ジュードがア・ジュール地方領主であるガイアスの屋敷に奉公に出たのは十五の時だった。
ジュードの家は治療院を営んでいたが、ここ数年は余り資金繰りが上手くいって無いようだった。
溜息の増えた両親の姿を見ていたジュードは、自分も働きに出れば少しは楽になるかもしれないと思った。
何処かの屋敷でメイドとして働ければいいのだけれど。
そう思っていたある日、領主邸のスチュワードも兼ねているバトラーのローエンが常備薬を貰いに治療院を訪れた。
顔の広いローエンならばどこかメイドを募集している所を知っているかもしれない。
そう思って声を掛けた所、ならばと提案されたのがローエンが仕える屋敷のハウスメイドの職だった。
領主邸の使用人といえば他の屋敷と比べて高給であることで知られており、競争率が高い事でも有名だった。
たまたまローエンと顔見知りだったと言うだけでそこに飛び込ませてもらってもいいのだろうか、と戸惑うジュードに、ローエンは構いませんよと笑った。
ただ一通り面接は受ける事になり、ジュードが領主邸を訪れると何故か領主の執務室に通された。
通常、使用人の面接は男はスチュワードが、女はヘッド・ハウスキーパーが行う。主が直々に面接をするなどそうそう無い。
しかしこれがこの屋敷の方針なのかもしれない。ジュードはそう思って緊張の面持ちで領主の前に立った。
ア・ジュール地方の領主であるガイアスは、十年前、圧政を強いていた前領主を蹴落として二十二歳という若さでその座に就いた男だ。
長めの黒髪を肩に垂らした男の鮮やかな赤の眼がジュードを射抜いた。
「お前がディラックの娘か」
「はい、ジュード・マティスです」
「話はローエンから聞いている。治療院の経営状態についてもな」
「はい……」
ディラックの医師としての腕は良く、患者も多いのだが貧困層の者も受け入れているため、治療費を払えない者が多い。
この時代、医者にかかるには金が多くかかった。主に薬に金がかかり、貧困層の人々の手に渡る事は滅多になかった。
しかし人命を第一に考えるディラックは治療費は払えるようになったら払ってくれれば良いとして身分の別なく治療を行った。
ガイアスが領主になってからは大分貧困層の人口も減りはしたものの、それでも絶える事は無い。
ディラックを頼ってくる者は多く、それらを受け入れている内に薬代は嵩んでいき、今に至っているというわけだ。
「お前を雇う事に異存はない。だが、もしお前がより多くの報酬を得たいのであれば一つ提案がある」
「提案、ですか」
そうだ、とガイアスは頷く。
「俺の専属のメイドとなれ」
「専属……?」
しかしガイアスにはローエンというバトラーの他にも身の回りの世話をするヴァレットがいる。今更専属のメイドなど要るのだろうか。
だが悪い話ではない。ガイアスの専属になれば両親により多くの仕送りをする事が出来る。
そうすれば、両親はきっと喜んでくれる。
ジュードはこくりと頷くと、お受けします、と答えた。
「良かろう。ならば明日までに部屋と制服の用意をさせる。良いな」
「はい、宜しくお願いします」
ガイアスの背後に控えていたヴァレットだろう男が何か言いたげにジュードを見たが、その視線に気付かぬままジュードは頭を垂れた。

 


