ジュードがその屋敷の門を潜ったのは、十五の年を迎えたばかりの頃だった。
ジュードは下級貴族であり医師でもあるマティス家の跡取り息子だった。
今までは実家で医師になるための勉学に励んでいたのだが、世間を知るため、そして行儀見習いの一環として奉公に出る事を自ら志願した。
ペイジ・ボーイになるには薹が立っていたが、父親がその屋敷のバトラーと懇意にしていたので採用して貰えることになったのだ。
ジュードが奉公に出る事となった屋敷は、ア・ジュール地方の領主であるガイアスの屋敷だった。
ガイアスは若くして名主として名高く、領民の声を常に取り入れながらこの地方を治めている事で有名だった。
だが、ジュードがガイアスの屋敷にやって来た時、そこにガイアスの姿は無かった。
南方のラ・シュガル地方へと出向いており、暫くの間は帰って来ないという事だった。
残念なようなほっとしたような。そんな思いを抱いてジュードのロワー・サーヴァントとしての生活が始まった。
ジュード以外にも何人かペイジ・ボーイは居た。皆ジュードより年若い者ばかりだったが、彼らに支えられながらジュードは仕事を覚えて行った。
主人が留守である分、仕事は多少少なかったがそれでも覚える事だらけのジュードは毎日を目まぐるしく過ごしていた。
一息吐けるのは昼過ぎの僅かな自由時間と、夕方のお茶の時間だけだった。
ローエンの淹れてくれる紅茶はいつもほっとした。
本来ならロワー・サーヴァントのジュード達にお茶の時間はない。だがこの屋敷ではロワー・サーヴァントもお茶をすることを許されていた。
加えて、スチュワードも兼任しているバトラーであるローエンがペイジ・ボーイであるジュード達に茶を振舞うなんて事は無い。
しかしローエンがそれを趣味としていた為、特別に許された時間だった。
私がお茶を淹れている事は旦那様には内緒ですよ、と笑うローエンに、ジュードもまた笑って頷いた。
ジュードはこの屋敷で様々な人たちと仲良くなった。
パーラー・メイドのミラ、ハウスメイドのレイア、トゥイーニーのエリーゼなど気の良い仲間ばかりだった。
レイアは実家がジュードの実家と同じル・ロンドにある事からすぐに打ち解けた。
そんなたくさんの仕事仲間の中で特にジュードを気にかけてくれていたのがフットマンのアルヴィンだった。
フットマンは通常主人について出かけるのだが、今回は他のフットマンがその任を任されたらしくアルヴィンは屋敷で留守番役をしていた。
アルヴィンはフットマンとして相応しい長身と外見を備えており、小柄なジュードはいつも羨望の眼差しで見ていた。
そんなアルヴィンはよくジュードに菓子をくれる。色とりどりの砂糖菓子だったり、クッキーだったり、キャンディだったり。
子供扱いされているのだとわかっていても嬉しかった。
そんなジュードに、他のペイジ・ボーイ達はあのアルヴィンとよく話せるね、と言われた。
アルヴィンは基本的に一匹狼タイプで、今まではペイジ・ボーイに声を掛ける様な事は無かったという。
きっとジュードの事が可愛いんだよ、と年下であり先輩でもある仲間に悪意のない笑顔で言われ、ジュードはそうなのかなあと小首を傾げた。
父であるディラックと懇意にしているローエンが気にかけてくれるのはわかる。だが何故アルヴィンがああも良くしてくれるのかがジュードにはわからない。
ジュードが主の居ない屋敷で働き始めて一か月が過ぎた頃、この日もアルヴィンはジュードを見つけると声を掛けてきた。
「よう、ジュード君。働き者のジュード君にこれをあげよう」
ハンカチに包まれて差し出されたのは、焼きたてのマドレーヌだった。
「わあ!美味しそう!」
喜色を浮かべるジュードにハンカチの包みを持たせながらアルヴィンは笑う。
「余った材料で作ってくれたんだよ」
菓子職人と懇意らしいアルヴィンはよくこうして菓子のお裾分けを貰うらしいのだが、アルヴィン本人は甘いものはあまり得意ではないらしくていつもこうしてジュードに回ってくる。
「でもどうしていつも僕に良くしてくれるの?」
常々思っていた疑問をぶつけてみると、アルヴィンは思わぬ質問を受けたと言う様に目を微かに見開き、またすぐににっと笑った。
「そんなのジュード君が可愛いからに決まってるだろ?」
「僕男なんだけど……」
「知ってる」
「それに他のペイジの子たちも十分顔は整ってると思うよ?」
領主の屋敷だけあって外見のレベルも問われるここでは、勤めているというだけでも他とは一線を臥しているはずだ。
しかしジュードの言葉にアルヴィンはちちちと人差し指を立てて横に振った。
「ジュード君、人にはね、好みってもんがあるんだぜ?」
「?はあ」
「俺はね、ジュード君みたいな子が好みなの」
「……アルヴィンって、同性愛者なの?」
見ている限りいつもメイドたちに声を掛けているからてっきり女好きだと思っていたのだが。
だがアルヴィンはジュードのその問いに可笑しそうに笑って違う違う、と否定した。
「女の子が好きに決まってるだろ?」
「じゃあ何で……」
するとアルヴィンの顔が近づいてきて、え、と思った瞬間には頬に口づけられていた。
「ア、アルヴィン!」
思わず大きな声を上げてしまったジュードに、アルヴィンはしーっと人差し指を口元に当ててにやにやと笑っていた。
「ジュード君は特別なんだよ」
「……それって喜んでいいの?」
ジュードの言葉にアルヴィンは喜んで良いんだぜ?と軽く首を傾げた。
「こんな男前に好かれてるんだ。もっと喜べよ」
「……アルヴィンって結構自信家だよね」
皮肉を混ぜて言えば、本当の事だからな、としれっとして返された。
「それよりさあ、ジュード君、聞いた?」
肩を抱き寄せられて僅かに胸を高鳴らせながらジュードが何を、と返すとアルヴィンはとっておきの秘密を打ち明ける様に告げた。
「今夜、旦那様が帰ってくるんだってさ」
「え!」
ジュードがこの屋敷に勤めて一か月余り。ずっと留守にしていた主人が返ってくると言うアルヴィンの言葉にジュードはどうしよう、とおろおろしだす。
「僕、まだ心の準備が……」
「大丈夫だって。うちの旦那様はペイジにゃ目もくれないからさ。頭下げてるうちにすーっと通り過ぎて終わりだって」
フットマンの俺らだって声かけられるなんてこと滅多にないんだぜ?そう笑うアルヴィンに、そうだよね、とジュードは落ち着きを取り戻す。
「僕、旦那様って噂でしか聞いた事ないんだけれど、まだお若いんだよね?」
「ああ、今年で三十二だったかな。それでも領主になってもう十年だからなぁ。無駄に貫禄あるぜ」
「どんな人なの?」
ジュードの問いかけに、アルヴィンはうーんと顎に手を当てて考える。
「基本的に他人に余り興味が無さそうなお人ではあるな。こんだけサーヴァント雇ってる割には自分の事は自分でやりたがるし」
「他人に興味が無いって、情が薄いって事?」
「そういうわけじゃあ無いみたいだが、旦那様が私的に誰かを招いたりって事は俺が雇われてからは一度も無いな」
アルヴィンの言葉にジュードはふうん、と小首を傾げる。
領主という立場上、余り友人とかもいないのだろうか。そんな事を思っていると廊下の向こうからやってきたレイアがアルヴィン君!と声を掛けてきた。
「ジュードに絡んでる暇があったら荷物の運搬手伝ってよ!」
「へいへーい。じゃあな、ジュード。頑張れよ」
「うん、アルヴィンも頑張ってね」
ひらりと手を振って去っていくアルヴィンにジュードも手を振り、とりあえずマドレーヌを置きに行こうと思う。
ジュードの部屋は四人部屋だったので、ちょうど四つあるマドレーヌを部屋の皆でわけれるな、なんて思いながら部屋へと向かった。

 


その夜遅く、アンダー・バトラーの男がこの屋敷の主人の帰還を告げて回った。
ジュード達が慌てて整列し、主人の登場を待っているとフットマンたちによって豪奢な扉が開かれ、数人ヴァレットを従えた男が入ってきた。
ジュードは他の者たちと同じく頭を下げていたのだが、目の前を通り過ぎると思っていた男の足がジュードの前で止まり、一気に緊張が高まった。
「先月入ったマティス家の長男、ジュード・マティスです」
ローエンの声に続いて耳通りの良い低音が響いた。
「面を上げよ」
「……は、い」
頭を下げてるうちにすーっと通り過ぎて終わりではなかったのか。ジュードが恐る恐る顔を上げると、そこには長めの黒髪を肩に垂らし、緋色の瞳が印象的な整った顔立ちの男がジュードを見下ろしていた。
これが、このア・ジュール地方の領主ガイアス。この屋敷の主。
「お前がディラックの息子か」
「は、はい」
震える声で返事をするジュードを男はじろじろと見下ろしていたがやがて、励めよ、と一言告げて立ち去った。
ガイアスの後姿が見えなくなると、ジュードは思わずその場にへたり込んでしまった。
「ジュード、大丈夫?」
隣に立っていた同室のペイジの少年が慌てて手を差し伸べる。
「び、びっくりした……」
少年に引っ張りあげられて再び立ち上がったジュードは、未だに高鳴っている胸を押さえてそう言うのが精一杯だった。
「僕らもびっくりしたよ。まさか旦那様がペイジにお声を掛けてくださるなんて……」
「僕、ここに勤めて五年経つけど初めてだよ」
口々にそう言うペイジ達の輪を割ってアルヴィンが近寄ってきた。
「ジュード君、大丈夫だった?」
「あ、アルヴィン……うん、すごくびっくりした」
というか、フットマンとしての仕事はいいのだろうか。ジュードがそう問うと、アルヴィンは大丈夫大丈夫と手を振って笑った。
「フットマンは俺以外にもたくさんいるし」
そういう問題ではないのでは。しかしアルヴィンは気にした様子もなくさーて解散解散、とジュードの腕を引いて自分たちの部屋のある棟へと向かった。
「ちょ、アルヴィン、腕引っ張らないでよ」
「あ、悪い悪い。それにしても驚いたな。あの旦那様がペイジに興味を示すなんてな」
「父さんの事知ってるみたいだったし、だからじゃないかな」
「いや、ここに住み込んでるサーヴァントの親なんて半数近くは何かしら旦那様と繋がりがある奴らばっかだ。だけど今までお声がかかったなんて事は俺が知る限り無いね」
「じゃあ、なんで……」
不意に前を歩いていたアルヴィンが脚を止め、ジュードも自然と歩みを止めた。
「アルヴィン?」
アルヴィンはおたくさあ、と振り返ってジュードを見下ろした。
「旦那様に気に入られたんじゃないの」
アルヴィンの面白くなさそうな声にジュードがええ!と声を上げる。
「僕、何もしてないよ?」
「いや、ほら、見た目的な意味で」
「アルヴィンじゃあるまいし、それは無いよ」
ジュードが冷めた声ですっぱり切り捨てても、アルヴィンはそうかなあと首を傾げる。
「絶対そうだと思うんだけどな」
「無い無い」
もう、からかわないでよ。ジュードはそう拗ねたように言ってアルヴィンを追い越して歩き出した。
「結構本気だったんだけどな」
後を追いかけてくる声にだからそれは無いって、と返してジュードは再び足を止めてアルヴィンを振り返った。
「それじゃあ、おやすみ、アルヴィン」
「ああ、また明日な、ジュード君」
フットマンとペイジでは当然部屋は違う。自分の部屋に駆けていくジュードの後姿を見送ってアルヴィンは己の部屋へと向かった。
「……ジュードを、ねえ……」
小さく呟いた声は、誰にも聞かれず廊下に消えて行った。

