「たまにはこうやって我侭言え」
(越前×乾/テニスの王子様)


乾先輩はいつも受身だ。
いつも俺がデートに誘って、行きたいとこ言って、調べてもらって連れてってもらって。
俺が言うことは何でも聞いてくれる。
そりゃあ無理難題は無理ってはっきり断ってくるけど。
デートだってキスだって、全部俺から。
乾先輩から連絡が来たことも、キスしてくれたことも無い。
俺、ほんとに乾先輩の恋人なの?
俺が乾先輩無理やり付き合わせてるだけじゃないの?
ねえ、乾先輩もわがまま言ってよ。
俺ばっかりじゃなくて、乾先輩も俺にいろいろ要求してよ。
求めてよ。
俺ばっかり、ずるい。
「じゃあ、一つだけ、わがまま言っていいかい」
うん、言って。
「ずっと俺だけを好きでいること」
…そんなの、今更じゃん。




「浮気する人だなんて、知ってたのに」
(日吉×乾/テニスの王子様)


街で偶然、見かけた。
乾さんが、女と歩いてた。
小柄で華奢そうな、ふわっとしたロングヘアーの似合う、サングラス越しでも分かる優しそうな面立ちをした女性。
二人は楽しそうに何か話しながら仲良く腕を組んで歩いていた。
そしてそのまま、こちらに気付くこと無く一件の建物に入っていった。
そこは何故か動物病院だったのだが、ともかくあの人が女と親しげに歩いていたことに変わりは無い。
俺は後を追った。
そして二人の消えた動物病院の手前の壁に凭れ掛かって彼らが出てくるのを待つことにする。
あの人が、浮気するかもしれないなんて、わかってたことだ。
彼はそういうことに無頓着で、来るもの拒まずだったから、俺が出会った時点で既に何人もの恋人がいた。
その時は男ばかりで、しかも同じテニス部のヤツラだった。
俺が知ってるだけで、青学の手塚さん、不二さん、菊丸さん、立海の柳さん、仁王さん、そしてウチの跡部さんに忍足さん。
彼らは乾さんを共有し、しかしお互い抜け駆けはしないよう牽制しあっていた。
一種の同盟のようなものだった。
けれどそこに俺が割って入った。
彼らのルールなど知ったことではない。
強引に奪って、本命が居ないのなら彼らを切って下さいと迫った。
今まで至れり尽くせりだった乾さんにとって、俺みたいなタイプは珍しかったのかもしれない。
あっさりと彼はそれを受け入れ、俺だけのものとなった。
最初こそ色々と言われたが(特に跡部さんに)全て跳ね除けてきた。
寄ってくる虫は全て叩き落してきたつもりだったのに。
がらん、とドアベルの音にはっとする。
先程から何人もの人が出入りしていたが、今度こそ、乾さんと先程の女性だった。
入っていくときと違っていたのは、女性が大型犬を連れていることくらいだ。
「…乾さん」
彼らの前に立ち塞がると、すっと乾さんが彼女を庇うように手を差し伸べた。少し苛立つ。
「若。奇遇だね」
「ハルくん、お友だち?」
穏やかな声で女性は乾さんを見上げる。
「うん、氷帝テニス部の二年生」
至って平静な乾さんの態度に余計苛立つ。
「その人、誰ですか」
すると乾さんはきょとんとした後、ぷっと吹き出して笑った。
「乾さん!」
「ご、ごめん、つい…若が思ってるような関係じゃないよ。この人は乾春江さん。俺の母親」
……は?
「乾春江です。いつも愚息がお世話になっております」
やんわりとお辞儀をするその姿はどう見ても二十代前半だ。
「ひ、日吉、若です」
辛うじてそれだけ返すと、彼女は乾さんを見上げて「ここまででいいわ」と微笑った。
笑い方が、確かに乾さんと似ていた。
「あとはハリィがいてくれるから大丈夫」
ハリィとは傍らでちょこんと座っているゴールデンレトリバーの事だろう。彼女はその頭を優しく撫でると「Go、ハリィ」と告げて歩き出した。
去っていく一人と一匹の姿を見送り、乾さんを見上げると、彼は苦笑して俺を見下ろした。
「うちの母さん、盲目なんだ。だから普段はハリィを連れてるんだけど、そのハリィがちょっと体調を崩しちゃってね。病院に預けてあったんだよ。今日は退院日ってわけ」
「…じゃあ、さっき、腕組んでたのは…」
「あれ、そんなトコから見てたの?うん、母さん一人じゃ歩けないからね。誘導してたんだ」
…なんだ、全部、早とちりかよ…。
「若の心配してたこと、わかるよ。今までが今までだったから、疑うのも仕方ないと思う」
「…すみません」
「いいよ。ゆっくり時間を掛けて信用してもらうことにするから」
「…それって…」
すると乾さんは人差し指を唇に当てて穏やかに微笑んだ。
「…内緒」




「殴り倒したいくらい好きですよ」
(柳×乾/テニスの王子様)


蓮ニが俺の事を好きだと言った。
俺は、どうしていいかわからず、ただぽかんとその顔を見返していた。
一応確認してみた。
それはライクですかラブですか。
即答で愛だと返って来た。
そうですか、愛ですか。
あんまり聞きたくない気もするけど、具体的にどうしたいの。と聞いてみた。
そしたら同衾したいくらいだと真顔で答えられた。
同衾て中学生の使う語録じゃないと思う。と返したら「分かりやすく言うなら突っ込みたいくらい好きだ」と言われた。最悪だこの男。
俺と付き合え貞治。て命令形か。
うん、でもまあ。
「付き合ってやるから一発殴らせろ」
俺も蓮ニの事、好きなんだけどね。
このムカつきは解消させてもらっても文句は言わせん。




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