翌日、僅かな荷物を手に領主邸の門を潜るとヘッド・ハウスキーパーであるソニアが部屋に案内してくれた。
通された部屋にジュードは困惑の眼をソニアに向ける。
「あの……一人部屋、ですか?」
ジュードはガイアス専属とは言われたものの立場としてはハウスメイドだ。ロワー・サーヴァントであるジュードが個室を与えられるなど、通常では考えられない。
しかしソニアは良いじゃないか、と笑った。
「ジュードは旦那様の専属だからね」
そういうものなのだろうか、と思いながらジュードは制服に着替えた。
パンツルックが常だったジュードは、穿き慣れないミニスカートに落ち着かない気分になりながらも仕事に向かった。
ジュードの教育係は、三人いるヴァレットの中でも纏め役を務めているユリウスという男だった。
ユリウスから一通りの説明を受けたジュードは、漸く自分の立場というものを理解した。
名目上ハウスメイドとして雇われてはいるが、仕事内容はヴァレットと殆ど同じであり、故にジュードは一人部屋というアッパー・サーヴァントとしての扱いを受けたのだ。
侍女かはたまたヴァレットの女性版ということかしら。ジュードはそう思いつつも初めての奉公で突然そんな高い地位に放り込まれた事に戸惑いも感じていた。
そんなジュードにユリウスは一つ一つ丁寧に仕事内容を教えてくれた。
その日に主が身に着ける服などの準備と管理の仕方から主の一日の大まかな行動パターン。それらをジュードは必死で頭に叩き込んだ。
ティータイムに少しだけ気を緩める事が出来たが、それが終わるとまた覚える事だらけの時間が始まった。
貴重品の管理の仕方、主の着替えの補助。あっという間に一日が終わり、ジュードはやっと終わった、と安堵の息を漏らした。
しかしユリウスはまだだよ、と肩の力を抜いたジュードに笑いかける。
「君にはもう一つ、大事な仕事がある」
「え?」
しかしユリウスはその仕事の内容は口にせず、湯浴みを終えたら俺の部屋においで、と告げて去って行った。
何をするんだろう、と内心で首を傾げながらジュードは風呂を使い、再び制服に袖を通してユリウスの部屋を訪れた。
ユリウスは懐中時計の手入れをしていたが、ジュードが訪れるとそれを中断し、行こうか、と部屋を出た。
連れて行かれたのは主人の寝室だった。
ユリウスの後に続いて寝室に入ると、夜着に着替えたガイアスがソファに座って分厚い本を読んでいた。
「来たか」
ガイアスは本を閉じると脇に置き、立ち上がる。ユリウスが一礼して部屋を出て行ってしまい、主と二人きりにされたジュードは戸惑いを浮かべてガイアスを見た。
「ジュード」
ジュードの前に立ったガイアスがその戸惑いに揺れる蜂蜜色の瞳を見下ろす。
「これからの事を、ユリウスは?」
「い、いえ、何も……」
ふるふると首を横に振ったジュードに、ガイアスはそうか、と頷いて暫し考え込む素振りを見せた。
「……お前に恋人や婚約者は居ないと聞いているが真か」
「え、はい」
小首を傾げて答えるジュードの顎を掴み、くいっと上向かせる。
「では、男を受け入れた経験は」
「!」
さっとジュードの頬に朱が上る。
ジュードが答えあぐねていると、ジュード、と促されジュードは小さな声でありません、と答えた。
「そうか。これからお前に夜伽を申し付けようと思うのだが、出来るか」
「……」
ジュードは言われた言葉を何度か脳内で反芻し、伽の意味を理解した途端一層その頬を赤く染めた。
「と、伽って、つまり、その……」
「俺と寝所を共にしろ、という事だ」
「あの、もしかして、ユリウスさんが言ってた大事な仕事って……」
震えそうになる声で問えば、そうだ、とガイアスが事もなげに頷く。
「勿論断っても構わん。ただし、その場合は明日からは通常のハウスメイドとして働いてもらう」
戸惑うジュードに、ガイアスはだが逆に、と言葉を続ける。
「伽を受けるのであれば、一夜につき一定の手当てを出す」
つまりは受ければその分給料が上がり、断れば通常のハウスメイドとしての給料しか支払われないと。
どうする、と問われてジュードは迷った。初めてのそれに戸惑いはあったが、実家に仕送りをしなければならないという使命感がある。
「僕……」
ガイアスの鮮やかな赤の眼に魅入られる様にしてジュードは小さな声で答えた。
「僕で、良ければ……」
その応えにガイアスは満足げに頷くと、顔を寄せてきた。
口付けすら初めてのジュードは、瞼を震わせて目を閉じた。
少しひんやりとした唇がジュードの唇に重なる。優しく啄む様に何度か唇を食まれ、舌先が歯列を割って口内へと侵入してきた。
「ん……!」
唇とは打って変わって熱いその舌がジュードの口内を犯し、逃げようとする舌を絡め取る。
ちゅ、ちゅと舌の絡み合う音が静かな室内に響いて、ジュードは羞恥心からぎゅっと白いエプロンを裾を握った。
「……ふ……」
長い口付けから漸く解放されると、ジュードはとろりとした瞳でガイアスを見上げた。
ガイアスの唇がその目尻に触れる。
「怖いか」
「その……こういう事は初めてなので……どうしていいか、わからなくて……」
ぼそぼそと告げるジュードに、ガイアスはふと表情を和らげてジュードの滑らかな頬を撫でた。
「手荒な事はしない。気を楽にしていろ」
「は、い……」
ガイアスに促され、ジュードは靴を脱いでベッドに上がる。覆い被さってきた男に僅かばかりの恐怖を感じながらもジュードはガイアスを見つめた。