 


翌朝、いつもの様にジュードが他のペイジに交じって雑用をこなしていると、ローエンがやって来た。
「ジュードさん、ちょっと」
「あ、はい」
何だろう、と思いながらローエンの元へ行くと、折り入ってお願いがあるのですが、とローエンが切り出した。
「旦那様にモーニング・ティーを運ぶのを手伝っていただけませんか」
「……え?」
一瞬何を言われたのか理解できなかったジュードは思わず小首を傾げていた。
「旦那様は毎朝お目覚めになられますと必ず読書をなさいます。その際に紅茶をお持ちするのですよ」
「僕なんかが手伝っても良いものなのでしょうか」
まだ入って一か月余りの新人ペイジが主人のプライベート・ルームである寝室に入るなんて事は普通は許されない。
だがローエンは構いません、と穏やかに頷く。
「旦那様に顔を覚えていただくのもお仕事の内ですよ」
そんなものなのかなあと思ったが、ローエンが言うのであればジュードに断る理由はない。
「わかりました……」
ジュードが頷くと、ありがとうございます、とローエンは微笑む。
そしてローエンの後に続いてジュードが主人の寝室への扉の前に立つと、計ったかのようにメイドがティーセットの乗ったワゴンを運んできた。
バトラーは基本的に主人の部屋であろうとノックをせず入室する事を許されている。
ローエンが扉を開け、ジュードがワゴンを押して中へと入るとジュードが数人余裕で寝れそうな天蓋付きの広いベッドの真ん中でガイアスが身を起こして重厚な表紙の本を読んでいた。
「お茶をお持ちしました」
頭を下げるローエンに倣ってジュードも頭を下げる。するとガイアスは本から視線を上げてローエンを見、そしてジュードを見た。
「お前は……ジュードと言ったな」
「は、はい!」
ジュードが一層背筋を伸ばして立つと、ガイアスはそう畏まらなくていい、と告げて本に視線を戻した。
ローエンの視線に促され、ジュードがティーカップに紅茶を注ぐ。手が震えそうになるのを内心で叱咤しながら何とか注いだ。
ジュードがカップを差し出すと、ガイアスがそれを受け取って口にする。
自分は注いだだけなのだが、それでも旦那様が自分の供した紅茶を飲んでくれている、というのはちょっとした感動をジュードに齎した。
「それでは、私どもはこれにて失礼させていただきます」
ジュードがソーサーをワゴンに戻すと、ローエンがそう言って頭を下げたのでジュードも慌ててそれに倣った。
「うむ」
ガイアスが本から視線を上げないまま頷くと、ジュードはローエンの後に続いて部屋を出た。
「初めてにしては上出来でしたよ」
広い廊下を歩きながらのローエンの優しい言葉にジュードはありがとう、と笑い、でも、と首を傾げた。
「ついてなくていいのかな?」
「旦那様はお一人の時間を好まれます。あとはお茶がなくなった頃を見計らってお下げすれば良いのですよ」
「そう、なんですか……」
アルヴィンもガイアスは友人らしい友人を招いた事も無いと言っていた。
「寂しくないんでしょうか」
思わず口を出た言葉に、ローエンがほっほと笑った。
「ではジュードさんが旦那様の話し相手になってさしあげたら良いのでは?」
「ま、まさか!そんな大それた事出来ませんよ!」
何処まで本気なのかわからないローエンの言葉に、ジュードは慌ててそれを否定した。
「旦那様はお喜びになると思うのですがねえ……」
「それこそ有り得ないです……」
一介のペイジでしかない自分がガイアスに近づくなど、恐れ多くて出来やしない。
慌てふためくジュードの言葉に、ローエンはまたほっほと声を上げて笑ったのだった。

 

 

 

 


