テロメア
普段はね、ちゃんと我慢していたんだよ?
今までは、ちゃんと我慢していたんだよ?
ずっと一緒に居てくれなきゃヤダ
なんて
言ったら絶対困ったでしょう?
言ったら絶対笑ったでしょう?
でも、もう嫌なんだ。
貴方と戦うのも
貴方を憎んでいるかの様に振る舞うのも
もう、嫌なんだ。
ルカ率いる王国軍が現れると、シュウの策通りキバ将軍が囮となってルカ・ブライトを誘い出す。
ルカの首のみを狙った作戦だ。
「ふはははははは!!それしきでこの俺を止められると思うか!!!」
だが、やはりここは覇王ルカ様。ばったばったと軽快に同盟軍の兵を薙ぎ払っていく。
「ふはははははははははははは!!!!!死ね死ねぇ!!!」
それはもう強靭な腹筋をフルに使った笑い声を上げ、斬り捨てた兵の返り血に染まっていくその姿は鬼神の如し。
その光景を見つめながらシュウは眉を寄せる。
「知が武に後れを取るなど考えたくはないが……ルカ・ブライト、計り知れぬ男だ…カッツェ殿、ここは一旦撤退致しましょう」
策を力で捻じ伏せられるという屈辱を噛み締めながらシュウがカッツェを仰ぐと、カッツェは突然、跨っていた馬の背の上に立ち上る。
「カッツェ殿?!」
主の突然の行動にシュウはカッツェの立つ馬に自らの馬を寄せる。
当のカッツェは肩に掛けていた鞄の中からコーネルとアダリーの共同制作品である拡声器を取り出した。
「カッツェ殿、何をなさるお積もりです!」
「え〜っと…これがスイッチ、と」
シュウの言葉など完全に無視してカッツェはそのスイッチを入れ、音量の調節つまみを最大にまで回すと口元へ持って行く。
≪あーー、あーーーテスーテスーー≫
声が割れない所をみると、どうやら拡声器の状態も好調らしい。
「カッツェ?!何やってんだお前!」
マイクテストでカッツェの奇怪な行動に気付いた仲間達が声を上げる。
これまたカッツェは完全無視して息を吸い込む。
≪ルカ・ブライトぉ!!!!!≫
「?!」
戦場に響き渡った少年の声に敵味方問わず固まる。
名を指名されたルカ自身も例外ではない。
馬の上にすっくと立ったカッツェは何千何万の視線を一身に浴びながら、もう一度大きく息を吸い込むと声に変え、一気に吐き出した。
≪これ以上戦いを続けるなら三行半!!!!!≫
暫しの沈黙。
「…………全軍撤退」
先程までの嬉々として殺戮を繰り返していた狂皇子様の覇気は何処へやら。ぎこちない動きで全軍に撤退を告げる。
「ル、ルカ様?!」
当然話が見えない兵士等の声を無視してルカはさっさと引き上げて行ってしまった。
「…ふう」
拡声器のスイッチを切り、一仕事終えたな、といった清々しい表情をしたカッツェはすとんと再び馬に跨った。
「カ…カッツェ殿、ご説明頂けますかな…?」
近くに居た兵士達は勿論、すぐ隣に居たシュウは先程の大音響の所為で耳を抑えながら声を絞り出して聞いてくる。
「あ、耳栓してって言ってなかったっけ。ごめんね」
てへっと舌を出し、カッツェは肩を竦めた。
カッツェの三行半宣言から三日後、早くもハイランドから和議の申し入れがあった。
「これで平和になるね〜!!」
カッツェが手放しに喜ぶ中、他の面々の心中はかなり複雑だったらしい。
「これでルカに堂々と逢いに行ける〜!!」
複雑な理由はこれである。
よもや我らがアイドル…ならぬリーダーがあのケダモノ狂皇子ルカ・ブライトと恋仲であるなどと誰も考えなかったのだ。
まあ、当然と言えば当然であるが。
一際カッツェを溺愛していた軍師殿に至ってはその狂乱ぶりはすさまじく、ハイランドに乗り込もうとするのを抑えるのに周りの者達は苦労したという。
だが、和平を結ぶ事はこれ以上にない喜ぶべき事。
それを一番分かっているのは当の軍師殿。
嫌々ながらその申し出を受ける事と相成った。
「………では、この証書に互いのサインと血判を」
ミューズのジョウストンの丘にある会議場では、両軍の重臣ら十数名が見守る中和平交渉は成功に治まりつつあった。
ルカがサインをし、血判を押すと次にカッツェも同じようにサインをし、渡されたナイフで指を傷付け、その指を証書に押し付ける。
「……確かに」
ハイランドの神官が証書を確認し、銀の箱に収める。
こうしてデュナン統一戦争は呆気なく幕を閉じた。
「ルカ!」
交渉が無事に済み、一同が帰還準備をしている中、カッツェは市庁舎の一室にいるルカの元へと足を運んでいた。
「……カッツェか」
ルカは椅子に座ったまま抱き着いてきた少年を抱き留めると大きな溜息を吐いた。
「……どうして突然あんな事をした」
三行半宣言の事を言っているのだと分かったカッツェは小さく「ごめんなさい」と呟く。
「でも、もう、嫌だったんだ…ルカと戦うのも、みんなを騙し続けるのも……」
カッツェはルカの脚を跨いでその上に座る。
「本当はね、もっと我慢するつもりだったんだ。でも、ダメだった。ルカが好き。ずっと側に居たいんだ」
ずっと我慢していたんです。
ずっと堪えていたんです。
ずっと貴方の側にいたい。
これは我が侭です。
私の我が侭です。
それでも私はずっと貴方の側に在りたい。
「和議を申し入れてくれた時、嬉しかった」
「………」
こつんと自分の額をルカの額にぶつける。
「これからは、ルカに会いに行っても隠す必要、無いんだよね?」
「ああ」
ぶっきらぼうに言い放つその唇に自分の唇を重ね、すぐに離れると今度はその頬にも口付けを落とす。
「………」
ルカは黙ってカッツェのやりたいようにさせる。
唇に、頬に、首筋に、あちこちに口付けを落とし、カッツェはルカの無骨で大きな手を掴むとその指の一本一本にも口付けていく。
「カッツェ……」
そしてその掌を自分の頬に当てると、ルカがそっと撫でてくれる。
「俺にはお前の行動一つ一つに驚かされる」
最初は度胸だけはある子供だと思っていた。
だが、その瞳の奥には深い悲しみと慟哭に溢れていた。
笑っていたと思うと次の瞬間には落ち込んでいたり、泣いたかと思えば笑う。
「お前だけは、他のクズどもとは違う」
頬に当てていた手を後頭部へ回し、そのまま自分の胸へ引き寄せる。
「お前がいるのなら、この穢れた大地も…少しはマシに見えてくる」
「ルカ……」
カッツェはルカに身を委ね、その広い背中に腕を回す。
「ねえ、ルカ、ずっと、側においてね?」
「ああ」
この命の時計が止まるまで
どうか
貴方の側に居させて下さい。
(了)
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ギャグが一転、シリアスになりました!!本当はルカ様といちゃついている時にシュウが乱入して「さっさと帰るぞ!!」とか言って主人公を掻っ攫って行くオチだったんですが……ハテさて…?ま、いっか(爆)テロメアって言うのはDNAの一種だか何だかで命の時計と言われてるそうです。タイトルをシリアス系にしたのが悪かったんですね、きっと。
では、ジキル様、4500HITありがとうございました♪
(2000/07/16/高槻桂)