01.遅刻の理由
(花井、阿部、三橋/おおきく振りかぶって)



その日、三橋は朝錬に遅刻した。
遅刻、とは言ってもほんの数分のことだったが、当の三橋はそれこそ世界の終わりを告げられたような慌てっぷりでグラウンドへとやってきた。
「す、すす、すみま、せんっ…!!」
涙声で悲鳴を上げるようにそう謝る三橋に、志賀は「いいよ」とくすくす笑った。
「今日は百枝ちゃん、居ないから内緒にしてあげる。でも気をつけてね」
「はっ、はいっ」
ぺこぺこと何度も頭を下げる三橋の肩を花井が叩いた。
「おはよ」
「お、お、おは、おはよ、ぅっ」
「珍しいな、三橋が遅刻するなんて」
花井の言葉に三橋はもごもごと口篭る。
「き、昨日から、お母さん…旅行で…でんっ、電話が…」
「電話?」
三橋はこくこくと頷いた。
「さび、寂しくて、かっ、叶君とずっ、ずっと話しててっ…よっ夜中の、二時くらいまで…」
そして最後に消え入るような涙声で「ごめんなさい」と呟く三橋のぴこぴこと寝癖のついたままの髪をくしゃくしゃと撫でながら、花井は苦笑する。
「そんなに謝んなくてイイって」
そんなことより、と花井はちらりと背後を振り返ってみる。
「……」
案の定、射殺せそうな視線でこちらを見ている男が一人。
言わずもがな、阿部である。
「あ、あのな、三橋…」
「三橋ッ!」
「はひぃっ!!」
花井が何か言うより早くブチ切れたらしい阿部の怒声に三橋が文字通り飛び上がった。
「練習始めるぞ!さっさと来い!」
「う、うんっ」
ちらりと見上げてくる三橋に花井が「行って来い」とその肩を叩いてやると、三橋はこくんと頷いて阿部の元へと駆け出した。
「全くお前は…!」
「ご、ごめ、ごめんねっ…」
怒鳴る阿部と半泣きで謝り倒す三橋の姿に、花井は一つ大きな溜め息をつき、やれやれと肩を落とした。

 

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