武骨な手がジュードの首元を彩っていた細めの黒いリボンを解く。エプロンを留めていた紐も解かれ、床に落とされた。
胸元のボタンを器用に片手で外していくと、ガイアスはジュードの素肌に手を滑らせた。
「……っ……」
ガイアスの手がジュードの小ぶりな胸を包んでいた下着を首元まで押し上げ、その薄く色づいた突起を指で抓んだ。
「ん……」
くにくにと突起を指で弄ばれ、未発達な胸を揉まれる。その刺激にぴんと立ち上がった突起に、ガイアスは顔を寄せると舌先で突いた。
「ぁっ」
それを押し潰す様に舌先が動いたかと思えば吸われ、ジュードは微かに甘い声を上げた。
初めて感じる淡い快感に、ジュードは身を固くする。
舐られ、抓まれている内に下肢に熱が集まってくるのを感じたジュードは、恥ずかしそうに脚を擦り合わせた。
「感じているのか」
「なんだか、むずむずして……変、です……」
「ふむ」
ガイアスは胸元を弄っていた手を今度はスカートの中に滑り込ませた。
「あっ」
下着の上から割れ目を擦られ、ジュードはひくりと震える。
「変、とはここの事か」
「あ、あ……」
指の腹が布越しに花芯を擦り、ジュードは甘い声を漏らした。
「ふ……湿ってきているぞ」
「や……」
ジュードが羞恥に頬を染めると、ガイアスはジュードの胸の突起を舐りながら下着のその下へと指を忍び込ませる。
「あっ」
直接的な刺激に驚いた様にびくりとジュードの体が震えた。
「濡れてきているな」
ぬるぬるとそこを指の腹で擦られ、ジュードは声を漏らす。
花芯を擦っていた男の指がその更に奥へと滑り、肉襞を割って蜜を零すそこに指を押し込んだ。
「あ、んっ……!」
ぬめりを帯びた内壁は初めて迎え入れた異物を押し出そうとしたいのか奥へ迎え入れたいのか、ひくひくとうねった。
今はまだ狭いそこをガイアスはゆっくりと指で解していった。
くちゅくちゅと音を立てて指を抜き差しし、ジュードの感じるポイントを探り当てるとそこを重点的に擦りあげた。
ジュードはただ与えられる快感に打ち震えながら甘い声を漏らし続けるだけで、シーツをきつく握っている事しか出来ない。
指が増やされ、圧迫感が増す。けれど次第にそこはその指の形を覚え、受け入れた。
最終的には三本の指を受け入れさせられ、ジュードはぐちゅぐちゅと激しくなっていく水音に被さる様にして甲高い声を上げた。
やがてずるりと指が引き抜かれ、ガイアスが自らの夜着を脱いで落とした。
現れた逞しい体に頬を染めながら、ジュードは硬く勃ちあがっているそれに視線を落とした。
そそり立つ男の熱を目にするのは初めてだったが、ガイアスの長大なそれが自分の中に入るのかと思うと不安と僅かな期待で心が揺れた。
脚を抱え上げられ、その熱を押し当てられてジュードはえ、と思う。
「あ、あの、こ、コントンとか、着けないんです、か……?」
コントンとは避妊具の一般的な名称で、動物の腸などを使って作られた物が殆どだが、中には魚の浮き袋を使ったものもある。
恐る恐るそれを問うジュードに、だがガイアスは要らぬ、と当然の様に言った。
「で、でも、万が一……あ、あっ」
ジュードの声を遮る様にガイアスの熱がジュードの中へと押し入ってくる。
指とは比べものにならないその熱と質量にジュードは背を撓らせた。
「あ、あ……!」
念入りに解されたそこは、ガイアスの長大な熱も太い部分を飲み込むのに少し痛みを感じたが、後はずるずると飲み込んでいった。
「……まだ狭い、な」
ガイアスもまた僅かに苦しげな表情を浮かべ、ジュードの内壁がガイアスの形に馴染むまで待った。
きつく締め付けていただけのそこが次第に馴染んでいき、埋め込まれた熱をもっと奥まで飲み込もうと蠢き始めたのを感じたガイアスはゆっくりと腰を振った。
「あっ……んっ、あ……」
ずるりと引き抜かれ、ぐちゅんと音を立てて再び抉られる。ぞくぞくとした快感が全身を走り、ジュードはその動きに促されるように声を漏らした。
少しずつその律動を速めて行きながら、ガイアスは身を屈めて無意識に涙を零していたジュードの額に口付けた。
「俺の背に腕を廻せ」
「は、い……」
きつく握っていたシーツを離し、ジュードはおずおずとガイアスの広い背に腕を回した。
「しっかり掴まっていろ」
細いその脚を抱え直すと、ガイアスは根元までその熱を押し込んだ。
「ひあっ」
今まで以上に奥を抉られ、ジュードが悲鳴じみた嬌声を上げる。
最奥を突き上げられる感覚にジュードはびくびくと震えた。
「あっ、あっ、やっ、あたってる、おく、あたってる……!」
子宮口をこじ開けんばかりに突き上げてくるそれを、ジュードは身を震わせながら受け止める。
「……っく……出すぞ、ジュード……」
「や、まって、だめ、なかはだめ、なかは……!」
しかしジュードの懇願を無視して、ガイアスは一層腰の動きを速めるとその最奥に熱を放った。
「あああっ」
脚を突っ張らせながら初めての高みに達したジュードは、体の奥に吐き出される熱を感じながら脱力した。
「……どうしよう……あかちゃん、できちゃう……」
ぽろぽろと涙を零すジュードの涙を拭う様にガイアスはその頬に舌を這わせ、そして口付けた。
「ん、ふ……」
ちゅるりと水音を立てて舌を舐め上げ、僅かに唇を離したガイアスはそれでいい、と囁いた。
「え……」
「お前は俺の子を産むのだ、ジュード」
その為に、お前はここに居るのだ。
ガイアスの言葉に、ジュードは目を見開いて呆然とその赤の眼を見上げた。