その日の午後、ジュードは自由時間を部屋で過ごしていた。同じペイジでも自由時間はそれぞれ違う。
一人きりの部屋でジュードはベッドに座って実家から持ち込んだ本を読んでいた。
すると軽いノック音が聞こえて顔を上げると、返事を待たずして扉が開いた。
「ジュード君、みっけ」
「アルヴィン。どうしたの?」
顔を覗かせたのはアルヴィンだった。ちょいちょいと手招きされ、ジュードは本を枕元に置いてアルヴィンの元へ向かった。
「ちょっと、こっち来て」
「え?」
手首を掴まれ、ぐいぐいと引っ張られる。ちょっとアルヴィン、と抗議しても良いから良いから、と返されてしまう。
「アルヴィン、仕事は?」
「俺もフリーなお時間なの」
本当かなあと思いながらついて行くと、辿り着いたのは食糧庫だった。
「食糧庫に何の用なの?」
「こっち」
引っ張られるがまま小麦や米の詰まった麻袋の間を通り抜け、一番奥まった場所まで連れて行かれる。
「アルヴィン?」
これ以上は進めないという所まで来て漸くアルヴィンは足を止めて振り返った。
「ジュード君」
掴まれた腕を引っ張られ、そのまま抱きすくめられる。
「ア、アルヴィン?」
優しいその抱擁に上ずった声を上げてアルヴィンを見上げると、すっと顔が近づいてきて口付けられた。
「んんっ」
突然の事にジュードは吃驚してアルヴィンの胸を押し返そうとする。けれど力の差がありすぎて、どれだけ突っぱねようとしてもびくともしない。
「んっ……ふ……」
滑り込んできた生暖かいその感触にジュードが目を見開く。反射的に逃げようとする舌を絡め取られ、吸い上げられる。
微かな水音を立てながら絡み合うその感触にジュードは次第に体の力が抜けていくのを感じた。
「ん、ふあ……ぁ……」
「おっと」
長い口付けから解放されると、ジュードの体はへたり込みそうになり、アルヴィンに支えられる。
「キスだけで腰砕けちゃったわけ」
くすりと耳元で笑われて、ぞくりとした何かがジュードの体を走った。
「だ、って……」
「これからもっと凄い事、するのにな」
「え……?」
ジュードの腰を支えるのとは反対側の手が、しゅるりとジュードの首元の白いリボンを解いた。
「アル、ヴィン……?」
ベストのボタンも外され、シャツのボタンも一つ、また一つと外されていく。
「なんで、脱がすの……?」
「ジュード君にえっちな事をするため」
アルヴィンの手がジュードの素肌を滑り、ジュードはぴくりと体を震わせた。
「あっ」
胸元の突起をきゅっと摘ままれ、ジュードは自分が上げた甘い声に吃驚した様に目を見開いて手で口元を覆った。
かあっと赤くなっていく頬にアルヴィンが口付け、指の腹で摘まんだそれを押し潰す。
「んっ……」
「……気持ちいい?」
「っ……」
ふるふると首を横に振るジュードに、嘘はいけないなあとアルヴィンは笑いながら片膝をつき、その摘まんだ突起とは反対側の突起をねっとりと舐め上げた。
「んんっ……!」
ちゅうっと吸い付かれ、全身を走る快感にジュードは膝が砕けそうになる。
「ほらジュード君、ちゃんと立ってないと服が汚れちゃうぜ」
「っ」
アルヴィンの言葉にはっとして足に力を入れると、素直でいいねえとアルヴィンが笑った。
「なあ、ジュード君。抵抗しないのは気持ちいい事が好きだから?それとも、俺の事が好きだから?」
ジュードがそのどちらも否定するように首を横に振ると、さっきは素直だったのになあとアルヴィンが喉をくつりと鳴らす。
「俺はジュード君の事が好きだからこんなに触りたいって思ってるのに、ジュード君は教えてくれないわけ?」
「っ、う……」
アルヴィンの舌がジュードの臍を舐り、ジュードはぎゅっと目を閉じて口元を覆っていた手を緩めた。
「ア、ルヴィンの、こと、は……嫌いじゃ、ない、よ……」
「じゃあ、好き?」
「わかんない……でも、いつも気にかけてくれるのは、嬉しい……よ」
ジュードの応えにふうん、とにやにやとしながら返したアルヴィンは、素直な子にはご褒美を上げないとね、とジュードのベルトを外し始めた。
「ちょ、アルヴィ……!」
「じっとして」
ボタンを外し、ジッパーを下ろすと緩やかに立ち上がったそれが下着を押し上げているのが分かった。
アルヴィンは唇の端を歪めて笑うと、指で下着を引っかけて下に引き摺り下ろした。
「や、ある、ああっ」
羞恥から身を捩って逃れようとしたジュードのそれをアルヴィンは躊躇なく口に含んだ。
「あ、あっ、やっ」
舌で裏筋を舐め上げられ、吸われ、先端を舌先で弄られるとあっという間にジュードのそれは硬く勃ち上がった。
「あ、ある、あるび……!」
じゅぷじゅぷと音を立てて口と舌で勃ち上がったそれを刺激され、慣れない快感にジュードはあっという間に登りつめる。
「アルヴィ、だめ、でちゃう……!」
しかし訴えてもアルヴィンは離してはくれず、耐えきれなくなったジュードはアルヴィンの口内に熱を放った。
こくりとアルヴィンの喉が鳴る音が微かに聞こえてジュードはますます赤くなった。
「ア、ア、アルヴィ、の、飲ん……ひあ!」
達してなお吸われ、ジュードは甲高い声を上げた。
管に残った熱の最後の一滴まで吸い上げようとするその動きにジュードは脚を震わせる。
漸く満足したらしいアルヴィンがちゅるりと萎えたそれを吐き出すと、頑張って立ってろよ、と囁いて更にその奥へと舌を伸ばした。
「やっ、やだ、アルヴィン、そんなとこ……ぁんっ」
固く閉ざされた蕾を舌先で突かれ、ジュードはひくりと震える。
アルヴィンの舌はジュードの蕾を突いていたかと思えばべろりと舐め上げ、音を立てて舐った。
「や、あ、やだ、やだよアルヴィ、ン……あっ!」
舌先が中へと入り込んでいく感覚に、ジュードは砕けそうになる足に必死で力を込めて耐えた。
「あ、あ、あっ……」
にゅぐにゅぐと舌を抜き差しされ、そこにアルヴィンの節ばった指が入り込んでジュードはその圧迫感にぞくぞくと背を反らした。
入り込んだ指はゆっくりと抜き差しされ、指の腹が内壁を擦る。
「あっ、やっ、なに……!」
アルヴィンの指の腹がしこりを擦った途端、ジュードの腰が跳ねた。
「あ、あっ、やっ、そこ、やだっ」
萎えていたジュード自身が再び熱を取り戻し、ぴくぴくと震えている。
それを見たアルヴィンはにやっと笑うと再び勃ち上がったそれを口に含んだ。
「ああっ、や、両方から、だめっ……!」
前を吸われ、後ろを指で擦られジュードは快感に溶けた目でアルヴィンの頭を見下ろした。
「ひもひいい?」
「やっ……舐めながら喋らないで……!」
ジュードの熱を舐りながらアルヴィンが見上げてくる。目が合っただけでジュードはぞくぞくとした快感が背筋を駆け巡るのを感じた。
「あ、あ、アル、あっ……」
二度目の高みにあと少しで辿り着くという所でアルヴィンは唇を離し、指も引き抜いてしまった。
「ある、び……?」
「やばい、ジュード君が可愛い過ぎて俺ももう限界」
アルヴィンは立ち上がるとジュードの体を反転させ、壁に手をつく様に指示する。
言われるがままに従ったジュードの背後でアルヴィンがかちゃかちゃと己のベルトを外す音が聞こえた。
幾ら疎いジュードでも、ここまでくれば次に何をされるかなんてわかっている。
「アルヴィン……なんで……」
ジュードの問いに、アルヴィンは己の猛った熱をジュードの解れたそこに押し当てながら決まってるだろ、と囁いた。
「ジュード君が旦那様のお手付きになる前に、俺のモノにしちゃおうってわけ」
「旦那様が僕を相手にする事なんてな、あ、あっ……!」
ぐぐっと押し入ってきたその質量にジュードは大きく目を見開く。
逃げようにも腰をしっかりと掴まれていて逃げられない。その熱さと痛みでジュードはがくがくと膝を震わせた。
「いっ……た……!」
「……く……やっぱキツイな……」
耳元で低く囁く声にぞくりと背を震わせるとその隙を狙ってアルヴィンの熱が一層奥を目指して侵入してきた。
「あ、あ、あ……!」
やがて突きだした尻にアルヴィンの腰が当たる感触がして、アルヴィンの熱を根元まで飲み込んだのだと知る。
「ジュード君の中、ひくひくしててすっげえ気持ちいいぜ……」
背後から抱きすくめられ、ジュードは無意識にそこを締め付けていた。
「ちょ、ジュード君、それ反則……」
「や……アルヴィン……!」
「……動くぜ」
「待っ、あっ、待って、ある、あっ」
「ダメ、待てない」
ぬぷぬぷと抜き差しされるそれがジュードの内壁のしこりを擦り、ジュードは甘い声を上げる。
最初に感じていた痛みは、いつの間にか快感にすり替わっていた。
「あっ、あっ、あっ」
「やばい、マジで気持ちいい……!」
徐々に早くなっていく律動と全身を貫く快感に、ジュードはただ翻弄されていた。
「あっ、あっ、や、やだっ」
アルヴィンの手がジュードの勃ち上がった熱に伸び、くちゅくちゅと音を立てて擦りあげる。
前と後ろからの快感にジュードは頭の中が真っ白に染まっていくのを感じていた。
「あ、あっ、ああっ」
やがてアルヴィンの手の中に熱を吐き出すと、背後でアルヴィンも小さく呻いて達した。

 


その日から度々アルヴィンはジュードを人気のない所へ連れ出しては抱いた。
そしてアルヴィンは時折ジュードに愛を囁いたが、ジュードはそれを信じていいものか判断しかねていた。
普段のアルヴィンは隙あらばメイドに声を掛け、口説いている。
相手のメイドの方もアルヴィンの性格を知っているので適当に相手をして追い返している。
それはジュードと関係を結んでからも変わりなくて、アルヴィンはどういうつもりなのだろうと思う。
アルヴィンはジュードをガイアスに奪われる事を心配していたが、そんな事はあるわけがないのだとジュードは信じていた。
確かに今では毎日ローエンの後についてガイアスのモーニング・ティーを淹れに寝室を訪れていたが、ガイアスはいつも最低限しか言葉をかけてこなかったし、視線を合わせる事すら稀だった。
ジュードは自分がガイアスの部屋に入れるのはローエンに目を掛けてもらえているからだと思っている。
だから例え明日から違うペイジがローエンのサポートに回ったとしてもガイアスはきっと何とも思わないだろう。
それ所か、ペイジが変わった事すら気づかないかもしれない。
そもそもローエンは今まで一人でガイアスにモーニング・ティーを淹れに行っていたはずだ。
それがどうして突然ペイジを連れて行こうなどと思ったのか。
ローエンの考えまではわからなかったのだが、それはまあそれでいい。ただ従っていればいいのだから。
だが問題はアルヴィンだ。どうやらジュードの自由時間に合わせて自分も自由時間を取っているようで、そうやって時間さえ合えば毎日の様に物陰に連れ込まれる。
大抵が自由時間が終わるギリギリまで離してもらえず、慌てて後始末をして仕事に戻る事もしばしばだ。
行為の後の仕事は最初の頃は体が重かったが、今ではそれにも少し慣れてきた。慣れたくはなかったが。
そしてジュードは自分の気持ちもわからなかった。
アルヴィンの事は好きだ。普段から気にかけてくれるし、情事の時も手荒く扱われたことは無い。
だが、ジュードは己の好きという感情が、アルヴィンがジュードに囁くようなそれなのかまではわからなかった。
ただ、好きではないのならばアルヴィンとの情事に抵抗感を抱いても良さそうなものだ。
ということはやはり自分はアルヴィンが言うのと同じ意味でアルヴィンを好きなのだろうか。
そう思いながらも、ただ流されているだけのような気もしてジュードはうーんと唸りながら手にしていた雑巾をきつく絞った。
「ジュード、休憩時間じゃない?」
「え?」
ペイジの少年の声にジュードが時計を見上げると、確かに己の自由時間になっていた。
「本当だ、ありがとう。じゃあ休憩に入ります」
他のペイジ達にそう告げてジュードは掃除道具を手に部屋を出た。
屋敷の裏手に出て汚れた水を捨て、掃除道具を片づけるとひょっこりとアルヴィンが姿を現した。
「よう、お疲れ、ジュード君」
「……お疲れ様。今日もするの?」
少々げんなりしながら問えば、勿論、とアルヴィンは良い笑顔で笑った。
「僕、今日は疲れてるんだけど」
「じゃあ軽めに済ませてやるよ」
濃厚なのはまた今度な、と頬に口づけられ、する事に変わりはないのか、とジュードは溜息を吐いた。
「……食糧庫行くの?」
アルヴィンとする時は大抵が食糧庫か用具庫だ。しかしアルヴィンはいや、と首を振ってそれを否定した。
「今日は食糧庫にはまだ人がいるんだよな。用具庫は使用中だし」
「?」
使用中、の一言に含みを持たせた言い方をしたアルヴィンにジュードが首を傾げると、こっちの話、とアルヴィンは笑った。
「だから、こっち」
おいで、と連れて行かれた先は、裏手の林の中。
「……まさか、アルヴィン」
「たまには開放的でいいだろ?」
しれっとして言うアルヴィンに、外でなんて嫌だよ、と掴まれた手を振り払おうとするがいつもの通りにがっちり掴まれていて振りほどけない。
「何事も経験だぞ、ジュード君」
「そんな経験したくないよ!」
「静かにしろって。そんなに見つかりたいの?」
「っ」
黙ったジュードを良い子良い子、と笑ってアルヴィンはその腕を引き寄せた。
じゃれあいながら林の奥へと入って行く二人を見つめる視線があった事に、ジュードは気付かなかった。

 

 


 

