「悪いね、好きな子は虐めたくなる性分で」
(ジャッカル×乾/テニスの王子様)


月に一度、乾はジャッカルを家に誘ってくる。
勿論、余程の理由が無い限り即OKだ。
好きな相手に誘われて嬉しくないはずがない。
しかも乾家は両親が共働きで帰りが遅く、まず二人っきりだ。
その上夕食は乾の手作り。
あえてもう一度言おう。嬉しくないはずがない。
なのだが。
一つだけ、ジャッカルを躊躇させるモノがある。
問題は、乾の作る料理だ。
否、料理自体には問題ない。寧ろ絶賛したいくらいだ。
乾の頭の中にはどれだけのレシピが詰まっているのだろうか。
そう思わざるを得ないほど様々な料理を乾は作る。
しかもレシピに正確に作るのでまず失敗は無い。
だが、その料理に必ず付いて来るコップ一杯のそれ。
日によって緑だったり青だったりするそれ。
以前、仁王に無理やり青汁と言うものを飲まされたことがあるが、そんなもの甘っちょろいと今なら分かる。
決してジャッカルが肉好きだからとかそんな事は理由にならない。
アレはちょっとした凶器だと思う。
しかし乾自身がそれを平然と飲んでる以上、拒むわけにも行かない。
ジャッカルは自分の保安より乾の好意(だと信じたい)を選んだ。
初めて飲んだ時は少々意識が飛びかけたが、しかしそれも回数をこなす毎に慣れてきた。
だから大丈夫、今日も大丈夫だ。
そう言い聞かせて毎回ジャッカルは乾の家を訪れていた。
のだが。

ジョッキは反則だと思いませんか。

ご飯だよーののんびり声に導かれてダイニングキッチンに向かったジャッカルを待ち受けていたのは、ほかほかと温かい湯気を立てる真っ白なご飯と白身魚の入ったムッケカに鶏肉のデスフィアーダ、レタスとトマト、カリカリベーコンのサラダ、焼き立ての胡麻入りポンデケイジョ。
何かの会話の弾みで最近ブラジル料理を食べてない、と言った事を覚えていてくれたのか、ジャッカルは乾を抱きしめたいくらい嬉しかった。
だがしかし、それもその脇にドンと置かれたジョッキによって静止せざるを得なくなった。
ジョッキで、青酢は、反則だと、思います。
一気飲みに向かない青酢をジョッキで。
せめて野菜汁、せめて野菜汁であって欲しかった。
これはどういう意味なんだろうか。アレか、飴と鞭か。上げて落とすということか。
それでも覚悟を決めて席に着くと、乾が突然笑い出した。
ぽかんとして見ていると、彼は一頻り笑った後、ごめんごめんと謝りながら空いたグラスにジョッキの中身の半分を移した。
「ほんとはね、ジャッカルがいつも無理して飲んでくれてることわかってるんだ」
「あ、いや、その…」
確かに味はアレなのだがしかし乾が作ってくれたものなのだからええとその。
「うん、大丈夫。よく分かってるから」
不二でもダメだったからなあーと笑いながらグラスのそれをくぴくぴ飲み、美味しいのになあと呟いた。
乾の味覚はやはりちょっとどうなんだろうか、いやしかしこんな素晴らしい料理を作ってくれる乾の味覚を疑うのは乾に悪いし…などとジャッカルがぐるぐる考えているとまた乾は小さく笑った。
「悪いね、好きな子は虐めたくなる性分で」
やっぱり虐めだったのかー!!
「頑張って飲んでくれるジャッカルが可愛くてつい」
グラスを両手できゅっと持って言うお前の方が断然かわいい。と言いたいがその手に持っているグラスの中身は余り可愛くないので黙っておくことにした。
「でもコレは今日でお終い。あんまり苛めて嫌われたらイヤだし」
「…嫌いになんてなるかよ。それより、食おうぜ。折角お前が作ってくれた料理、冷めちまうだろ」
とびきりの料理の締めが青酢なのは躊躇う所だが、これも乾なりの愛情表現だと思えばこれくらい、軽いもんだ。
「そう?じゃあやっぱりちゃんとジョッキ一杯分飲んでもらおうかな」
……あ、いえ、そんな気がするだけです、例えです例え、すみませんでした。



***
あれ?何か予想以上に長くなりましたよ?普通に浅瀬書いたほうが良かったんじゃね?
…まいっか。
乾の料理は見た目は完璧だと思うんですよ。ただ味が美味しいか破壊的かは意見の分かれるところだと思います。とりあえず今回は前者で。
青酢は乾も苦手っぽいですが(ボーリングでジョッキ嫌がってたので)多分もう慣れたんだと思います。(生暖かい目)








「食っちゃいたいくらい可愛い」

(仁王×乾/テニスの王子様)


「……」
仁王はしゃがみ込んで目の前ね寝こける乾をじっと観察していた。
偵察に来ていたのは知っていたが、部活が終わって着替えてさあ帰るかとコート脇を通ったら木陰ですよすよと寝入っている乾を発見した。
といってもいつもの不透過眼鏡健在なので近づくまでは分からなかったが、ここまで近づいても全く無反応と言うことはやはり寝ているのだろう。
仁王はじろじろと乾を上から下からと見回す。
テニスをやっているとは思えないほどの白く肌理の細かい肌。
無駄な肉のついていない鍛えられた、しかし自分より細いのではないかと思う腕。
ほっそりとした指や掌に出来たテニス胼胝。
その分厚い不透過眼鏡の下は関東大会の時、一度だけ見たことがある。
整った二重に深い色合いの瞳。
今眼鏡を外したらさすがに起きるだろうか。
そんな事を思いながらもそっと乾の傍らに手をつき、身を乗り出してみる。
薄い唇が微かに開き、そこから微かな寝息が漏れている。
「…食っちゃいたいくらい可愛ええのぉ」
ぼそりと呟いて顔を寄せると、「あー!!」と背後から悲鳴が上がって仁王は舌打ちした。
「参謀!仁王先輩が乾さん襲ってるっすー!!」
赤也の叫び声に乾が小さく声を上げた。
あ、起きるな。仁王はそう思いながらもさっさと身を起こし、赤也を振り返った。
「覗き見はあかんのぉ赤也」
「人のものに手を出すのもいけないな、仁王」
すっと赤也の傍らを通り過ぎてこちらに歩み寄ってくる柳のプレッシャーに仁王はすたこらと踵を返して駆け出した。
「参謀のもんでもないじゃろー」
笑いながら逃げていく背後で、乾の「あれ?みんな何してんの?」というのんびりした声や「お前は警戒心がなさ過ぎる!」という柳の怒声が聞こえてくる。赤也も何か叫んでいるようだ。
「次は貰うぜよ」
そんなやり取りを後にそう呟き、足取りも軽く仁王は帰路についた。



***
未遂でした。
浅瀬ではしっかり摘み食いってるのでこっちでは未遂にしてみました。(爆)




戻る