 

 


 

メイドを一人雇おうと思います。そう人の良さそうな笑顔を浮かべてローエンは主に報告した。
使用人の雇用に関してはローエンとソニアに一任してある。なのにわざわざ報告してきたという事は何か含みがあっての事だ。
この十年でローエンがガイアスの気分を察するのが得意になったのと同じように、ガイアスもまたローエンが何か企んでいる事を容易に見抜いていた。
無言で先を促すと、ローエンはマティス家のご息女です、とにこやかに告げた。
「ディラックの?」
ディラック・マティスは十年前は多数の貴族のコンシェルジュ・ドクターとして名を馳せていた。
一時期はこの屋敷にも出入りしていたくらいだ。
しかし貧困層の患者も受け入れる様になった事で貴族たちから次第に敬遠されるようになり、その貧困層の民への治療費も無理に回収しようとしない事から最近では経済的に圧迫されていると聞いている。
「はい、やはり経済的に苦しいようで、ご息女から働きに出たいと相談されまして」
「雇用に関してはお前たちに一任している。好きにしろ」
「畏まりました。ところで旦那様、そろそろ奥方を娶る気にはなりませんか」
「……」
ガイアスは紙の上を走らせていたペンを止め、またか、と溜息を吐いた。
「その気は無いと何度言えばわかる」
「じじいは諦めが悪いのですよ。そこで一つお願いがあるのですが」
人畜無害そうなその笑顔が曲者なのだと知っているガイアスは、眉間の皺を深めながらそれで、とローエンを見た。
「俺に何をさせたいのだ」
「マティス家のご息女の面接を、旦那様に行っていただきたいのです」
「……」
ガイアスはにこにこと笑顔を浮かべるローエンの顔を苦虫を噛み締めたような顔で見つめる。
先程の突然の奥方云々はこれか、とガイアスは思う。
恐らくローエンはディラックの娘をガイアスと引き合わせたいのだろう。そしてあわよくば、と思っている。
「……ディラックの娘はまだ十代ではなかったか」
「はい、今年で十五の歳を迎えました」
「……俺の歳を覚えているか、ローエン」
主の低い声に、しかしローエンはしれっとして当然ですとも、と頷いた。
「御年三十二でございますな。ですが問題は御座いません。十や二十の歳の差の夫婦など腐るほどおります」
「……俺は妻を娶るつもりはない」
「でしたら跡継ぎだけでも儲けられてはいかがでしょう」
「……」
それは、つまり。
「現在この屋敷で働くメイドの中には旦那様のお好みに合う者はいないご様子」
そこでのマティス家のご息女です、とローエンは笑う。
「跡継ぎを産んでいただく代わりに、それなりの支援をして差し上げれば良いのですよ」
「……ディラックの娘の意思はどうなる」
「勿論、ご息女が断ればそれだけの話です」
「……」
ローエンの言葉にガイアスは黙る。確かに跡継ぎの問題は他の議員や貴族たちからも口うるさく言われてうんざりしている所だ。
領主の座は世襲にこだわる必要はないと考えているのだが、アウトウェイ家存続を思うならば跡継ぎは必要だ。
ガイアス自身としては家の存続もどうでもいいのだが、領主であり当主でもある以上そうもいかない。
「……今回だけだぞ」
深い溜息と共にそう告げる主に、ありがとうございます、とローエンは腰を折った。
「きっと、旦那様もお気に召すと思います」
人を見る目の厳しいローエンが推すくらいだ。余程の好物件なのだろう。
たまにはこの有能なバトラーの我儘をきいてやろう。ガイアスはその程度に思いながら面接の日取りを決めた。
そして面接当日、ガイアスの前に現れた少女にほう、と思う。
確かに見目は良く、これからますます美しく育つだろう。控えめな態度も好ましい。
何より猫の様に少々釣り上がった蜂蜜色の瞳が魅力的だった。
ジュードと名乗った少女はガイアスの専属メイドになる事を承諾した。
恐らく専属メイドとなる事の意味を知らされていないのだろう。真っ直ぐに見つめてくる蜂蜜色に、ガイアスは多少の罪悪感を感じた。
名目上ハウスメイドとして雇ったが、仕事内容はヴァレットと然して変わらない。その為、ジュードをアッパー・サーヴァントとして扱うよう指示した。
そしてジュードが初めて仕事に出たその夜、ガイアスはジュードに選択を迫った。
実家の財政が逼迫している以上、親思いのジュードが断る事は無いだろうと踏んだ上でのそれに、案の定ジュードは頷いた。
口付けすらまともにした事が無いだろうそのぎこちない反応。
金の為に意に沿わない相手の子を孕まなければならないジュードに、ガイアスは憐みすら感じた。
せめて優しく扱ってやろうとその幼い体を拓いていく。
初めて異物を受け入れたそこは、熱く柔らかくガイアスの指を包み込んだ。
久方ぶりの女の体に、自然とガイアスの体も熱くなっていく。
だが自身が昂ぶっていくのは、女を抱くのが久方ぶりだという理由だけでは無い事にガイアスは気付いていた。
初めての快感に打ち震え、羞恥に耐えながらも甘い声を漏らすジュードの姿はこれ以上になく愛らしかった。
湧き上がる愛しさに、ガイアスはジュードにならば我が子を産ませても良いと思った。
避妊具を不要だと切り捨てるガイアスに、ジュードは戸惑いの声を上げた。
しかしそれを無視して猛る自身を濡れそぼるそこに押し当て、押し込んでいくとジュードの細い背が撓った。
念入りに解したつもりだったが、それでもガイアスを受け入れていくそこはまだ狭く、ガイアスの長大な熱を根元まで受け入れる事は出来なさそうだった。
きゅう、ときつく締め付けてくるだけだったそこが次第に馴染み、ガイアスの熱をもっと感じようとするかのように蠢き始めた。
久方ぶりだからだろうか、それとも余程体の相性が良いのか。それだけでもう持って行かれそうになるのをガイアスは堪え、腰を動かした。
ゆっくりと怒張したそれで内壁を擦りあげると、ジュードの体がびくびくと震える。
痛みは然程感じてい無いようで、ガイアスは少しずつ腰の動きを速めて行った。
おずおずとガイアスの背に腕を廻してくる様は控えめで好ましい。
内壁はもっと奥へと誘う様にひくついている。これならば大丈夫だろう。ガイアスはそう判断して少々強引に根元まで自身を押し込んだ。
響く甲高い声は耳に心地よく、もっと聞いていたいとガイアスは思う。
なかはだめ、と快楽に溶けた舌っ足らずな声を無視してその最奥に熱を注ぎ込む。
瞬間的に硬直していたジュードの体が弛緩して、背に回されていた腕がシーツの上にぱたりと落ちた。
子供が出来てしまうと涙を零すジュードが愛らしくて、ガイアスは欲求のままにその唇を貪った。
そして自分がガイアスの子を産む為に雇われたのだと知ったジュードは、その蜂蜜色の瞳を大きく見開いて呆然とガイアスを見上げていた。
今でも妻を娶る気はないが、それでもジュードと自分の関係が金で繋がっているだけのものだと思うとそれが少し、惜しかった。

