03.昼休みの攻防
(阿部、田島、三橋/おおきく振りかぶって)



昼休み、野球部のメンバーは屋上で昼食を摂っていた。
「あれ、誰かケータイ鳴ってない?」
水谷の言葉に各自が己の携帯電話を探る。
「あ、ご、ごめん…」
三橋が慌てて鞄の中から携帯電話を取り出す。着信を知らせるバイブレーションは確かに彼の手の中の携帯電話から発せられていた。
「も、もしもし…」
「三橋って携帯持ってたんだな」
慣れない手つきで携帯を開き、耳へと持っていく仕種を眺めながら花井が呟いた。三橋は「うん、大丈夫、だよ…」と小さな声で話している。
「あ、俺も思った。何か三橋ってケータイとか持ってなさそうなんだもん」
田島がそう返し、そういえば、と続けた。
「さっきもさぁ、叶からメール着てたんだよねー」
電話の相手って叶じゃないの?
三橋自身は電話に集中していて聞こえていなかったが、じっと集まった視線にきょとんと一同を見回した。
「あ、あの、ちょ、ちょっと待ってて…」
そして受話口を手で押さえ、「う、煩かった…?」と眉尻を下げた。
「んーん、そーじゃなくて、電話、誰から?叶?」
田島の問いかけに、三橋は照れた様にはにかみ、小さく頷いた。…途端。
「……」
三橋の右隣が一気に寒冷地帯へと変貌する。
言わずもがな、阿部だ。
箸を真っ二つにせんばかりの不機嫌な表情で己の弁当を睨みつけていた阿部は徐に弁当と箸を置き、
「待たせてごめん、ね…うん、いつもね、屋上でみんなと一緒にご飯、食べて…はえ?!」
三橋の手の中からひょいと携帯電話を取り上げた。
「あ、阿部君?!」
そしてそのまま問答無用で通話オフのボタンを押して更には電源まで消してしまう。
阿部は突然の事にわたわたしている三橋に携帯電話を押し付け、睨み付けた。
「食事中に電話すんな」
ウワ、何か理屈っぽい屁理屈捏ねてら。
花井は突っ込む気にもなれなかった。

 

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