ガイジュエンド

 

 

僕は……。
「ガイアスの、家族になりたい」
口に出してみると、その想いがすとんと心に落ち着いた。
ああ、そうだ。僕はあの一人険しい道を進む人の安らぎの場になりたい。
その道を行きながら、ふと傍らを見ればその姿がある。そんな存在になりたい。
アルヴィンの顔が脳裏に浮かぶ。
ごめん、アルヴィン。僕は、ガイアスの手を取る。
決意を胸に、ジュードは歩き出した。

 


「ぁ、んんっ……!」
豪奢なベッドの上で背後から犯されながらジュードは身を震わせて熱を放つ。
「……っく、ジュード……!」
すると背後で短く呻いてガイアスもまたジュードの最奥に熱を放った。
「……っは、はあ……」
腰を掴まれたままジュードはへたりと上半身をベッドに沈ませる。
尻を高くつきだして男を受け入れているその姿は酷く扇情的だった。
「……ジュード」
目に焼き付くようなそれに再び下肢に熱が集まっていくのを感じたガイアスは、ジュードの腰を引き寄せた。
「ぁっ……」
熱を放ってもなお衰える事のないその剛直で中を揺すられ、ジュードはひくりと喉を仰け反らせた。
「もう一度、いいか」
背後から抱きすくめられ、耳元で囁かれるとぞくぞくとした何かが背筋を走り、ジュードは思わず自分を貫くそれを締め付けた。
「っ……ジュード……」
「あっ、待って、まってガイアス……」
ジュードがふらりと身を起こすと、ガイアスがその体を引き寄せて背後から抱きすくめる様にして体勢を変えた。
「あ、あっ」
ジュードはガイアスの股座の上に座る様にして、その熱を一層深い所まで飲み込んだ。
「待ってってば……」
「何だ」
今すぐにでも突き上げたそうなガイアスを制し、ジュードはねえ、と背後のガイアスに問いかける。
「僕なんかが、ガイアスの家族になっても、いい、のかな……あっ」
ジュードの腰に回っていたガイアスの手が、熱を放って大人しくなっているジュードのそれに指を絡めた。
「俺が良いと言ったら良いのだ」
次第に硬さを取り戻していくそれを弄りながらジュードの首筋に吸い付いてそう答えれば、じゃあ、さ、とジュードが喘ぎながら言葉を紡ぐ。
「僕、を……ガイアスの、あっ、家族に、んっ、して……」
ジュードの言葉にガイアスの動きがぴたりと止まる。
「……それが、お前の答えなのだな?」
「うん……」
小さく、けれどしっかりと頷くと、ガイアスは背後からジュードをきつく抱きしめた。
「俺を、選ぶと言うのだな?」
「うん、僕は、ガイアスの傍にいるよ……」
僕を、ガイアスだけの僕に、して?
ジュードの言葉にガイアスはその細い体を再びベッドの上に押し倒し、繋がったままのその奥を抉った。
「ひあっ」
「ジュード、ジュード……!」
「あ、あっ、深い、深いよぉ……!」
背後から覆い被さり、腰を打ちつけながらその白い首筋に歯を立てる。
けれどその痛みですら今のジュードには快感でしかなく、甲高い声を上げてジュードは二度目の高みに駆け上がって行った。
「あああっ」
背が折れそうなほど撓らせて達すると、体の奥で熱が吐き出されるのが分かった。
今度こそ力尽きてベッドに倒れ込んだジュードの中から、二度の吐精で漸く落ち着きを取り戻したそれがずるりと抜けた。
弛緩したそこからガイアスの放った熱がとろりと零れ落ちる。
けれどそれに構わずガイアスはベッドの上でジュードを抱きしめた。
「養子縁組の件は明日にでもマティス家に書状を送ろう」
「うん……父さん、きっとびっくりしちゃうだろうなあ」
髪に、額に、頬にと口付けられ、ジュードは擽ったそうに目を細めて笑う。
「ジュード」
「うん」
「愛している」
初めて言葉にされたそれに、ジュードは目を見開くとガイアスを見上げた。
「お前を愛している」
ジュードを見下ろしてもう一度繰り返したガイアスは、そっとジュードの目尻にも口付けた。
「ガイアス……」
半ば呆然とガイアスを見上げていたジュードは、滲む視界を誤魔化す様に笑うと僕も、と告げた。
「僕も、ガイアスを愛してるよ」
余りにも幸せで、涙が零れてしまいそうだった。

 