 


ジュードは自分の置かれている立場を受け入れた。
戸惑いや迷いが無いわけではない。しかし実家を少しでも助けたいという使命感がジュードを支えていた。
ガイアスと夜を共にすればその分給料は上がるし、子を産む事が出来ればマティス治療院のスポンサーになろうとガイアスは言った。
領主であるガイアスが後ろ盾となれば、薬の材料を今より安価で手に入れる事が出来るかもしれない。
全ては今まで自分を大事に育ててくれた親への恩返しなのだ。ジュードはそう己を納得させた。
そうしてジュードは毎夜と言っていいほどガイアスの寝所に上がった。
ガイアスの手に翻弄され、長大な熱に貫かれ、揺さぶられてジュードはその胎に熱い迸りを受けた。
そんなジュードがガイアスの寝所に上がらなくていいのは月のものが来ている間だけだった。
しかし月のものが来るという事はガイアスとの子は授かっていないという事で。
月のものが来る度にほっとしたような、けれど役目を果たせていないという罪悪感に駆られながらジュードは日々を過ごした。
屋敷で働くようになって三か月が過ぎても、ジュードに妊娠の兆しはなかった。
あれほどガイアスの熱を受けておきながら孕まないのは、ガイアスかジュードのどちらかに何かしら欠陥があるとしか思えなかった。
だが恐らく悪いのは自分の体だろう。ジュードは無条件にそう思っていた。ガイアスに欠陥があるとは思えなかったのだ。
ガイアスの役に立てない。それはつまり、両親の役にも立てないという事だ。
次第にジュードの心には焦りと悲しみが満ちて行った。
そんなジュードを癒してくれるのが、仲間たちだった。
パーラー・メイドのミラ、ハウスメイドのレイア、トゥイーニーのエリーゼ、セカンド・シェフのルドガー。皆ジュードに優しくしてくれた。
ジュードが毎夜ガイアスの部屋に上がっている事は噂になっているだろうに、それをおくびにも出さず接してくれる。
そんな中でも特にジュードを気にかけてくれていたのがフットマンのアルヴィンだった。
アルヴィンは頻繁にジュードに声を掛け、気持ちの沈みがちだったジュードをその巧みな話術で楽しませてくれた。
フットマンの中でも地位の高いファースト・フットマンであるアルヴィンはアンダー・バトラーも兼ねており、比較的自分の意見を通す事が出来た。
その為、最近ではジュードの自由時間に合わせて自らも自由時間を取っているようで、二日と置かずジュードの部屋を訪れた。
この日もアルヴィンは砂糖菓子の入った包みを手土産にジュードの部屋を訪れた。
ジュードが室内に招き入れると、差し入れ、と笑ってアルヴィンは砂糖菓子の包みを手渡す。
「いつもありがとう」
「良いって事よ」
ふとアルヴィンはチェストの上に置かれた小瓶に気付いてそれを手に取った。
「ジュード君、どっか悪いの?」
白い錠剤の入った薬瓶に、アルヴィンがジュードを見る。
「ううん、それはただの栄養剤。イスラさんが僕の顔色が悪いからってくれたんだ」
イスラとはこの屋敷のコンシェルジュ・ドクターを務める女性だ。
アルヴィンはじっと手の中の小瓶を見下ろしていたが、やがてふうん、と含みを持った声を漏らしてそれをチェストの上に置いた。
「栄養剤、ねえ……」
「アルヴィン?」
小首を傾げて見上げてくるジュードに、アルヴィンは何でもない、と人当たりの良い笑顔を浮かべた。
そうしてアルヴィンはあれやこれやとジュードに話をしてくれる。アルヴィンはこの屋敷で落ち着くまではあちこちの屋敷を転々としていたらしく、貴族たちの情報にも通じていた。
どの話も面白おかしく話すので、ジュードはくすくすと笑みを零しながらそれを聞いていた。
だが楽しい時間というものはあっという間に過ぎていくもので。アルヴィンはふと時計を見ていけね、と立ち上がった。
「そろそろ仕事に戻るわ。ジュード君も頑張れよ」
「うん、ありがとう、アルヴィン」
ひらひらと手を振ってアルヴィンを見送ると、ジュードはうんと一つ伸びをして立ち上がった。
「さあ、僕も頑張らなきゃ」
リボンが曲がってないかを確かめて、ジュードはユリウスの元へと向かった。

