「…駄目だ、やっぱりあいつには俺しかいねぇ!」
(荒井×乾/テニスの王子様)


「俺と、別れてください」
乾先輩と付き合い始めたのは、三ヶ月前の事だった。
玉砕覚悟で告白して、でもあの人は受け入れてくれた。
嬉しかった。舞い上がるくらい幸せだった。
だけど、一緒に過せば過すほど、分というものを思い知らされた。
テニスの相手にもなれない、学年も俺の方が下だから勉強も教えてもらうばかり、普段の会話もあの人に似合うような理知的な会話なんて俺には出来ない。
最初から、高望みだったんだ。
あの人は高嶺の花だったのに、無理やり引き摺り下ろしてしまったのだ。
俺なんか、つりあうわけなかったんだ。
だから、別れようと思った。
あの人を自由にしてあげようと思った。
けど。
「ねえ、荒井、乾の調子がおかしいのって何でだろうね」
不二先輩がいつも以上に深みのある笑顔で俺に言ってきた。俺と乾先輩が付き合っていたことは誰にも言ってないのに、まるでお見通しと言わんばかりだ。
「ああ、ほら今もまた失敗した。珍しいよね、乾がサーブでミスるなんて。あ、何も無い所で躓いた。危ないなあ」
ねえ、荒井。少しだけ低くなった不二先輩の声に背筋がしゃんとする。
「荒井ってさあ、自分が乾の事スキだってばっかりで、乾が荒井の事どう思ってるのかって考えたことあるの?」
「そ、それは、その…乾先輩は優しいから…」
「ばっかじゃないの。だったら今頃乾は僕と付き合ってるよ」
「え、それって、不二先輩も…」
「とっくの昔に振られてるよ。気になる奴がいるから駄目だってさ」
「それって…いたっ」
がすっと脛を蹴られて声を上げる。
「とっとと行ってきたら。バカ後輩」
背中を突き飛ばされて駆け出す。
ああ、なんて言えばいいんだろう。
すみません、やっぱり別れるっていうの無しにしてください?
アレは気の迷いでした?
えーとえーとえーと……あああもう!!
「乾先輩!」
「え、ああ、荒井、どうしたの」
「やっぱアンタには俺しかいねえ!だからもう一回付き合ってください!」
「……」
「……」
「……」
「……あっ!違っ、俺にはアンタしかいないって言いたくて、あのっ」
すると乾さんはくすくすと笑い出した。
「ああ、うん、そうだね。大丈夫、間違ってないから」
ただね、と乾さんは少しだけ困ったような顔で笑って、俺の背後を指差した。
「手塚が凄い顔でこっち見てる」
「!!」
次の瞬間響き渡った怒声に、俺は文字通り飛び上がった。




「こんな痛みを教えた責任、取ってもらう」
(亜久津×乾/テニスの王子様)


亜久津はイライラとしながらタバコに火をつけた。
一口だけ吸って結局苛立ちのままに灰皿に押し付けた。
くそ、と舌打ちする。
胸が痛い。
胃とか心臓とかじゃなく、とにかく胸の奥が痛い。
ずくずくとしたその鈍い痛みはひっそりと、けれど確実にそこにあるのだと主張している。
携帯電話を取る。メールが一通。千石からだった。
斜め読みしてすぐ削除した。
着信は無い。
リダイアルを開くと一番上にある名前を押す。
耳にあて、イライラしながら暫く待つと相手に繋がった。
「三コール以内に出ろっつってんだろ」
開口一番不機嫌丸出しでそう言うと、相手は全く気にした様子も無く努力するよと笑っている。
「今すぐ来い。すぐだ。いいな」
返事を待たずに切って携帯をテーブルの上に放り投げる。
がしゃりと本体というよりストラップが派手な音を立ててテーブルの上で広がった。
胸の痛みが少しだけ治まっている。
チクショウ。
あいつしか、治せない。
こんな痛みを俺に教えやがった責任、とらせてやる。




「あなたは僕を甘やかしすぎですね」
(大和×乾/テニスの王子様)


「大和部長は俺を甘やかしすぎですね」
乾に靴下を履かせている男を見下ろして乾は言う。
「そうですか?」
靴下が終わると今度はシャツを羽織らせる。
ボタンを一つ一つ丁寧に填めていく指先を見下ろしながら、そうですよ、と応えた。
「会う予定も俺に合わせるし、セックスも無理強いはしないし、今だってこうやって服を着せてくれる」
すると男は素肌の乾の太腿を撫でて微笑った。
「あなたが大切だからですよ」
どうだか、と乾は思ったが、相手の好きにさせてやることにした。




「気持ち良すぎて死ぬかと思った!」
(跡部×乾/テニスの王子様)


忍足の聴覚は現在、その能力を限界にまで高めていた。
部室のドアにべったりと張り付き、耳を当てて室内の会話を一言洩らさず聞き取ろうと全身係を集中させている。
つまり、盗み聞きである。
因みに現在部室内に残っているのは部長の跡部と遊びに来た乾の二人きり。珍しく樺地は先に帰されたらしい。
「だって跡部って凄く巧いし」
「当然だろあーん?」
「この前のなんて気持ちよくて死ぬかと思ったよ」
「ハッハ!俺様のテクに酔いな!」
なんちゅー会話しとんねん部室で!いやしかしこれはこれでオイシイ!
「なんなら今ここでしてやろうか?あーん?」
「ええ、いやだよ、恥ずかしい」
おおおコレはヤるのか!部室えっちやらかしますか!
いや待て侑士。もしかしたらここはベタなオチ王道のマッサージオチかもしれん!
しかし相手はあの跡部だ。そんなオチを持ってくる奴じゃない。
あああめくるめく世界が今ここで…!
「ゆーしなにしてんの?」
びっくー!
「が、がっくん、帰ったんちゃうの?」
「忘れもんした。で、なにしてんだ」
「あ、ちょ、今入ったら…!」
「えー?」
がちゃ。
あああああ…!(でも見る)
「跡部と乾、まだ残ってたのかよ」
岳人の陰から見えたのは、ソファの上で向かい合って乾の開いた手を支えるように握っている跡部の姿。
あれ?
「あ、岳人に忍足。もう帰るところだよ。二人もどうしたの?」
「ゆーしは知んねーけど俺は忘れもん。で、何してんの?」
「あのね、跡部って手のマッサージが凄く巧いんだよ」
すっごい気持ちいいの!へー俺にもやってくれよ跡部ー。何で俺様が乾以外にやってやんなきゃなんねーんだよあーん?
「…あれ、忍足どうしたの?」
乾の声にも気付く事無くひたすら床を拳で叩く。
違うやろ、違うやろ!そこはマッサージオチと見せかけてやっぱりえっちなことしてたとかそういうオチに持ってくハズやろ!何で今更そんなベタなオチ持ってくんねん!
「さあ、放っておけばそのうち元に戻るんじゃねーの」
「そう?じゃあ俺たちは帰ろうか、跡部」
「ああ。鍵締めるからとっとと出ろよ」
「あ、ちょっと待てよ俺まだ取りに行ってねえって!」
あああああ!!




戻る