「嘘吐いたら別れるからな」
(手塚×乾/テニスの王子様)


「待て、コラ、待てと言ってるだろ」
乾は己を押し倒し、さっさとシャツのボタンを外しにかかっている男の頭をべしっと叩いた。
「痛い」
動きを止めて叩かれた箇所を擦る男の腹を脚で押し返し、乾は漸く身を起こす事に成功した。
「痛くしたんだよバカ」
ぺて、と尻餅をついたまま目の前の男、手塚国光はサッパリ分からないという目で乾を見た。
「何でだ」
何で、何でと来たよこのバカ殿は。
乾は襲い来る頭痛を抑えるようにこめかみを揉んだ。
「手塚、ちょっとそこに座りなさい。正座で」
すると手塚は言われたとおり乾の前にきちんと正座した。
「あのなあ、明日、試合。俺も出るの。わかってんの」
「わかっている。だから今日は挿れずに痛っ」
真顔で堂々と言うもんだからもう一度叩いてやった。今度はチョップでスコンと。
「痛い」
「だから痛くしてるんだよアホ。挿れるとか挿れないとかそういう問題じゃなくて行為そのものを止めろよ」
今週何回したと思ってんだこのタコは。
「嫌だ。乾に触れたい」
「駄目」
ああもうこのバカ殿は。グーで行くか、グーで。
「今日に限らず、手塚はべたべたしすぎ。学校でも部室とかトイレとか二人きりになった途端べたべた抱きつくわキスしてくるわ下手したらそれ以上してくるわ。いい加減にしろこの性少年が」
「しかし乾が好きなのだ。触れたいと思うのは当然だろう」
しれっと言うなしれっと言うなっ。
「駄目ったら駄目。第一今日だって数学でわからないトコあるから教えろって言うから手塚んち来たんじゃないか。お泊りデーじゃないの今日は」
まあ誘われた時点でこうなる確立99パーセントだったけどね!
分かっていて、それでも残りの1パーセントに賭けてしまう自分が呪わしい。
「数学は先程の説明で十分理解した。だからもういい」
「じゃあ俺はこれで帰らせていただきます」
さっさと立ち上がろうとすると行かせるかと言わんばかりに手塚が腕にしがみ付いてきた。
「てーづーか」
「嫌だ。一分一秒でも長く乾に触れていたい」
暫くの間立ち上がろうとする力と引き戻そうとする力が拮抗したが、やがて乾が折れてぺたりと座り込むとそこに手塚がべたりとしがみ付く。
「ああもう、わかったから。彩菜さんさえ良いって言えば今日は泊まってくから。その代わりセックスはしないぞ」
「わかった」
このべったりな状況で本当に分かっているのだろうか。
「嘘吐いたら別れるからな」
「約束する」
こくこくと頷く手塚に、乾はもう溜息を吐くしかない。
結局、いつだって自分は手塚に甘いのだ。
そう自覚させられながら、乾は天井を仰いだ。



***
浅瀬とか関係無しに塚乾書くと普通に手塚がアホの子です。何故だろう…。




「お前、危なっかしくて見てらんねえ」
(真田×乾/テニスの王子様)