 


「調子はどう?ジュード」
その日、屋敷を訪れたイスラにジュードは大丈夫です、と笑った。
「イスラさんがくれた栄養剤のおかげかな。最近調子が良いんです」
そう笑うジュードに、イスラはそう、と微笑んで薬の入った小瓶を握らせた。
「もうそろそろ無くなる頃でしょう?これは続けて飲んだ方が効き目が良いからこれからも飲んで頂戴」
小瓶を受け取ったジュードは、はい、と素直に頷いて頭を下げた。
「ありがとうございます、イスラさん」
「医者として当たり前のことをしているだけよ」
そして仕事に戻っていくジュードの後ろ姿を見送ったイスラは、小さくため息を吐いて踵を返した。
「!」
振り返った先に見知った男が立っていてイスラはぎくりとする。
「よう、イスラ」
「……アルヴィン」
壁に凭れ掛かって立つ男に、イスラは落ち着きを無くす。
そわそわとしだしたイスラに、アルヴィンは聞きたい事があるんだけど、と告げた。
「ジュード君に渡したあの薬、栄養剤じゃないだろ」
びくりとイスラの肩が揺れる。その反応にアルヴィンは自分の考えが当たっている事を確信した。
「な、何の事……あれはただの栄養剤よ」
それでも白を切るイスラに、アルヴィンは嘘吐くなよ、と切り捨てる。
「あれ、避妊薬だろ」
アルヴィンの指摘にイスラの顔から血の気が失せていく。よりによって、この男に知られてしまうなんて。
「おっかしーと思ったんだよな。毎晩旦那様に抱かれてるジュード君が一向に孕む気配がないなんてさぁ」
「……それは、あの二人のどちらかに欠陥があるのよ」
「俺も最初はそう思ってたんだけどね。あの薬さあ、俺のお袋も飲んでたんだわ」
白い錠剤の表面に刻まれた四葉のような刻印。アルヴィンは唇の端を歪めて笑う。
「こっちじゃあ余り見かけないけど、エレンピオスじゃあ結構知名度高いんだよな」
「あなた……エレンピオス人だったの……!」
この国と海の向こうの隣国であるエレンピオスは隣国でありながらも文化が違い過ぎる事から余り国交がなく、行き来する人も少ない。
お互いに相手国を見下している傾向があり、エレンピオス人はこの国ではろくな仕事に就けないとされている。
まさか領主邸という場所にエレンピオス人がいるなどとイスラには思いもよらなかったのだろう。
イスラの言葉を薄い笑みを浮かべて否定も肯定もしないアルヴィンに、イスラはそれで、と震える声で問う。
「どうしたいの。お金が欲しいの?」
「それ、誰の依頼だ?」
アルヴィンの問いにイスラは顔を背けて俯く。
「……誰だって良いでしょう」
答える事を拒むイスラに、そういう態度取っていいのかなぁとアルヴィンが口元だけで笑う。
「このまま旦那様に報告に行っても良いんだぜ?」
それとも、と腕を組んで小首を傾げる。
「ユルゲンスに言っちゃおうかねえ?」
「ユルゲンスには言わないで!」
ばっと顔を上げたイスラに、アルヴィンはじゃあ答えてくれるよな?と促す。
ユルゲンスはアルヴィンの友人であり、イスラの婚約者である男だ。
数年前までこの屋敷でグルームとして働いていたが、今はシャン・ドゥでイスラと共に暮らしている。
ユルゲンスは優しいく正義感が強い男だ。イスラのやっている事を知ればイスラの元を去ってしまうに違いない。
ユルゲンスを失う事だけは耐えられないイスラは、消え入りそうな声でラ・シュガルよ、と告げた。
「ラ・シュガルの領主が旦那様を目の敵にしている事は知っているでしょう?」
ラ・シュガル地方の領主であるナハティガルはこの地の前領主と親交を結んでおり、その前領主を蹴落としたガイアスを嫌っていた。
「アウトウェイ家の断絶。ナハティガル様はそれをお望みなのよ」
「前領主が追い落とされたのは自業自得だってのにねえ」
呆れたように言うアルヴィンを、答えたわよ、とイスラは睨み付ける。
「教えたんだから、ユルゲンスには言わないで頂戴」
アルヴィンは薄い笑みを浮かべたまま、まだ駄目、と意地悪く言う。
「まだ聞きたい事と、お願いがあるんだわ」
「……何よ」
「ジュード君の月のものの周期、教えてくんない?」
アルヴィンの言葉にイスラは訝しげな顔をする。
「どうしてそんな事を……」
「教えてくれるの、くれないの、どっち?」
「……あの薬をちゃんと毎日飲んでいるなら、二十八日周期よ。多分、あと十日程で月のものが来る筈よ」
ふうん、とアルヴィンはにやにやと嫌な笑みを浮かべながら言う。
「排卵日って、月のものが始まってから二週間後くらいだっけ」
「ええ。でもあの薬は排卵自体を止めるから……」
そこまで口にしてイスラはまさか、とアルヴィンを見る。
「まさか、あなた……」
イスラの言葉にアルヴィンはにやついたまま俺さ、と言う。
「欲しいものって我慢できないタイプなんだよね」
だからお願いがあるんだけど、とアルヴィンは言葉を続けた。
「あの薬そっくりの偽薬、作ってくんない?」