遠方のラ・シュガル地方へ赴いていたガイアスはその帰路でさすがに疲れを覚えていた。
向こうにいる間は忙しさでそれ所ではなかったのだが、こうして馬車で長時間揺られていると疲労感が押し寄せてくる。
馬車の中で眠る事を好まないガイアスは書類に目を通しながら時間を潰していると、一日が終わろうという時間になって漸く屋敷が見えた。
ジュードは居るだろうか。ガイアスは一か月前、ローエンから告げられた新しく雇った少年に思いを馳せた。
ガイアスはジュードを知っていた。そもそもローエンがディラックと懇意になったのはガイアスがディラックの元に一時期通っていたからだ。
必要に駆られて医学について少し学ぶ事にしたガイアスは、十年前、名医と有名なディラックの元を訪れた。
そこに居たのが幼いジュードだった。
前領主との争いの中で荒んでいたガイアスの心を、幼い子供の無邪気であどけない笑顔が癒した。
領主となってからは忙しさから足は遠のき、気付けば十年の時が過ぎていた。
会う事は無かったが、それでもこの十年、あのあどけない笑顔を忘れた事は無かった。
ローエンからジュードが奉公先を探していると聞いた時、即座に自分の屋敷に迎える事を決めていた。
ジュードは恐らくガイアスの事など覚えてはいないだろう。それでもガイアスはジュードを近くに置きたかった。
そして結局ジュードがやってくる前日からラ・シュガルへ赴いていたのでジュードとは顔を合わせてはいなかった。
あの子供はどんな風に成長したのだろう。ガイアスはこの一か月、ふとした折にそう思った。
優しい笑顔で笑う子供はとても愛らしかった。その面影は残っているのだろうか。
そう思いながら馬車を降り、屋敷の中に入る。
一目でわかった。十年が過ぎてもそこに居るのがジュードだと、ガイアスにはわかった。
緊張で強張った顔は、それでもあの頃のあどけない面差しを残していた。
また笑ってほしい、とガイアスは思ったが、今は無理なのだという事も理解している。
ガイアスは励めよと一言だけ告げると自室へと向かった。
そしてその翌朝から、ローエンはジュードを連れて朝の紅茶を持ってくるようになった。
ガイアスがジュードを気にかけていると察しての事だろう。食えない爺だ。
ジュードは見るからに緊張していたので、できるだけ視線を合わせないようにした。
本当はまじまじとその姿を見ていたかったが、興味なさげに振舞った。
今はこれだけでいい。そう思いながら一か月が過ぎた頃。
ガイアスは書庫で仕事に必要な本を手に取っていた。
基本的にガイアスは仕事に関する事は自分の足で赴く事にしていたので、この日も自ら書庫で本を選んでいた。
ついでに明日の朝読む本も選んでいると、窓の外に動くものがあったのでそちらに視線を向けた。
ジュードだった。ジュードがフットマンの男に腕を引かれて林の中に入って行くのが見えた。
あの男は確かアルヴィンと言った筈だ。ガイアスが林の中へ消えていく二人を見ていると、不意にアルヴィンがジュードに口付けた。
それを見た瞬間にガイアスの中で湧き上がった感情を何と呼べばいいのだろう。
ジュードはさして嫌がった様子もなく、二人は何か話しつつじゃれあいながら林の奥へと消えて行った。
掴んだ本がみしりと悲鳴を上げた。だがそれに気付かぬままガイアスはじっと二人が消えて行った先を見詰めていた。

 


その夜、ジュードが風呂から上がって部屋に戻ると同室の少年が声を掛けてきた。
「ローエンさんが呼んでたよ」
「え?何だろう」
ジュードは夜着から再び制服に着替えるとローエンの部屋を訪れた。
「お呼び立てしてすみません」
「いえ、どんなご用でしょう」
「旦那様がお呼びです」
ローエンの言葉にジュードはきょとんとする。
「……僕、何かしましたか」
こんな時間に呼び出されるなんて、何か不興を買ったに違いない。
そう思っての言葉に、ローエンはほっほと声を上げて笑った。
「そういうわけではありません」
「では何故……」
「旦那様がジュードさんにお願いがあるようでして」
「お願い?」
旦那様がペイジにお願いするような事があるのか。そう思っていると行けばわかりますよ、とローエンは笑った。
「さ、旦那様をお待たせしてはいけません。参りますよ」
「はい……」
腑に落ちないままジュードはローエンの後に続いてガイアスの寝室に向かう。
ローエンが扉を開けると、ガイアスは白のソファにゆったりと座って何かの書類を読んでいた。
「ジュードさんをお連れしました」
「うむ」
ガイアスが書類から視線を上げないまま頷くと、ローエンは一礼して退室してしまった。
ガイアスと二人きりになるのは初めてであるジュードは、緊張から顔を強張らせてガイアスを見ていた。
不意にガイアスが書類から視線を上げ、ジュードを見る。
「!」
その緋色の瞳に射抜かれ、ジュードは一本の棒の様に立ち尽くしていた。
「お前をヴァレットに昇格させる」
「え……?」
僕が、ヴァレット?ジュードは目を丸くした。
ヴァレットとは常に主人の行き先にお供し、主人の身の回りの面倒を見る役を負った男の事だ。
普通なら何年もフットマンを勤め上げ、なおかつ主人に気に入られた者だけがなれるアッパー・サーヴァントだ。
フットマンどころかペイジになって二か月余りの自分がなれる様な役職ではない。
ジュードは困惑しながら主を見た。
「あの……どうしてかをお聞きしても良いですか」
ジュードの問いに、ガイアスはジュードから視線を外すと書類をテーブルに置き、さらさらと何やら書き込み始めた。
「……俺が気に入ったからだ」
ペンが紙の上を走る音が僅かに響くだけの室内で、ジュードはますます困惑した表情を浮かべた。
「でも、ペイジになったばかりの自分が良いのでしょうか……」
「俺が良いと言っているのだ。構わん」
確かにそうなのかもしれないが。ジュードが返事に窮しているとペンを置いたガイアスがジュードを再び見た。
「嫌か」
「い、いえ!嬉しいです」
そもそも嬉しかろうが嬉しくなかろうがジュードに拒否権はない。
「明日には部屋も手配させる」
「は、はい」
ヴァレットとはこの屋敷ではバトラーに次ぐ地位を持っている。部屋も当然個室だった。
「明日からは他のヴァレットに付いて仕事を覚えろ」
「はい」
ジュードが頷くと、それと、とガイアスが言葉を続けた。
「お前には想い人は居るのか」
「え?」
質問の意味が理解できずに思わず小首を傾げると、恋人はいないのか、とガイアスが問い直してきた。
一瞬アルヴィンの顔が浮かんだが、しかしアルヴィンとは体の関係はあっても恋人という関係ではない。
「い、いえ……」
バトラーやヴァレットが結婚する事を嫌う主人は多い。そういう事なのだろうかと思っているとフットマンの男は恋人ではないのか、と問われた。
「え」
ぎくりと身を強張らせる。フットマンの男、というのはアルヴィンの事だろう。何故ガイアスが二人の関係を知っているのか。
しかしガイアスは真っ直ぐにジュードを見詰める。嘘偽りは許さないと言わんばかりの視線に、ジュードは唇を震わせた。
「そ、の……アルヴィンとは、恋人ではありません……」
するとガイアスは静かに立ち上がり、ジュードの前に立った。
その長身を怯えたように見上げてくるジュードの頬に手を添え、ならば良いな、と告げた。
「え?」
ジュードが疑問の声を上げると、不意にガイアスの顔が近づいてきて口付けられた。
え?ジュードは一瞬にして頭の中が真っ白になった。
「んっ……」
ぬるりと熱い舌が歯列を割って入り込んできてジュードはぎゅっと目を閉じた。
何が起こっているのか、理解するのに時間を要した。
「ん……ふぁ……」
旦那様が、僕にキスしてる。
なんで、どうして。ジュードは混乱しながらその口付けに翻弄された。
「は……ぁ……」
長い口付けから解放され、ジュードが涙で潤んだ目で見上げるとガイアスは微かに笑った。
ジュードが初めて見たガイアスの笑みだった。
ガイアスはまるで女性をエスコートするようにジュードをベッドに導いた。
ベッドを目の前にしたジュードが不安げにガイアスを見上げると、そう固くならなくて良い、とガイアスが耳元で囁いた。
「っ」
その耳朶を擽る低音にジュードが背筋を震わせると、ガイアスがベッドに上がった。
「来い」
「は、い……」
差し伸べられた手に導かれるようにしてジュードもまた靴を脱いでベッドに上がる。
手と手が重なり合うと、ぐいっと引き寄せられて再び口付けられた。
「ん、んっ……」
腰を抱き寄せられ、体と体が密着する。小柄な自分とは全く違う逞しい体に抱きしめられ、ジュードはうっとりと目を閉じた。
口付けを交わしながらガイアスの手がジュードの服を脱がしていく。
「んっ……」
ガイアスの手がジュードの胸元を滑り、その突起に触れた。
「ん、ふぁ、んん……」
くにくにと指の腹で押しつぶされ、摘ままれてジュードは喉を甘く鳴らした。
「ぁ……」
口付けから解放され、そっと豪奢なベッドの上に押し倒される。覆い被さってきた男はその唇をジュードの胸元に寄せた。
「ぁっ……ん、ん……」
ぷくりと勃ち上がった突起を舐られ、ジュードは漏れる声が恥ずかしくて噛み殺そうとする。
「耐えなくて良い。その愛らしい声を存分に聞かせろ」
そう言ってガイアスはジュードの胸の突起を強く吸い、ジュードから甘い声を引き出した。
「あ、あ……」
じわりと下肢に集まっていく熱に耐えかねたようにジュードが腰を揺らすと、ガイアスがふと笑った。
「腰が揺れているぞ」
「っ……す、みませ……ぁっ……」
ガイアスの手がジュードのズボンを下着ごと下ろし、ふるりと現れたジュードの熱にガイアスの指が絡んだ。
「ぁ、あっ、ん……!」
胸元を吸われながらの下肢の愛撫にジュードは身を捩る。
ガイアスの舌が胸元から腹に下って行き、まさかと思うジュードの目の前でガイアスはジュードの熱を口に含んだ。
「あっ……あ、だ、んなさま……!」
旦那様が、僕のを舐めている。その背徳感にジュードは身を震わせた。
ちゅぷちゅぷと音を立てて吸いながらガイアスはジュードの更にその奥へと指を滑らせた。
「あっ!あ、あ……!」
前を舐られながら蕾の上を滑る指の感触にびくりとする。
つぷりと入り込んでくる圧迫感に震えていると、ジュードの熱から唇を離したガイアスが舌でそれを舐め上げながら言う。
「……今日もあの男に抱かれてきたのか」
易々とガイアスの指を飲み込んでいくそこに、ジュードは羞恥で身を竦ませた。
「は、い……」
「これからは、お前は俺だけを見ていればいい」
「だんな、さま……!あ、あっ……!」
ガイアスの指の腹がジュードの内壁にあるしこりを擦りあげる。熱い口内に含まれている熱がひくりと震えた。
やがて指が引き抜かれ、ガイアスが高級そうなリンネルの夜着を脱ぎ捨てた。
現れた逞しい肉体とそこに屹立する長大な熱にジュードは無意識に身を震わせた。
ガイアスの手がジュードの脚を割り、抱え上げる。ジュードのそこに熱を押し当てると、怯えたように見上げてくるその頬にガイアスは優しく口付けた。
「力を抜いていろ」
「はい……」
ガイアスがゆっくりと腰を進めていくと、ジュードは甲高い声を上げて背を撓らせた。
「あ、あ、あっ……!」
「……っ……」
その狭さと蠢く内壁の熱さにガイアスが小さく呻く。
「あぁ、あ、あ……!」
昼間はアルヴィンの熱を受け止めていたジュードのそこは貪欲にガイアスの熱を飲み込んでいった。
しかし長大なガイアスのそれを根元まで受け入れる事は出来ず、ジュードははくはくと酸素を求めて荒い息を吐いた。
「あっ……!」
ずるりと引き抜かれ、また深い所まで抉られる。ゆっくりとしたそれに全身に痺れのような快感が走った。
「あ、あっ、だん、なさまっ……!」
「二人きりの時はガイアスと呼べ」
「で、でも、あっ……!」
「ガイアス、だ」
「ガイ、アス……!」
「それで良い」
腕を、と言われジュードは今までシーツを握っていた手を恐る恐るガイアスの逞しい体に回した。
「あっ」
途端に速くなった律動にジュードは必死でガイアスにしがみ付く。
「あっ、あっ、ガイ、アス、ガイアス……!」
「ジュード……」
強い衝動に突き動かされてガイアスはその熱を根元まで無理やり押し込んだ。
「ひあっ」
ジュードの体がびくりと震える。とっさに逃げようとするその腰を掴んでガイアスは強く腰を打ちつけた。
「ひっ、あっ、あっ、がいあす、がいあすっんんっ」
強い快感に舌っ足らずになってきたその唇を奪い、舌を絡めながらガイアスは一層律動を速めていく。
「んんっ、んっ、ふあっ、あっ、あっ」
高まっていく快感に打ち震えながらジュードはひたすらガイアスの体にしがみ付いた。
「あ、あっ、あっ、ああっ……!」
ジュードが己の腹に熱を放ち、ガイアスの熱を締め上げるとそれに引きずられるようにしてガイアスもジュードの最も深い所で熱を放った。

