川有栖)


「それで、どうなったんです?」
上司から突然そう問われて、野上は怪訝そうに樺田を見上げた。
「何がです」
すると樺田はくすくすと笑いながら彼ですよ、と言った。
「有栖川さん。あれから進展ありました?」
ああ、その事か、と納得すると同時に何故この上司に言わねばならないのか、と思う。
しかし樺田の顔にはありありと好奇心の文字が躍っており、野上は一つ溜息を吐いた。
「……別に特に変わりはありませんよ。この前食事に行ったくらいです」
「有栖川さん、喜んだでしょうねえ」
「はあ」
「それで、脈はありそうですか?」
どうでしょうね、と野上は曖昧に返す。けれど樺田は一人で何か勝手に納得したらしく、何度も頷いていた。
「有栖川さんみたいなタイプはこちらから攻めないと気付かなそうですね」
確かにぽやぽやしていてそういう感情には疎そうだ。
「お部屋に誘ってみるとかどうでしょう?」
「……それはもう伝えてあります」
それは良い!と樺田が拳を握る。
「攻め込むチャンスじゃないですか。キスの一つでもかましてやりなさい」
「……刑事が言っていい台詞じゃありませんな」
野上はもう一度深い溜息を吐いた。

 

***
上司には逆らえない野上さん。

 


別に、理由なんてない
(マジック×シンタロー/南国少年パプワくん)


「シンちゃーん!今日の夕飯は何が良いかなー?」
パパ張り切って作っちゃうよー!とはしゃいでいるのは泣く子も黙るガンマ団の総帥、マジックだ。
本を読んでいる息子にじゃれついては裏拳を顔面に打ち込まれるといういつもの光景だ。
しかしそれでもめげないのがマジックだ。
「お肉?お魚?両方が良いかなー?」
するとシンタローは小さな声でカレー、と答えた。
それに狂喜したのがマジックだ。いつもは返事すらしてくれない息子がカレーを望んでいる。
「よっし、パパ腕を揮って美味しいカレーを作るね!」
マジックが鼻歌を歌いながら部屋を出ていくと、シンタローは読んでいた本から視線を上げた。
「……別に、気まぐれだ」
それでも先程のマジックの嬉しそうな顔を思い出すと、たまには甘えてみるのもいいかもしれない、と一瞬だけ思った。
それを行動に移す日は、きっと来ないが。

 

***
再読記念。

 


目が合わせられないのは
(マジック×シンタロー/南国少年パプワくん)


小学校へ行っていた息子が落ち込んだ様子で帰ってきたのでマジックはそれはもう鬱陶しい程に息子に付きまとった。
「シンちゃん、どうしたの?学校でやなことでもあったの?パパに話してごらん」
しかしシンタローは俯いたまま目も合わそうとしない。
マジックはそんなシンタローを抱き上げると、大丈夫だよ、と視線を合わせた。
「パパに話してごらん」
すると泣きそうな顔をしていたシンタローはぼそぼそと言った。
「……一族の中で俺だけ黒髪だから、パパの子じゃないって」
「誰がそんなことを言ったんだい」
「……同じクラスの奴」
後で調べてシメる。子供相手だろうと容赦しないマジックはそう心に誓った。
「シンちゃんはちゃんとパパの子だよ。パパとそのクラスの子とどちらを信じるんだい?」
「……パパ」
そうだろうそうだろう、とマジックはシンタローに頬ずりをしながら言う。
「シンちゃんはパパの大事な大事な息子だよ」
繰り返し繰り返しそう言い聞かせると、シンタローはやがて安堵したように父親に抱きついた。

 

***
シンタローって学校行ってたのかしら。家庭教師?



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