 

 

 

 


アルヴィンがその少女を見つけたその瞬間、世界の色が一変したように感じた。
新しくメイドが入ったという話は聞いていた。しかも主の専属だという。
ガイアスの側にはローエンという有能なバトラーと、これまた有能なユリウスを始めとするヴァレット達がいる。人手が足りていないとは思えない。
なのにわざわざメイドを側に置くという事は。
何の為のメイドなんだか。淡泊そうに見えて、旦那様も男だったんだねえ。アルヴィンはそう思いながらもそのメイドに対する興味は然程湧かなかった。
しかし、ユリウスの後について廊下を歩くその少女を目にした瞬間、アルヴィンは目を見開いた。
艶やかな黒髪、猫のように釣り上がった蜂蜜色の大きな瞳、薄く色付いた小さな唇に白い肌。
アルヴィンは自分の理想が形を成して現れたのだと思った。一目で恋に落ちた。
否、恋だなんて可愛い感情ではなかった。この身に湧き上がった感情は、もっと醜い。
執着や独占欲、征服欲といった濁った感情が泥の様に混ざり合って湧き出てくる。
あの少女を手に入れたいという欲求がじりじりと身を焦がす。
だがあの少女はガイアスの専属メイドだ。夜の相手を務める、愛玩用のメイド。
ろくに男を知らなさそうな清純さと幼さを湛えた少女は、あの男の下でどんな声を上げて鳴くのだろう。その身を貫かれ、どんな表情をするのだろう。
そう思うと一気にガイアスに対して嫉妬心が噴き出した。
だが自分はこの屋敷においては一介のフットマンでしかない。ただのフットマンが主であるガイアスに叶う筈もないのだ。
しかしジュードと名乗った少女はアルヴィンにも優しく接した。毎夜ガイアスに抱かれているのだと思えないほど純粋で、あどけなかった。
ジュードが他の使用人たちと仲良くしているように、アルヴィンとの距離も次第に縮まっていった。
少し恥ずかしそうな笑顔が愛らしかった。アルヴィン、と鈴を転がす様に名を呼ばれるのが心地良かった。
どうにかしてこの少女を手に入れられないだろうか。そう思っていた時、あの薬瓶を見つけた。
白い錠剤の表面に刻まれた、四葉に似た刻印。アルヴィンにはそれに見覚えがあった。
アルヴィンはエレンピオス国にあるトリグラフ地方の領主の息子として生を受けた。
名も、その頃は親から与えられた名であるアルフレドを名乗っていた。
何不自由の無い生活を送っていたアルヴィンが十六歳の時、領主である父親が病で亡くなった。
本来ならば息子であるアルヴィンがその後を継ぐ筈だった。しかし年若い事を理由に、暫定的に叔父であるジランドールがその座に就く事になった。
暫定的に、とジランドールは言ったが、それが建前でしかない事はアルヴィンにも、そしてその母であるレティシャにもわかっていた。
夫という支えを失ったレティシャはジランドールに縋った。
母と叔父がそういう関係となった事を、アルヴィンは鋭敏に察していた。そして全てに嫌気がさしたアルヴィンは家を出奔した。
その頃に母が飲んでいたのがその錠剤だった。
性交をすれば妊娠するのが当たり前、そして妊娠したら産むのが当たり前という考えのこの国とは違い、エレンピオスでは避妊や堕胎の薬が貴族の間で密かに流通していた。
それらは一般には売られていなかったが、闇医者が処方しては貴族らに高値で売り捌いていた。
恐らくイスラもユルゲンスと出会うまではそういった事に手を染めていたのだろう。
そしてその事を知っている誰かに付け込まれ、ジュードがガイアスの子を孕むのを防いでいたのだ。
