09.テスト勉強
(豪、巧/バッテリー)


「わけわかんねー」
ぺいっとシャープペンシルをテーブルに投げ捨て、巧はごろりと絨毯の上に横になった。
「こら、巧」
向かいに座った豪が声をかけると、巧はすぐに起き上がって豪を見る。
ただしその表情は不機嫌そのものだ。
「沢口ならともかく、俺に羊飼いの気持ちなんてわかるわけねえだろ」
「それを考えるのが国語なんじゃて」
期末テストを目前に控えた二人の前に開かれているのは国語の問題集だった。
他の教科は巧とてそこそこの成績を収めているが、どうしても国語だけはかくんと成績が下がる。
問題の作られ方によっては満点中の半分を下回りそうな勢いに当の本人である巧ではなく、豪が心配してこうやって問題集を開かせているというわけだ。
「大体、百頭もいんのに全部に名前付けてること自体がどうかしてるだろ。羊が整列してくれるわけじゃねえんだし。迷子になったのは本当にワンダーなのかすら怪しいじゃねえか」
その形の良い人差し指が苛立ちを交えて問題集をノックする。
「じゃからな、それを前提とした話であってな、」
「だったら、家に着いてから数えるんじゃなくて草原から帰るときに数えるべきなんだよ。そうすればその時点でどいつが居ないとかわかるだろ。だからそもそもはこの羊飼いの不手際なんだよ。ワンダーを見つけた事を祝うよりまず自分の羊飼いとしての能力不足を反省するべきだろ」
「巧……」
もう何を言って良いのか分からず豪は深い溜め息をついた。
どうしてコイツは読み取り問題になるとこうなのか。
こういう問題なのだから、と割り切る事ができないのは頭が固いというか、ある意味アホだ。
どうすれば巧に分からせることができるのだろう。
そう思いながら立ち上がると、何だと言うように巧が見上げてくる。
「何か飲み物持ってくる。何が良い?」
「紅茶」
「了解。あっついのな」
「ん」
ドアを開けたとき、ふと思いついて巧を振り返った。
「巧」
「なに」
「もし新田東の全生徒がグラウンドに出てたとして、その中から俺を見つけられるか?」
はあ?と巧が形の良い眉を顰める。
「何言ってんだよ、当たり前だろ」
その応えにそうか、と返して豪は部屋を出た。
「…そういう事じゃと、思うんじゃけどなあ」
階段を下りながら、豪は小さく呟いた。

 

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