02.授業中のメール
(田島/おおきく振りかぶって)



(ん?)
授業中、田島の聴覚は微かな振動を聞き取った。
携帯電話のバイブレーション。誰かの携帯電話が鳴っている。
ちらりとそちらの方向へ視線を巡らし、あれ、と微かに目を丸くする。
見るからに体を強張らせ、辺りを窺いながら鞄から携帯電話を取り出しているのは三橋だった。
(なんだ、三橋ってケータイ持ってたのかぁ)
今時持っていないほうが珍しいのだが、なんとなく三橋は持ってなさそうだという先入観があったのだ。
後で番号を聞こうと思いながら眺めていると、バイブレーションを止めた三橋がびくっと背筋を伸ばして硬直した。
(お?)
先ほどとは違い、何か、思いがけず良いものを見つけたような硬直だ。
すると三橋はちらっと教壇を窺った。教師はこちらに背を向け、黒板に文字を綴っている。
三橋はブラック&オレンジの小さなボディを操る。恐らくメールを見ているのだろう。
(おお?)
小さな液晶画面を見ていた三橋の表情が、見る間に柔らかいものへと変わっていく。
うれしい、うれしい、だいすき。
そんな言葉が聞こえてきそうな表情。
三橋にしてはかなり、珍しい。
「ねえ、誰から?」
思わず口に出して聞いてしまっていた。
一斉に田島へと集まる視線。
その中には三橋のものもあり、そして自分に向けられたものだと気付いた彼は「え、あ、う、」と赤くなったり青くなったりしている。
「田島、今は授業中なんだが?」
教師の声にも田島は悪びれることもなく、へらりと笑った。
「すんませーん。あ、三橋ぃ、後で教えろよー」
「う、うぅ…」
「たーじーま」
「わかってますってセンセー」
ひらひらと手を振り、漸く田島は前へと向き直った。
「あう…」
三橋はというと、携帯電話を握り締めたまま固まっていた。

 

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