10.校庭で愛を叫ぶ (織田、叶/おおきく振りかぶって) 叶はイラついていた。 それは誰の目から見ても明らかだったし、放たれる白球も暴投を繰り返していた。 「どないしたん、ジブン」 叶はその釣り上がりがちな目を一層吊り上げて織田を睨み上げた。 「何がっ」 「何がやないやろ。朝からイライラしおって」 「織田にはカンケーねえだろ!」 「関係あるわい。ジブン何や。グラウンドおる間はピッチャーやろ。そういうんは家帰ってからにせい」 呆れの色の混じった織田の言葉に叶は唇を噛んで俯いた。 「…三橋が来れないって」 「は?」 思わず間の抜けた声を上げた織田を、叶が再び睨み上げる。 「今度の連休、部活だからお泊り会できないって三橋がっ」 「……はい?」 高校生にもなった男がお泊り会て。いやそれ以前にジブンかて部活やん。 突っ込むタイミングを見失った織田を無視して叶はぐっと前かがみになり、弾けるように空を仰いで叫んだ。 「廉に会いたいぞー!!!」 ウワァ、叫んでもーたよこのお方。 助けを求めるように畠を見ても不自然に逸らされる。オイコラ、監督まで何シカトしとんねん。 何や、まさか叶の世話は俺が見ぃっちゅー事なんか。勘弁してくれ。 が、織田が参っている間に叶は「ヨシッ!」と拳を握ってベンチへと向かってしまった。 「あースッキリした。おい畠ー、キャッチやるぞー」 どうやら思い切り叫んだおかげでストレスを発散できたらしい。 えーと。 何やムショーに遣り切れんのやけど。 俺、地元進学したほうが良かったかもしれんわ。 |