あなたを知りたい
(真田×乾/テニスの王子様)

偵察を終えてさて帰ろうと踵を返した時、背後に気配を感じて乾は振り返った。
「やあ、真田」
そこにはラケットを手にしたままの真田が立っていた。
「青学の乾、だったな」
「うん、そう」
真田が俺に何の用だろう。
そう思いながら見ていると、真田にしては珍しく何か言葉を詰まらせていた。
「真田?」
「……その、乾は、蓮ニとはどういう関係なのだ」
「蓮ニ?」
思わぬ名にきょとんとしていると、真田はしどろもどろになりながらも懸命に言葉を紡ぐ。
「蓮ニが、お前の事をいつも滔々と話すのだからして……」
蓮ニ、ちょっと後でお話しようか。
いや、蓮ニへの説教は後でするとして、これはチャンスだ。乾は内心でほくそ笑む。
「それで、俺に興味を持ってくれたんだ?」
「っ」
途端、頬に朱を上らせた真田に、これはいいデータが採れそうだと反射的に思う。
「俺と蓮ニはただの友達だよ。それより俺は寧ろ真田に興味があるかな」
「俺に……?」
そう、と乾は手にしたノートを顎先にあて、にこりと笑った。
「真田が俺に興味を持ってくれたように、俺も真田を知りたいって思ってるってコト」
「……!」
面白いくらいに赤面する真田に乾は「真田も可愛い所あるんだな」と内心で思う。
「……ねえ、真田」
「な、なんだ」
「これから時間、ある?良かったら、少し話さない?」
「う、うむ」
こくりと頷く真田に、じゃあ着替えておいでよ、と手を振って乾は近くの木陰に身を寄せた。
「俺はここで待ってるから」
「わかった」
再び頷いて踵を返した真田の後姿を見送りながら乾はぺらぺらとノートを開いた。
真田と話せるなんて。
所詮こちら側とあちら側。境界線は越えられない、いや、越えてはならないと思っていた。
けれど、彼はそれを乗り越えてきた。
ああ、楽しみだ。
乾は口元が緩むのを自覚しながらもそれを抑えることができなかった。


***
雑多SSS雰囲気(遠)の02の続きのような。




隣同士で座るなんて
(宍戸×乾/テニスの王子様)


乾と宍戸、忍足、向日の四人でファミレスに行った。
そうしたら宍戸が先に奥に座って、その向かいに忍足が座った。
忍足と向日は乾と宍戸が付き合っていることを知っていたので、当然乾が宍戸の隣に座ると思っていた。
そうしたら乾はさも当然のように忍足の隣に座ろうとしたので二人からストップがかかった。
「え、なに?」
「何やあらへん。自分ら隣同士座ったらええやん」
「そうだぜ。一緒に座ればいいじゃん」
そこで二人は初めてそれに気付いたように顔を見合わせ、乾がああそうか、と頷いた。
「そう言われてみればそうだね。……宍戸、いいかな?」
すると宍戸は視線を彷徨わせた後、おう、と頷いたので乾はちょこんとその隣に座った。
「何や自分ら、そんな固まって」
「お前らしょっちゅうデートしてんだろ?」
「デートとか言うな!」
赤くなって怒鳴った宍戸に、忍足が煩いわ、と嗜める。
「デートはデートやろ。乾も何や言うたり」
「うーん。実は隣同士で座るって初めてなんだよね」
「は?……ああ、普通は向かい同士やんな」
「うん、だからちょっとこれは……宍戸は恥ずかしいかもだけど、俺は嬉しい、かな?」
にこ、と笑って隣を見れば、宍戸は目をまん丸にして乾を見た後、数秒遅れで顔を赤くした。
「ばっ」
「はいはい煩いから黙りやー。あ、がっくん俺もメニュー見せてや」
「ほいほーい」
ウェイトレスが置いていったメニューを並んで見始める二人に、宍戸がぐぬぬと唸る。
そんな宍戸に乾はメニューを差し出してにっこりと笑った。
「宍戸、一緒に見よう?」



***
雰囲気(遠)03のその後のような。




私達、一緒に暮らします
(亜久津×乾/テニスの王子様)