 


ジュードが朝の光に照らされ目を覚ますと、既にガイアスは身を起こして本を読んでいた。
あの後、立てなくなってしまったジュードを抱えてガイアスは備え付けの風呂でジュードの身を清めた。
制服で訪れたジュードにガイアスは自分の夜着の上に羽織っていたガウンをジュードに着せた。
そして今宵は共に眠ってくれまいかと乞われ、ジュードはガイアスの腕の中で眠りに就いた。
最初こそきっと寝れないだろうと思っていたものの、仕事と情事で疲れた体はすぐに眠りを連れてきて気付いたら朝になっていた。
ぼんやりとガイアスの整った横顔を見上げていると、視線に気付いたガイアスが視線を本からジュードに移した。
「目が覚めたか」
「は、い……あの、僕……」
身を起こしながら何を言えばいいのかと言葉を詰まらせていると、ガイアスが体は、と聞いてきた。
「大丈夫、です……」
長大なそれを根元まで受け入れさせられた下肢は未だにじわりとした違和感を訴えていたが、ジュードはそれを無視して頷いた。
「無理をさせたな。すまない」
「いえ……」
さらりと髪を撫でられ、ジュードは気恥ずかしさに視線を落とす。
「今日は一日休むか?」
「い、いえ、大丈夫です!」
ふるふると首を振るジュードに、ガイアスはそうか、と穏やかに笑った。
その笑みにジュードがぽうっと見とれていると、ガイアスが頬にそっと口付けてきた。
「そんな顔をするな。また抱きたくなる」
「っ」
かあっと頬に朱を上らせたジュードに、ガイアスはくつくつと喉を鳴らして笑った。

 

 


 

ジュードに新たに与えられた部屋は、狭いが確かに一人部屋だった。
荷物を纏めに今までのペイジの部屋に向かうと、少年達にもジュードの突然の昇格は伝わっていたらしく根掘り葉掘り聞かれた。
しかし基本的に彼らは性根の優しい少年ばかりだったので、あっという間に自分たちを追い越して行ったジュードにしっかりね、と声を掛けてくれた。
「あの旦那様に気に入られるなんて余程の事なんだから」
その言葉に曖昧に頷きながら、本当に何故自分が気に入られたのかがわからないジュードは内心で首を傾げていた。
そして荷物を自分専用となった部屋に運び込むと、今まで三人だったヴァレットの纏め役をしているユリウスがジュードを迎えに来た。
ユリウスはガイアスが領主になってすぐに雇われており、ガイアスのフットマンを長年勤めた末にヴァレットに昇格した男だった。
宜しくお願いします、と頭を下げるジュードに、そんなに緊張しなくていい、とユリウスは笑う。
ユリウスに一通りの仕事の流れを説明されながら、ジュードは必死で頭に内容を叩き込んだ。
そして昼過ぎに自由時間を貰い、ジュードが自室で教えられた事を頭の中で整理しているとばたんと勢いよく扉を開けられた。
「ジュード!」
飛び込んできたのはアルヴィンだ。突然の事にジュードがぽかんと見上げていると、アルヴィンはずかずかと部屋に入ってきてジュードを見下ろした。
「ヴァレットになったって、本当だったんだな」
「え、っと……うん」
ジュードが曖昧に頷くと、アルヴィンの手がジュードの肩を掴んだ。
「あいつに抱かれたのか」
「アルヴィン……!痛い……!」
「あいつに抱かれたのかって聞いてるだろ!」
アルヴィンの剣幕にジュードは怯えながら小さく頷く。するとアルヴィンはあの野郎、と舌打ちしてジュードを抱きしめた。
「人のもんに手ぇ出しやがって……!」
「アルヴィン……?」
アルヴィンはジュードの体を離すと、その両腕を掴んでなあジュード、と切なげに顔を歪めて言った。
「俺、言ったよな。おたくの事が好きだって。愛してるって」
「本気、だったの……?」
呆然として呟いたジュードに、アルヴィンは苦笑した。
「……信じてねえだろうとは思ってたけどよ。これでも本気でおたくの事愛してんだぜ……?」
なあジュード。アルヴィンはジュードを真っ直ぐに見つめながら言う。
「俺と一緒に、何処か遠くへ行かないか」
「え……?」
「この屋敷を出て、何処か遠くの街で二人で暮らそう」
「本気で、言ってるの……?」
ジュードの震える声に、本気だ、とアルヴィンが頷く。
「俺は、おたくを旦那様に渡す気はないぜ」
「でも、僕……」
視線を彷徨わせるジュードに、アルヴィンはお願いだ、とジュードを抱き寄せる。
「俺を選んでくれ、ジュード……!」
「アル、んっ……」
口付けられ、体を弄られる。ベストのボタンを外そうとする手を、待って、とジュードは止める。
「なんで拒むんだ。俺じゃ駄目なのか、ジュード……!」
「そういう事じゃ無くて……」
「だったら何だって言うんだ」
「僕……僕は……」
「ハイ、ストップ」
突如割って入った第三者の声に二人はばっと声のした方を見る。
「そこまでにして貰おうか」
扉の前に立っていたのは、ユリウスだった。
「ユリウスさん……」
ほっと安堵の声を上げるジュードとは反対に、アルヴィンはちっと舌打ちした。
「ジュード、俺とお茶でもしながら少しお話しようか」
おいで、と手招きされ、ジュードは戸惑う様にアルヴィンを見た後、こくりと頷いてユリウスの元に駆け寄った。
「さ、行こう」
「……アルヴィン、ごめんね」
ユリウスに連れられて出て行ってしまったジュードの部屋で、アルヴィンは畜生、と吐き捨てた。

 


この屋敷にはアッパー・サーヴァントにしか入る事が許されない部屋がいくつか存在する。
その内の一つの部屋にユリウスはジュードを連れてきた。
談話室のようになったそこのソファを勧められ、座ると向かいにユリウスが腰を下ろした。
すぐに給仕見習いの少年が紅茶を運んできて二人の前に置いていった。
給仕されることに慣れていないジュードがおどおどとしていると、ユリウスに笑われた。
「君はもうアッパー・サーヴァントなんだから、堂々としていればいい」
「はい……でもまだ実感が無くて……」
「まあ、確かに十五でアッパー・サーヴァントになれる事はまず無いから戸惑うのもわかるよ」
笑って紅茶に口をつけるユリウスに倣って自分も紅茶に口をつける。
温かく品の良い香りの紅茶にジュードはほっとした。
「……あの、さっきはありがとうございました」
気恥ずかしさも手伝ってぼそぼそと言うジュードに、ユリウスは気にしなくて良い、と穏やかに笑う。
「使用人同士が情を縺れさせる事はよくある事だ」
ただ、とユリウスは穏やかな視線のままジュードを見据えて言う。
「君は旦那様のお気に入りだ。余計な虫が付かないようにするのも俺の役目だ」
「……あの、僕、なんで旦那様に気に入られたのか、わからないんです……」
「そうだなぁ。旦那様は基本的に余り他人に興味を持たれない方だ。ヴァレットの俺達だってこれが仕事だからお傍に仕えさせて貰えているわけだけど……」
そこで言葉を区切ってユリウスはまた一口紅茶を口にする。
「君のような気に入られ方をしたのは、俺が知る限り初めてだ」
「はあ……」
ジュードは昨夜の出来事を思いだしてかあっと顔を赤くする。
ユリウスは恐らくジュードとガイアスの間にあった事も察している。だからそんな含みを持った言い方をするのだ。
「けど、俺は良い傾向だと思ってる」
「え……」
「旦那様は今まで友人と呼べる相手も殆ど作らず、妹君も遠ざけてお一人でその道を歩んで来られた」
「妹さんがいらしたんですか……」
「領主になってからは余り顔を合わせていないけれどね。そんな孤独の中にいた旦那様の前に君が現れた」
旦那様はずっと心安らげる場所を探しておられたのだろう、とユリウスは言う。
「僕なんかが、旦那様の安らぎの場になれるんでしょうか……」
「それは君次第だと、俺は思っているんだけれどね」
「僕、次第……」
「君がこの先もアルヴィンとの関係を続けるのであれば俺はもう止めはしない」
「……」
「ただ、この屋敷の主は旦那様だという事は忘れてはいけないよ」
「……はい」
俯いたジュードに、さて、とユリウスは懐中時計を取り出して時間を確認する。
「そろそろ時間だ。仕事に戻ろう」
「はい」
カップを置いて立ち上がったユリウスに続いてジュードも立ち上がった。

