サンクチュアリ
城内の二階に設置されている舞台。その舞台裏では美しい歌声が響いていた。
アルバートは椅子に腰掛け、目の前の少年と少女を見つめた。
少女と少年がそのよく通る綺麗な声を合わせ、春を喜ぶ歌を奏でている。
最近は笑顔も言葉数も多くなってきた少女は、自分の娘の様な存在。
そして金のサークレットを嵌め、まだあどけない顔をした少年は……
「アルバートさん?どうしたの?」
はっとしてアルバートが二人を見ると、歌い終えた二人が不思議そうに自分を見ていた。
「あ、いや…短期間でよくここまで声を出せるようになったなって思っていたんだよ」
その言葉にカッツェは照れ臭そうに笑うと
「二人の教え方が上手なんだよ」
と頭を掻いた。
「じゃあ、今日はこれくらいにしておこうか。片付けは僕がして置くから二人は先に部屋へ戻っておいで」
アルバートがそう言うと、二人はこくりと素直に頷く。
「わかったわ、じゃあ、またね、カッツェ君」
「うん、アンネリー、また歌おうね。アルバートさんも付き合ってくれてありがとう」
アルバートは楽譜を片付け終わると、愛用のチェロケースから弓を取り出し、手入れをしていると、突然後ろから誰かに抱き付かれた。
「アルバートさん」
聞き覚えのあるその声は、やはりカッツェだった。
「カッツェ君か…どうかしたかい?」
「うん、やっぱ僕も何か手伝おうかなって」
そう言って顔を間近に覗き込んで来るカッツェの唇に触れるだけのキスをする。
「…いや、もう大体終っているから大丈夫だよ」
優しく微笑んでそう言うと、カッツェはにこりと笑った。
「…じゃあ、もう一回、して?」
それに答えるようにアルバートは再び唇を重ね、つ、とその小さな唇を舌先でなぞる。
「ん……」
アルバートはカッツェに口付けながら、内心苦笑していた。最初は弟や息子のように思っていたのが、いつも間にかそれ以上に愛しく想うようになっていた自分に。
「は、ぁ………ねえ、アルバートさん……次の舞台、僕も出たいな」
「じゃあ次の舞台、一緒にやろうか」
あっさりと了承され、カッツェは「シュウさんとは大違い」と笑った。
「ありがとう。僕とアンネリーとピコさんとアルバートさんの四人だけでこっそり練習して…僕が歌う事、みんなにはその時まで内緒にしようね」
カッツェはアルバートの首に腕を回し、ぴったりと引っ付く。
「みんな、驚くだろうね」
軍主が兵士たちのために歌を歌うのだ。きっと前代未聞の出来事となるだろう。
「そうだね」
二人は視線を交わし、笑いあう。
それは親子の様に優しく、兄弟の様に親しい、恋人たちの密やかな企みなのだった。
(了)
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はい、アルバート×主です。これは先日「第一回主人公争奪戦」(つまりはあみだくじ)で勝ち残った四人の攻め様の一人です。え?他の三人は誰かって?……恐ろしくて言えません…なんであんなキワモノばっか生き残ったんだろう…特にル(ルカじゃないって)とか、ネ(ああ!ネがつくヤツってもしかしてコイツだけ?!)…ま、もう一人は比較的マシかな?もう俺何本か書いてるしね。うん、ま、UPされる日を待ってて下さい…死んでも知らんけど。
(2000/06/15/高槻桂)