立海からの帰り道、隣を歩いていた真田が突然溜息を吐いた。
「どうしたの?」
「ウチに堂々と偵察に来るのは許そう。しかし頼むからあんな無防備に寝るな」
「あー日差しが気持ちよかったからつい」
あはは、と乾は軽やかに笑う。
今日、乾は立海の偵察に来ていた。
部活中こそしっかりデータを取っていたのだが、部活が終了して片づけを見ている間にうつらうつらとしてしまい、気付いたら何故か目の前に仁王が居た、という事態になっていた。
さっさとその場を立ち去る仁王と足音荒く近づいてくる幼馴染とその後輩にきょとんとしれいれば、「お前は警戒心がなさ過ぎる!」と怒られた。
切原も仁王に気をつけろとか言っていた気がするが、よく分からない。
「仁王が俺に何をするって言うんだろうねえ」
あ、データ?と的外れな事(しかし本人は至って本気だ)を言っていると、真田は再度深い溜息を吐いた。
「お前は全く、危なっかしくて見ておれん」
すると乾はきょとんとして真田を見つめ、小首を傾げた。
「じゃあ、もう真田は俺の事、見てくれないの?」
「い、いや、そういう意味ではなくてだなっ」
少しだけ哀しそうなその声音に、真田は慌てて取り繕う。
「じゃあどういう意味?」
小首を傾げて覗き込んでくるその愛らしい仕草を直視できず、真田は視線を彷徨わせながらかちこちと告げた。
「だから、つまりだな、放っておくと危なっかしいのだからして、乾は俺の傍にいろ、ということだ」
すると乾はそんな真田をじっと見つめた後、にこりと笑って身を起こした。
「そういう意味なら、大歓迎だよ」



***
実はアミダ仁王乾の続きだったりする。参謀は全力で二人の仲を認めていません。乾は自分のモンだと信じております。仲を裂いて奪い取る気満々です。




「…さっきのひと、誰?」
(黒羽×乾/テニスの王子様)


黒羽が待ち合わせ場所に行くと、珍しく乾は既にそこに居た。
ただし、見知らぬ男と一緒、というオマケつきだったが。
二十代後半だろうか、整った顔立ちのその男と乾は和気藹々という言葉がぴったりな雰囲気で何事かを話している。
黒羽は自分がそれほど嫉妬する方ではないという自覚はあったが、気にならないわけではない。
乾と付き合うようになってもう半年近く経つ。
なのに乾はお得意のデータ収集で黒羽の事なら大抵の事は知っていたが、黒羽の方はと言うと、彼の交友関係すらろくに知らないままだ。
元々根掘り葉掘り聞くような性格でもないのも災いして、黒羽が知る限り乾の交友関係はテニス関係者しか知らない。
これはもしかして、余り宜しくない傾向…なのか?
そんな事を考えていると、さすがに人込みの中で突っ立っている黒羽の姿は目立ったのだろう、乾が気づいてこちらに手を振ってきた。
取りあえず乾の元に駆け寄ると、傍らの男もぺこりと会釈をしたのでこちらも会釈を返した。
「それじゃあ、また」
「はい。またお邪魔させていただきますね」
男の笑顔に乾も笑顔で返すと、彼は踵を返して去っていった。
その後姿を見送る乾に、黒羽は思い切って聞いてみることにした。
「…今の人、誰だ?」
すると乾はあっさりと「ああ、あの人はね」と教えてくれた。
「手塚の従兄弟だよ」
「手塚って…青学部長の?」
「元、だけどね。今は桃城が部長だよ。あの人は喫茶店を営んでいるんだけど、たまたまこっちに買出しに来てたみたいでね。つい話し込んじゃった」
確かに言われて見れば手塚国光の顔立ちに似てないこともない気がする。
「へえ、そうだったのか」
すると乾は何が可笑しいのか、突然くつくつと喉を鳴らして笑い出した。
「どうしたんだ?」
「いや、バネが俺の事聞いてくるのって珍しかったから」
「嫌だったか?」
「ううん」
今度は穏やかに乾は微笑んだ。
「今まで何にも聞いてこなかったから、俺の事あんまり興味がないのかなって思ってた」
「そんなワケあるかよ。ただ、」
「うん、バネの性格からしてアレコレ詮索するのは趣味じゃないんだろうけど、でもちょっと嬉しかったから」
「そうかよ」
するりと乾の指が黒羽の指に絡みつき、自然と手を繋いで二人は歩き出した。
「なら、もう少し聞いていいか、お前の事」
「答えられる範囲なら、どれだけでも」



***
ダビデ乾もよかったかもしんない…!(新境地に目覚めた気分)
六角大好きだ!




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