 


一日の仕事を終えたジュードがほっと一息吐いているとユリウスがまだだよ、とジュードを見下ろした。
「君にはもう一つ重要な仕事があるだろう?」
「え?」
何の事だろう、と小首を傾げるとユリウスはくすくすと笑って言った。
「湯浴みを終えたら旦那様のお部屋に上がるんだよ」
「!」
ぼっと音がしそうな勢いで赤くなったジュードに、ユリウスは今度こそ声を上げて笑った。
「本当にすぐに顔に出るな、君は。うちの弟とよく似ている」
「お、弟さんがいるんですか……」
恥ずかし紛れの問いに、ユリウスはああ、と頷いた。
「この屋敷でセカンド・シェフを務めている。今度紹介しよう。きっと気が合うと思うよ」
「は、はい……」
セカンド・シェフならば恐らく顔を合わせているはずだ。誰だろうと思いながらも気持ちはこれからの事に傾いていた。
そしてロワー・サーヴァントの頃使っていた風呂より遥かに広い風呂で汗を流し、ジュードはもう一度制服を纏うと主の寝室の扉を叩いた。
入れ、と主の声がしてジュードが恐る恐る入室すると、ガイアスは昨夜と同じように白のソファに座って本を読んでいた。
そして視線を上げるとジュードを呼ぶ。
「はい」
歩み寄ると、座れ、と隣を示される。僅かな逡巡の後にジュードはそっと上質なソファの上の腰を下ろした。
「失礼します……」
人一人分のスペースを開けて座ったジュードに、ガイアスは不満げにそのスペースをぽんと叩いた。
「近くに来い」
「は、はい……」
ジュードがその空いたスペースを詰めて座り直すと、今度は満足げに頷いてガイアスはジュードの肩を抱き寄せた。
「わっ……」
ぴたりと密着するとガイアスの熱が伝わってきて緊張が増す。そんなジュードの顎をガイアスの手が掴み、くいっと上向かせた。
「ん……」
優しく口付けられ、ジュードはそっと目を閉じる。
「ん……ん……」
熱い舌がジュードの小さな舌に絡んで静かな室内に僅かな水音が響いた。
ああ僕、今夜も旦那様に抱かれるんだ。漸く実感として湧いてきたそれにジュードはアルヴィンを思い出す。
アルヴィンはどこまで本気なのだろう。いつも飄々としているから真意を測りかねる。
今夜も旦那様に抱かれるって知られたら、アルヴィン、怒るかな……。
そう思いながらもジュードはただ与えられる刺激にぞくりと身を震わせた。

 


翌朝早くに自室に戻ったジュードは、制服を新しいものに着替えると何事もなかったように仕事に励んだ。
ヴァレットとしての仕事は基本的に主人に付き従い、身の回りの世話をする事なのでジュードは常にガイアスの傍らにその身を置いていた。
良きヴァレットとは主人の気持ちを素早く察する事の出来る者を言う。ジュードはガイアスの行動パターンを覚えようと必死だった。
今はまだジュードの勤務時間帯は安定しておらず、自由時間もその日その日で違っていた。
だから自由時間にアルヴィンと会う事は無かったのだが、ジュードはそれに何処かほっとしていた。
ガイアスは毎夜ジュードを抱いた。アルヴィンに告白されてからもガイアスに抱かれているという後ろめたさがジュードにはあった。
そんなある日、ジュードが自由時間を貰って部屋で読書をしているとノックも無しにアルヴィンが入ってきた。
「アルヴィン……」
険しい顔をしたアルヴィンはジュードの前に立つと、ジュードが開いていた本を奪って枕元に放り投げた。
「アル、んっ……」
荒々しく口付けられ、口内を弄られる。
「ん、ん、ふ……ぁル、ヴィン……」
「……やっと、捕まえた」
アルヴィンはそう囁くとジュードをベッドの上に押し倒した。アルヴィン、とジュードが諌める様にその名を呼ぶがアルヴィンは構わずジュードの首筋に顔を埋めた。
「んっ……アルヴィ……痕は……!」
強く吸われ、ジュードが身を捩って逃れようとする。
「何でだよ。旦那様に見つかると不味いからか?」
暗い笑みを浮かべたアルヴィンに、ジュードはぞくりと身を竦ませる。
「ア、ル……」
「毎晩旦那様に可愛がられてるそうじゃないか。今夜もお呼ばれしてんだろ?」
「っ……」
ジュードが言葉に詰まっていると、それを肯定と取ったアルヴィンが舌打ちをしてジュードのズボンを下ろした。
「アルヴィン……!」
「舐めさせろよ。ずっとお預け喰らってて溜まってんだ」
「アル、や、あっ」
大きく開かされた脚の間にアルヴィンが身を伏せ、未だ柔らかいそれを口に含む。
「あ、あっ……」
音を立てて吸い上げられれば、見る間にジュードのそれはアルヴィンの口内で芯を持って勃ち上がった。
「あっ、ある、あるび……あっ」
性急なそれにジュードはあっという間に高みに登りつめ、アルヴィンの口内で熱を放った。
アルヴィンは久しぶりのその熱を飲み下すと、今度はジュードの蕾に舌を這わせた。
「やっ、あっ、ぁんっ」
にゅぐにゅぐと舌を抜き差しされ、節ばった指が入り込んでくる。
「ああっ、あっ、んっ」
舌と指の両方で中を弄られ、ジュードは無意識にひくりとそこを収縮させた。
「こんな狭い所で毎晩旦那様のモノ受け入れてんの?」
「あっ、あっ、アルヴィン……!」
「旦那様のデカそうだし、ジュード君のここ目一杯広げてきゅうきゅう締め付けてんだろ」
「やっ、アルヴィ、言わな、で……!」
「俺のだっていっつも嬉しそうに飲み込んでたし、ジュード君はいやらしい子だねえ」
「ちがっ……」
アルヴィンは指を引き抜いて身を起こすと何が違うの?と囁いて己の濡れた唇を舐めた。
そしてズボンの前を寛げると、そそり立つそれを取り出してジュードのそこに押し当てた。
「フットマンと旦那様、二股かけてんのはジュード君だろ?」
「あるび、あ、ああっ」
ぐぐっと押し入ってくるその圧迫感にジュードはぞくぞくと背筋を震わせる。
ガイアスのそれのように最奥を抉る事は無いが、太い部分がジュードの感じる個所を擦りあげてガイアスの時とはまた違った快感をジュードに齎した。
ああ、僕、二人を比べてる……アルヴィンの言うとおり、いやらしい子なのかな。
揺さぶられ、甘い声を上げながらジュードは思う。でも、いやらしくしたのはアルヴィンなのに、とも思う。
「あ、あっ、あっ」
激しくなっていく律動にジュードはもっとそれを感じようとするかのようにきつく締め上げる。
「っく……ジュード!」
「あっ、あっ、や、あ、ああっ」
がくがくと揺さぶられ、その強い刺激にジュードが達するとアルヴィンもまたジュードの中で熱を放った。

 


後始末をしながらアルヴィンはこの間言った事、本気だから、と言ってジュードに口付けた。
「おたくが俺の手を取ってくれるなら、俺はなんだってする」
「アルヴィン……」
どう応えを返していいのか戸惑っているジュードに、今すぐでなくて良い、とアルヴィンは苦笑した。
「いつか、答えを聞かせてくれ」
ジュードと自らの服を整え終わったアルヴィンは、最後にジュードの頬に口付けを落として部屋を出て行った。
時計を見ると、自由時間の終わりが近づいていた。
「僕は……」
そろそろ行かなくては、と思いながらも体は動こうとしてくれなかった。

 

 



