「…もし、今、…すぐ会いたいって言ったら」
(河村×乾/テニスの王子様)


タカさんは優しい。
いつだって俺を優先に考えてくれるし、さりげない気遣いも細やかだ。
左に用事があっても俺が右に行くといえば苦笑しながらも一緒に来てくれる。
タカさんは、優しい。
そんな所も好きなのだが、同時に少し、不満でもある。
贅沢だと言われるかもしれないが、もう少し自分を主張してくれてもいいんじゃないかと思ってしまう。
「ねえ、タカさん」
俺は電話口に向かって囁く。
「俺にして欲しいこと、無い?」
けれど聞こえてくるのは遠慮がちな応えばかりで。
「…何でもいいんだ。俺が、何かしてあげたい気分なんだ」
半ば強引に引きずり出すような形になってしまうが、これくらいしないと彼は遠慮し続けてしまうだろうから。
「……」
そして暫くの間沈黙が流れ、あのさ、と相変わらずの遠慮がちな声が聞こえた。
『…もし、今、…すぐ会いたいって言ったら…』
あ、いや、何でもないよっ。
携帯電話を耳に当てながら慌てて誤魔化すその姿が目に浮かんで俺はつい笑ってしまった。
『…乾?』
「ごめん、タカさんらしくて、つい。それで、ものは相談なんだけど」
俺、今無性にタカさんに抱きしめられたい気分なんだけど、そっち行っても良い?



***
タカ乾は落ち着いた甘い雰囲気のカップルと言うイメージがあります。
会話は少なくてもお互いに分かり合ってて沈黙が優しくて気にならない感じ。




「たまにはこういうのもいいんでない?」
(裕太×乾/テニスの王子様)


乾さんと俺が付き合っていると知っている先輩はこう言った。
「デートのプランは完璧に立ててくれて楽だーね」
とりあえず、曖昧に笑って誤魔化しておいたけれど。
全く以ってそんなことはない。
確かに乾さんは自らが収集したデータを下に緻密なプランを立てることが得意だ。
しかしお付き合いさせて貰うようになって分かった事がある。
それらは表向きのものであって、実は結構ずぼらな面も持っているということだ。
実際、デートプランなるものは大抵俺が立てている。
あの人自身にプランを立てる気はないらしく、いつも「どこでもいいよ」の一言で片付けてしまうので毎回雑誌やネットで調べまくる羽目になる。
といっても所詮は中学生の行動範囲内なのでさほど遠出することもできず、気がつけば前と同じようなデートコースになっている、なんてことも結構ある。
「俺と一緒にいるのはつまらない?」
たまたま入った喫茶店で不意に乾さんがそう聞いてきて、俺は思わず紅茶を噴出してしまうところだった。何とか飲み下すと喉が大げさな音を立てて上下する。
「何言ってんすか!そんなわけないじゃないすか!」
「最近の裕太君は何か考え込んでいることが多いみたいだったからね」
「それは、その…」
言い淀みながら乾さんを見ると、彼は手にしていたカップをソーサーにそっと戻した。
相変わらず長くて綺麗な指がカップに添えられている。
「…その、乾さんこそ、俺といて、つまらなくないですか?」
すると乾さんは軽く小首を傾げてどうして、と聞いてきた。
「だって、折角乾さんと会えるのにいつも似たようなコースパターンばかりで…」
その、と言い淀んでいると乾さんはふと可笑しそうに小さく笑った。
「そんなことはないよ。いつも言ってるだろう?どこでもいいって」
「でも…」
「つまりはね、裕太君と一緒ならそれでいいってことなんだよ」
「え」
目を丸くして乾さんを見ると、彼はそれすらも可笑しそうに微笑む。
「俺がプランを立てるとつい分刻みで決めてしまいがちでね。だから全て裕太君に任せていたんだが…それが君の負担になっているかもしれないということまでは考えてなかったよ。悪かったね」
「い、いえ、負担だなんて…!」
「そうだなあ、じゃあ今度会う時は俺がプランを立てよう。たまにはそういうのもいいだろう」
そして彼は意地悪そうに笑って、
「目黒とか行ってみる?」
と言うので
「俺が虫とか苦手なの知ってて言ってます…よね…」
あはは、と楽しそうな笑い声に俺はテーブルに突っ伏して思った。
やっぱりこの人との過ごし方は、俺が決めよう。



***
裕太はきっと乾の部屋の惨状に唖然としたに違いない。(笑)




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