翌日の自由時間、約束通りアルヴィンはやってきた。
「答えを、聞かせてくれるか」
問いかけてくるアルヴィンに、ジュードが答えるべき事は一つだけだった。
「僕は、ガイアスの家族になるよ」
「……」
真っ直ぐに見上げてくる視線を見下ろしていたアルヴィンは、やがて大きなため息を一つ吐いて肩を落とした。
「……だよな。ま、当然っちゃ当然か」
苦笑するアルヴィンに、ジュードはごめんね、と視線を落として言った。
「いいさ。どうせこの屋敷で働くのもあと少しだしな」
え、とジュードが顔を上げると、アルヴィンは穏やかに笑って言った。
「俺、今月一杯でここ辞めるんだわ」
「今月一杯って……もう一週間も無いじゃない」
呆然として言うジュードに、そうだな、とアルヴィンは頷く。
「昨日少し話したけどさ、俺のお袋、あんま容体良くないんだわ。医者の見立てではもう長くないらしい」
「そんな……」
「最期くらい、傍にいてやらねえとな」
穏やかにそう語るアルヴィンに、ジュードは何と声を掛けて良いのかわからず言葉を詰まらせる。
「……本当は、俺の故郷におたくを連れて行きたかったんだが、こればっかりは仕方ないよな」
「アルヴィン……」
肩をひょいと竦めるアルヴィンをジュードはじっと見上げる。するとアルヴィンがそんな目するなよ、とジュードの頬に手を添えた。
「連れて行きたくなっちまうだろうが」
「……」
アルヴィンの苦笑にジュードが視線を落とすと、くしゃりと頭を撫でられた。
「元気でな、ジュード。幸せになれよ」
「……っ……」
名残惜しそうに撫でていたアルヴィンの手がジュードの髪から離れ、落とした視線の先でアルヴィンの爪先が扉の方へと向いた。
「アルヴィン……!」
今さら何を言うと言うのだろう。それすらわからないままその名を呼んで顔を上げると、アルヴィンは微笑んだまま告げた。
「……じゃあな、ジュード」
アルヴィンは部屋を出ると静かに扉を閉めた。一つ、深い溜息を吐いてアルヴィンは自室へと向かって歩き出す。
「……本気だったんだけどなあ」
苦笑交じりに呟いて、アルヴィンは首を横に振る。
ジュードはもう選んだのだ。アルヴィンではなく、ガイアスを選んだのだ。
けれど。
「……」
あの子供は優しいから、今頃アルヴィンの為に涙を流してくれているかもしれない。
そうだったらいいのに。アルヴィンはそう思いながら一人廊下を進んだ。

 


そして月が替わるとジュードが屋敷でアルヴィンを見かける事は無くなった。
本当に辞めてしまったのだな、と思いながらジュードは書庫へと向かった。
ガイアスに探すよう命じられた本を探しながらジュードはこれからの事を思う。
ガイアスからの突然の養子縁組の話にディラックは初めは反対していた。
だが最終的には本人の意思を尊重した方が良い、という妻の言葉に頷いた。
同意書には既にサインがなされ、ガイアスは今、それを役所に提出するために外出している。
本来なら今もヴァレットという立場上、ジュードもついて行く筈だったのだが、ガイアスが本探しを命じたため四人いるヴァレットの中で一人だけ留守番をする事になった。
ガイアスは余りジュードを外に出したがらない。迂闊に外に出して余計な虫が付くのが嫌なんじゃないかな、とはユリウスの言葉だ。
確かについ先日までジュードは二人の男の間で揺れ動いていたわけだが、そうそう自分に惚れる相手がいるとはジュードには思えなかった。
ガイアスって結構過保護だよね。そんな事を思いながら数冊の本を抱えてガイアスの執務室へと向かう。
執務机の上に本を置き、窓の外を見ると遠くに馬車が見えた。ガイアスが帰って来たのだ。
ジュードは部屋を出ると足早に階下に降り、玄関へと向かった。
執事やメイドたちがずらりと並ぶ中、ジュードは一番扉に近い場所に立つローエンの向かいに立ってガイアスを待った。
するとフットマンたちが扉を開き、ユリウスを始めとするヴァレットを従えたガイアスが入ってくる。
ガイアスは頭を下げているジュードの前に立つと、その名を呼んだ。
「はい」
顔を上げると、もう俺に頭を下げなくて良い、とガイアスは僅かに微笑んだ。
「え……じゃあ」
「ああ。書類は無事処理された。これで俺とお前は家族となったのだ」
ぱあ、と表情を明るくしたジュードの頭をくしゃりと撫でると、ガイアスは行くぞ、とジュードを促して使用人たちの間を歩いていく。
その後を追いながら、ジュードは傍らを歩くユリウスを見上げた。
目が合うと、ユリウスはぱちんとウインクをした。
良かったな、と言うようなそれに、ジュードは恥ずかしそうに、けれど心から嬉しそうに笑ったのだった。

 


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