風呂から上がり、再び制服を纏う。今夜は行きたくないなあ。ジュードはそう思いながらものろのろと主の寝室へと向かった。
扉の前でふう、と一息吐く。よし、と気合を入れてノックをすると、いつもの様に低い声が入室を促した。
「失礼します……」
ガイアスはいつもソファでジュードを迎える。座れ、と促されてジュードはガイアスの隣に腰を下ろした。
ガイアスは手にしていた書類をテーブルの上に置くと、ジュードのきっちりと絞められた首元のリボンをしゅるりと解いた。
「っ……」
現れた白く細い首筋に指を這わせていたガイアスは、ふとその首筋に赤みが差した部分がある事に気付いた。
ガイアスがつけた痕ではない。とするとこれは。ガイアスの表情が微かに険しさを帯びる。
「!」
その表情にアルヴィンが首筋に吸い付いて来ていた事を思いだしたジュードは、さあっと青くなって首筋を押さえた。
だがその手はガイアスによって剥がされ、そこをじっと見つめられる。
「……またあの男に抱かれたのか」
低いその声に、ジュードは耐えきれず視線を落とす。
「……申し訳、ありません……」
「認めるのだな」
「……はい……」
ガイアスは俯いたままそれを肯定するジュードの顎を掴んで上向かせる。
怯えた色を浮かべるジュードの蜂蜜色の瞳を見下ろしながら、ガイアスは低く囁いた。
「ならば、仕置きが必要だな」
「っ」
びくりと体を震わせるジュードの唇を指の腹で撫で、そうだな、とガイアスは低く喉を鳴らして笑う。
「お前のこの愛らしい唇で奉仕して貰おうか」
「は、い……」
ジュードは恐る恐るガイアスの夜着の帯を解き、まだ芯を持っていないそれを手に取るとそっと舌を這わせた。
「ん……ふ……」
いつも自分がどうされているかを思い出しながら拙く舐め上げていると、手の中のそれがぴくりと震えて少しずつ頭を擡げ始めた。
勃ち上がっていなくてもジュードの口には余るそれを出来るだけ深く銜え込み、音を立てて吸い上げる。
見る間にジュードの口の中で固く大きく勃ち上がっていくそれに、ジュードは息苦しさを感じながらも懸命に舌で扱いた。
じゅぷじゅぷと音を立てながら頭を上下させていると、ガイアスの手がジュードの髪を撫でた。
良い子だ、と言う声が聞こえてきそうなその感触に、ジュードはうっとりとしながらガイアスの熱に舌を這わせた。
「……ジュード……出すぞ」
「ん……」
吐精を促す様に強く吸えば、頭上でガイアスが短く呻いてジュードの口内に熱を放った。
「んっ……」
量が多く、粘度も高いそれをジュードは喉を鳴らして飲み下す。
熱を放っても殆ど萎えていないそれからジュードが唇を離すと、ガイアスはジュードに服を脱ぐように囁いた。
「はい……」
ジュードが自ら制服を床に落とし、一糸纏わぬ姿になると来い、と誘われてジュードはおずおずとガイアスの膝を跨いだ。
「舐めていただけで、もうこんなにはしたなく濡らしているのか」
「あっ……」
硬く勃ち上がり、先端から透明な雫を滲ませているジュードのそれに、ガイアスは指を絡めてゆるゆると扱く。
ちゅくちゅくと卑猥な水音を立てて上下するその手の動きにジュードは甘い声を漏らしてガイアスにしがみ付いた。
「あ、あ……!」
ジュードの先走りに濡れた指がつうっとその奥へと滑り、その蕾を撫でる。
「んっ」
押し入ってくるその感覚にジュードが身を震わせると、確かに柔らかいな、とガイアスが低く笑った。
「あの男にも、こうして中を弄られたのか」
「あ、あっ、あ……!」
「貫かれて、あの男のモノから熱を搾り取ったのだろう?」
「あっ、あ、申し訳、ありませ、あっ」
ぐりぐりとジュードの感じる所を擦られ、ジュードはぴくぴくと震えながらその指を締め付ける。
「物欲しそうにひくついているな……何が欲しい」
「あ、あっ、だんなさまっ……!」
「二人きりの時は何と呼べと教えた?」
「ガイ、アス……!」
ジュードがその名を呼ぶと、ガイアスは満足げな笑みを浮かべて指の抜き差しを速める。
「あっ、あっ、ガイアス、ガイアス……!」
「さて、どうして欲しい」
巧みに動く指だけでも十分な快感をジュードに齎したが、それ以上の快感がある事をジュードの体は覚えている。
「ガイアス、の、挿れて、欲しい……!」
羞恥に耐えながら訴えると、ガイアスは良かろうと唇の端を歪めて笑いながらジュードの腰を掴んで自身の熱の上に腰を下ろさせた。
「あ、あ、あっ……入ってくる……ガイアスが、入ってくる……!」
柔らかさを保っていたそこはずるずるとガイアスの熱を飲み込んでいき、自重によって長大なそれを根元まで飲み込んだ。
「ああっ……当たってる……奥に当たってるよぅ……」
ふるふると震えながらそう言うジュードに煽られたガイアスは欲望に任せて下から突き上げた。
「ひゃ、あっ、あっ」
最初から最奥を強く抉られてジュードがびくびくと体を震わせる。その強い快感にジュードは無意識に銜え込んだそこを収縮させた。
「く……」
その熱を搾り取ろうと蠢く内壁にガイアスが低く呻く。
「このいやらしい体をあの男も味わっているのだと思うと業腹だが、易々手放せんのもわかる、な……!」
「あっ、あっ、おく、そんなおく、だめ、僕、ぼく、おかしくなっちゃ……!」
「ふ……これでは仕置きにならんな」
「ガイアスッ、がいあすぅ!」
ガイアスの突き上げに合わせてジュードの腰が揺れる。
肌と肌がぶつかる音と卑猥な水音がジュードの喘ぎ声に被さるようにして響く。
「あ、あっ、ああっ!」
「っ」
ジュードが二人の腹の間で熱を弾けさせると、その内壁の蠢きに引きずられるようにしてガイアスも熱を放った。

 


風呂場でもガイアスはジュードを求めた。
そして二度目でも激しい情事が終わると、さすがのジュードも疲労で動けなくなっていた。
「無理をさせた。すまぬ」
さすがのガイアスも自制の効かなかった己に反省しているのか、そう言ってベッドでぐったりとしているジュードの髪を撫でた。
「大丈夫、です……」
そうか細く言うジュードの顎を持ち上げると、ガイアスはその首筋に口付けた。
「っ……」
強く吸われ、ジュードはそこが昼間アルヴィンに吸われた場所だと気付く。
「……首筋への口付けの意味を知っているか」
「え……?」
ガイアスは身を起こすと、じっと見上げてくるジュードを見下ろして言った。
「執着、だ」
そうしてジュードの手を取ると、ガイアスはその掌にそっと口付けた。

 


昨夜のガイアスが最後に口付けたのはジュードの掌だった。
ガイアスは、首筋への口付けは執着だと言っていた。
では掌はどういう意味があるのだろう。ジュードは好奇心が疼くのを感じた。
「あの……聞いても、良いですか」
ジュードは思い切ってユリウスに聞いてみる事にした。
今日はユリウスとジュードは同じ時間に自由時間を取っており、先日の約束通りユリウスの弟を紹介してもらうために厨房へと向かっていた。
「うん、何だい」
「キスの場所の意味って、知ってますか?」
恥ずかしそうに聞いてくるジュードに、ユリウスはああ、と頷いた。
「有名なのは知ってるよ。手なら尊敬、額なら友情、ってやつだろ?」
「あの……掌って、知ってますか?」
ユリウスは掌、掌、と拳を口元に宛てながら何度か呟いて、やがて、そうだ、と思い出したようにジュードを見た。
「確か懇願、だったかな?」
「懇願……」
ジュードは教えられたそれを繰り返して呟く。
わざわざ掌に口付けたという事は、ガイアスはその意味を知っていて行ったという事だ。
懇願。主であるガイアスがジュードに何を願うと言うのか。
頭を悩ますジュードをユリウスは優しい目で見下ろすと、旦那様の事かい、と聞いた。
「えっ!あの、その……」
顔を赤くして俯いてしまうわかり易いジュードに、ユリウスはくすくすと笑った。
「旦那様は余程君の事が大事なんだね」
「僕が、大事……?」
頬を朱に染めながらもきょとんとして見上げてくる視線に、ユリウスはそうだよ、と頷く。
「本来キスは愛情があって初めて成り立つものだ。その上で相手に懇願する事なんて、限られてる」
私を求めて。私だけを愛して。
「あ……」
ユリウスの言葉にジュードは目を見開く。
ガイアスもまた、言葉にはしなかったがジュードの愛を乞うていたのだ。
「……僕は……どうすれば良いんでしょう……」
「その答えを俺は持っていない。その答えは自分で選び出すしかないのさ」
「選ぶ……」
僕が、選ぶ。そう呟くジュードに、ユリウスはさあ、と足を止めた。
「厨房に到着だ。弟を紹介しよう」
「あ、はい!」
ジュードは気持ちを切り替えると、ユリウスに手招きされてやって来た青年に目を見開いた。
「よう、ジュード」
「え……ルドガー?」
現れたのは、ルドガーだった。何度か言葉を交わした事もあるこの青年がまさかユリウスの弟だったとは。
「そう、俺の自慢の弟のルドガーだ」
にこっと笑うユリウスと、少し照れくさそうにしているルドガーを見比べて、ジュードは余り似てないですね、と小首を傾げた。
「ああ、俺とルドガーは母親が違うからな」
「え!あ!すみません!」
慌てて頭を下げたジュードに、二人は良いからと笑う。
「特に気にしてないしな」
「ああ、兄さんが兄さんである事に変わりはないしな」
視線を合わせて笑いあう二人に、ジュードはいいなあと思う。
「僕、一人っ子なので兄弟って羨ましいです」
「そうかな?俺は一人っ子も良いなって思うけどな」
ルドガーの言葉にユリウスがおい、とその頭を小突く。
「俺は要らないってか?」
「大丈夫だよ。例え血の繋がりが無くても兄さんと僕は出会ってたよ」
「ルドガー……」
「兄さん……」
ええとこれはどういう事だろう。熱っぽい目で見詰め合い始めた二人を、ジュードはどうしようと思いながら見上げた。
「……あの……」
「ああ、すまない。つい」
ジュードの控えめな声にユリウスがにこりと笑う。はあ、と首を傾げながらジュードは仲の良い兄弟なんだなあと純粋に思った。
「そうだ、兄さんから聞いたんだけど、ジュードは料理が趣味なんだって?」
ルドガーの問いに、ジュードは恥ずかしそうに俯いた。
「はい……ルドガー程美味しくは作れないですけど……」
「俺、旦那様にお出しするアフタヌーン・ティーの菓子を作るのを最近任されてるんだけど、これから今日の分の菓子を焼くんだ」
「うん」
「良かったらジュードも一緒に作ってみないか?」
「え!僕が厨房に入ってもいいの?」
驚きの声を上げるジュードに、ルドガーは良いよ、と笑う。
「実はヘッド・シェフのウォーロックさんにはもう許可を取ってあるんだ」
きっと旦那様も喜んでくれるよ。ルドガーの言葉にジュードは頬を淡く朱に染める。
「喜んで、くれるかな……」
もじもじと体を左右に揺らすジュードに、大丈夫だって、とルドガーが笑う。
「絶対喜ぶって!アップルパイを焼く予定なんだけど、どう?」
「うん、大丈夫。何度も作ったことあるから」
「じゃあ予備のエプロン持ってくるから、待ってて」
一旦厨房の奥へと引っ込んだルドガーを見送って、ジュードはユリウスを見上げた。
「本当に良いんでしょうか……」
恥ずかしそうに、けれど少しばかりの不安を滲ませて言うジュードに、ユリウスは良いさ、と笑う。
「ルドガーも、弟が出来たみたいで嬉しいんだろう」
弟、と言われジュードは少し考えた後にこりと笑って言った。
「じゃあユリウスさんも僕のお兄ちゃんって事ですね」
ジュードの言葉に微かに目を丸くしたユリウスは、やがてふっと微笑むとそうだな、とジュードの頭を撫でた。
「可愛い弟が増えたな」
くしゃくしゃと撫でられて、ジュードは嬉しそうに目を細めて笑った。