「亜久津と一緒に暮らす事にしたよ」
駅近くのファミレスでそう報告すると、河村は嬉しそうに笑ってよかったね、と言った。
「亜久津も喜んだんじゃない?」
「そうだと思うよ」
相変わらずだからアレだけど、と笑えば、大丈夫だよと河村が笑う。
「あの亜久津が乾と一緒の時だけは雰囲気が違うもの。きっと喜んでると思うよ」
「ありがとう、タカさん」
「それで、亜久津のマンションにそのまま住むの?」
「いや、さすがに手狭になるから大学の近くにいい物件を見つけてきたよ」
すると河村がそうなんだ、と喜んだ。
乾が籍を置く大学とかわむらずしは近い。よかったらまた店に来てよ、と笑う河村に、ありがとうと乾も笑って返した。
「あ」
ふと乾が顔を上げたので河村もそちらを振り返る。
そこには店に入ってくる長身の姿。
その姿を認めた途端、どこか綻んだ様に微笑んだ乾に、河村もまた優しい眼差しを向けたのだった。



***
雰囲気(穏)10その後のような。




鳶に油揚げ、そして漁夫の利
(杏×乾/テニスの王子様)


あの日、杏が乾を見つけたのは本当に偶然だった。
公園のベンチでぼんやりと座っているその長身は、どこか思いつめられたような色を滲ませていて。
乾に声を掛けるチャンスだと、思わなかったわけでは無い。
けれどその辛そうな表情に、何とかしてあげたいと思ったのが大半で。
気付けばお気に入りの喫茶店に連れてきていた。
そしてそこで聞いた乾を悩ませている事情に、やっぱりこの人ってモテるんだな、と再確認して。
思い切って提案してみた。私と付き合ってみませんか、と。
杏はあえて軽い調子でそう提案した。乾がこれ以上深く考え込まなくていいように。
ただの虫除けでいい。少しでもこの人と仲良くなれるなら。
そして少しずつでいいから、私を知って欲しい。
あわよくば、とは思わないでもないが今はこの人の力になりたい。
乾は暫くの間沈黙した後、お兄さんに怒られないかな、と苦笑した。
大丈夫ですよ、と笑うと、じゃあお願いしようかな、と彼も微笑った。
その時、杏がどれほど嬉しかったか、乾には分からないだろう。
けれど今はそれでいいのだ。
これから少しずつ、仲を深めていけばいい。
杏は何でもない事の様にこれからお願いしますね、と笑って紅茶を啜った。
手が震えてないか、心配だった。



***
雰囲気(儚)04杏視点のような。




そこに肉欲はあるのか
(真田×乾/テニスの王子様)


乾が真田と付き合うようになったきっかけは、真田の告白からだった。
貴様に興味がある、という真田の一言からきっかけで交流を持つようになった二人は友情と同時に恋情をも育み、半年が過ぎた頃、真田に告白された。
そうして晴れて恋人同士となった二人であったのだが。
乾は現状に少しばかり不満を抱いていた。
何せ真田弦一郎という男は今時珍しいくらいにお堅い男なのだ。
男同士という事もあって人前ではそういった素振りを出さないのは分かる。
しかし二人きりで過ごしている時までそうであるのはどうだろう。
今日も今日とて真田の部屋で二人きりだというのにやる事と言えば黙々と宿題をこなすばかりで。
そこに甘い空気など一欠けらも無い。
「……」
ふと乾が手を止めたので真田がそれに気付いてノートから視線を上げた。
「どうした。分からない所でもあったか」
「うん、あのさ、真田って俺とキスしたいとか思うことってあるの?」
べき。真田が手にしているシャープペンシルの芯が折れる音がした。
「な、な、なん、」
一気に顔を赤くして言葉を詰まらせる真田に、乾はお構いなしにだってさ、と続ける。
「付き合ってもう半年が経つのに一向にそういう気配が無いから」
俺ってそんなに魅力無いのかな、とシャープペンシルをくるくる回しながら小首を傾げた。
「そ、そういうわけではないが……そういった邪念は、その……乾が煩うとならんと思ってだな……」
「俺が?どうして」
すい、と身を寄せると真田はばつが悪そうに視線を逸らした。
「俺は真田に触れてもらいたいって思ってるよ?キスしたり、抱き合ったりしたいって思ってる」
「だっ……」
ねえ真田。乾は腕を伸ばして真田の肩の上に乗せる。
「お願いだから、俺に触れて?」
じっとその途惑いに揺れる眼を見つめると、不意に真田の顔が近付いてきて乾は目を閉じた。
初めて触れる感触に、乾の心は激しく震えた。



***
雰囲気(儚)09その後のような。と思ったら愛題27と丸被りでビビッた。自分のパターンの変わって無さに。しろめ。

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