 


ガイアスは領主になってからアフタヌーン・ティーの時間を儲けるようになった。
領主としての激務の中で、加えて夕食の時間が遅くなりがちなガイアスにとって、この時間に適度な糖分を摂る事は食事と同じく重要な事だと理解していたからだ。
ガイアスが執務室を出てティー・ルームへ向かうと、メイドがワゴンを運んできてローエンに渡した。
ローエンがスコーンと菓子の乗ったティースタンドをテーブルに置き、一つ一つ説明していく。
バタースコーンを初めとした数種類のスコーン、クロテッドクリーム、木苺のジャム、生の苺とカットされたオレンジ。
そして、とローエンは最後にアップルパイを示した。
「こちらのアップルパイの製作にはジュードさんも携われました」
「ローエン!」
ガイアスの背後に控えていたジュードが思わず声を上げる。
言わないでって言ったのに……。ぼそぼそとそう呟く声が背後から聞こえる。ガイアスがローエンを見ると、ローエンは良い笑顔で頷いた。
「ジュードさんが日々お疲れの旦那様の為にと腕を揮って下さいました」
「そうなのか、ジュード」
ガイアスが振り返らないまま問えば、背後からはい、とか細い返事がした。
「そうか。ならばそれを貰おう」
「はい」
ヴァレットの一人がアップルパイをティースタンドから小皿に取り分け、ガイアスの前に差し出すとローエンが紅茶をカップに注いでテーブルに静かに置いた。
まずは紅茶を一口飲み、そしてフォークでアップルパイを切り分ける。
見た目はいつものシェフが作るものと変わりはないように見えた。
しかし口にしてみると、確かにいつもとは違う味付けだった。
シナモンが効いていて、底には甘さ控えめのカスタードクリームが敷かれており、レーズンが程よくリンゴの中に混じっている。
仄かにラム酒の香りがしていて、レーズンをラム酒で煮ているのだと気付く。
「……」
ガイアスは無言でもう一口、もう一口と口に運び、あっという間に一切れを平らげてしまった。
「うむ。美味いな」
もう無いのか、と問えばローエンがぱんぱんと手を叩いた。
するとメイドがアップルパイの乗った大皿を手にしずしずと入室してきた。
大皿の上のアップルパイをメイドが切り分け、その小皿をローエンがガイアスの前に置く。
「ジュード」
ガイアスが振り返らず背後の少年を呼ぶと、はい、と短い応えが帰ってきた。
「こちらへ」
ジュードがソファを周ってガイアスの傍らに立つ。するとガイアスは座れ、と隣を示した。
「え」
二人きりの時ならばいざ知らず、今ここにはローエンや他のヴァレット、メイドもいる。
救いを求める様にガイアスの背後に立つユリウスを見るが、ユリウスは可笑しそうに微かな笑みを浮かべるだけで助けてくれそうにはなかった。
「あの、でも……」
「命令だ」
命令と言われてしまえばもうジュードには逆らえない。ハイ、と諦めたように返事をしてジュードはガイアスの隣にそっと腰掛けた。
するとガイアスがフォークにアップルパイを乗せ、差し出した。
「口を開けろ」
「え、あの」
「開けろ」
「……はい」
ジュードが恐る恐る口を開くと、そこにアップルパイが押し込まれる。
羞恥心に苛まれながらもむぐむぐとそれを食べると、この味はお前の好みか、と問われた。
「はい、母が作ってくれた味を再現したくて……」
「そうか」
「旦那様のお好みに合うか不安だったのですが……」
「美味いぞ」
ガイアスの言葉にジュードがほっとした様に僅かな笑みを浮かべた。
「良かった……」
「……」
その恥ずかしそうな、けれど嬉しそうな笑顔を見下ろしていたガイアスはついっとローエンを見た。
すぐに主の意図を察したローエンはちらりとユリウスに目配せをする。
主の意図とローエンの言いたい事を察したユリウスが他のヴァレットに目配せをする。
「……え?」
静かに退室していくローエン達に、慌てて立ち上がろうとしたジュードをガイアスは押し留めた。
「あの、旦那様……?」
「今は二人きりだが?」
「えと……ガイアス、ローエン達はどうして出て行ったんですか」
まだティータイムは途中なのに、と思っていると、ガイアスはソファの上にジュードを押し倒した。
「わっ……」
「見られていた方が良かったか?」
そこに至って漸くガイアスが人払いをした理由を察したジュードがさっと頬に朱を上らせる。
「あの、僕、仕事中で……」
「お前の仕事は俺の傍にいる事だ。問題無い」
良いのだろうか、と思うが逆らう事など出来はしない。
するとガイアスはジュード、と改めてその名を呼んだ。
「はい」
「お前を我が養子としたい」
「……え?」
言われた事が理解できず、ジュードはソファの上に押し倒されたまま小首を傾げる。
「養子……って、僕がガイアスの、子供になるって事?」
「お前が女であったなら話はもっと簡単だったのだがな」
「え?」
「本来ならお前を娶りたいところだが、お前は男だ。だから養子という形を取りたい」
娶る、と言葉の意味を考えてジュードは一層顔を赤くする。
「俺と、家族になってはくれまいか」
「ぼ、僕が、ガイアスの、家族……に?」
「今すぐ心を決めろとは言わん。だが、覚えておいてくれ」
そっと口付けられ、ジュードは目を閉じる。
僕が、ガイアスの家族に。
不意にアルヴィンの顔が浮かんだ。
ジュードの事が好きだと、愛してると囁いたあの声が甦る。
何処か遠い街で一緒に暮らそうと言ったアルヴィン。
その答えは自分で選び出すしかないのさ。ユリウスの声が響く。
僕が、選ぶ。
アルヴィンか、ガイアスか。二人の内の、どちらかを。
「ん……」
唇を割って入り込んできた舌は、微かにシナモンの味がした。

 


次の日の自由時間、ジュードはアルヴィンを探して屋敷を歩いていた。
あ、とジュードは足を止める。廊下の片隅に探していた姿を見つけた。
柱に背を預け、手紙を読んでいるようだった。家族からの手紙だろうか。しかしその表情は冴えない色をしている。
そっとアルヴィンに近づくと、気配に気付いたアルヴィンが手紙から視線を上げた。
「ジュード」
途端にぱっと明るい表情になったアルヴィンとその手の中の手紙を見比べる。
その視線に、アルヴィンは気になる?と苦笑した。
「そういうわけじゃ、ないけど……」
「母さんの面倒を見てもらってる医者からの定期報告だよ」
「お母さん、具合悪いの?」
そう言えばアルヴィンの家族について何も知らないのだとジュードは今更ながらに気付く。
「ここ半年くらいは調子良かったんだけどな……」
「そう……」
それより、とアルヴィンは手紙をポケットにしまいながら明るく言う。
「なんか俺に用があったんじゃねえの?」
「……うん」
視線を落としたジュードに、どうした?とアルヴィンが優しく問う。
「……僕、ね、旦那様の養子にならないかって言われたんだ」
アルヴィンの表情が明るいものから険しいものへと一変する。
「……旦那様も本気って事か」
「……」
視線を床に落として黙り込むジュードに、それで?とアルヴィンは問う。
「ジュード君は、どうしたいわけ」
「……僕、どうしたいのかわかんなくて……」
小さな声でそう言うジュードの腕をアルヴィンの手がそっと掴む。
「なあ、ジュード。俺に打ち明けてくれたって事は、少しは希望を持っても良いって事だよな?」
「……」
「ジュード、何度だって言うぞ。俺はお前の事が好きだ。愛してる」
「アルヴィン……」
ジュードが視線を上げると、真摯な眼差しをしたアルヴィンがジュードを見下ろしていた。
「今だって、お前が旦那様に毎晩抱かれてるんだと思うと腸が煮えくり返るくらい腹が立つ」
「……」
「俺には旦那様みたいな財力も地位もない。だけど、それでも俺の手で、お前を幸せにしたいんだ」
「……僕は……」
言葉を紡ごうとしたジュードの唇に、アルヴィンの人差し指が当てられる。
「……明日の自由時間、返事を聞きにおたくの部屋に行くよ」
「……わかった」
ジュードが頷くと、アルヴィンは時計を見てヤベ、と踵を返した。
「んじゃ、俺は仕事に戻るぜ」
「アルヴィン!」
「ん?」
顔だけをこちらに傾けて振り返ったアルヴィンに、ジュードは考えるから、と告げた。
「ちゃんと、考えるから……!」
その言葉にアルヴィンは薄く笑うとひらりと手を振ってその場を立ち去った。
その後ろ姿を見送って、ジュードは握りしめた拳を胸元に当てる。
「僕が、選ぶ……」
ジュードはじっと目を閉じて自らの心に問いかける。
僕は、アルヴィンとガイアス、どっちを選ぶの?

 

 

→「ガイアスの、家族になりたい」

 


→「アルヴィンと、何処までも一緒に行こう」

 

 


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