よくやった、とアルヴィンは思った。そしてきっと運は俺に向いている、と感じた。
ジュードを手に入れる方法を、こんな簡単な方法をアルヴィンはどうして今まで思いつかなかったのかと悔やんだ。
ガイアスより先に、ジュードを孕ませてしまえばいいのだ。
子を作るのに重要なのはタイミングだ。それさえ合えば、後はジュードがどれだけガイアスに抱かれようと問題ではない。
同時期に二人の男と関係を結べば、ジュードにだってどちらの子なのかわからないだろう。
そんな状態であの真っ直ぐなジュードがガイアスの側に居続けるとは思えない。
どちらの子が生まれるかわからないのに、平然としてガイアスに黙っている事などあの少女には無理だ。
そこを、攫ってしまえばいい。あの小さな手を取ってトリグラフに逃げよう。
生まれてくる子供がどちらの子なのか。そんな事は些細な問題だ。
アルヴィンの子であれば愛しむし、ガイアスの子であればガイアスにくれてやっても良い。
アルヴィンにとって子供とはあくまで副産物でしかなかった。
だがジュードだけは別だ。あの少女だけはどうしても欲しい。
ジュードを手に入れれば失った大切な何かも取り戻せるような、そんな気すらした。
そうなると問題はあの薬をどうやって飲ませないようにするか、だった。
あの薬を飲んでいる限り、例えアルヴィンがジュードを襲った所で孕む事は無い。
だからと取り上げるのは不自然だ。こっそり処分してもまたイスラから新たに受け取るだけだろう。
ならばそのまま飲ませておけばいいのだという事にアルヴィンは気付いた。
あの薬を何の効力もない偽薬とすり替えてしまえば、ジュードはそのままそれを飲み続けるだろう。
やがて避妊の効果は消えていき、ジュードの体は母となる準備を再開する。そこを狙えばいいのだ。
タイミングさえ合えば、全てはアルヴィンの狙った通りに事は進む。
ただ、いつ排卵するかは予測は立てれてもはっきりとした日時は誰にもわからない。
全ては運任せだ。だがアルヴィンは確信していた。
ジュードはきっと、俺の子を産む。
アルヴィンはイスラから受け取った小瓶を手の中で転がしながら薄らと笑った。

 


その日の自由時間もまたアルヴィンはジュードの部屋を訪れた。
何の警戒心もなくアルヴィンを室内に迎え入れたその小柄な体をベッドに押し倒し、スカートの中に手を突っ込んだ。
「やっ、なに、アルヴィン……!」
抵抗するジュードの手をシーツに縫いとめ、騒ぐ唇を己の唇で塞いだ。
「んんっ」
強引に舌を差し入れ、その小さな舌を絡め取る。ジュードに口付けているのだと思うとぞくぞくとした快感がアルヴィンの背を駆け巡る。
どこか甘く感じるその口内を蹂躙しながら、アルヴィンはジュードの下着を下ろして床に落とした。
「んんん!」
ばたばたと暴れる脚の間に体をねじ込み、露わになった秘所にアルヴィンは指を突き立てる。
びくんとジュードの体が震えて大人しくなり、狭いそこを拓いていきながら内壁を擦った。
「ん、ふ……ぁ……なん、で……」
「ジュード君の事が好きで堪んないから」
戸惑いに揺れる蜂蜜色の瞳に煽られながら、アルヴィンはぬちぬちと音を立てて指を抜き差しした。
「あっ、あ……!」
「ここ、気持ちいいんだ?ぬるぬるしてきてるぜ」
「や……!」
否定するようにふるふるとジュードは首を横に振るが、しかし指が抜き差しされるそこから響く音は確実に質を変えていた。
粘膜を擦る音はいつの間にかぐぷぐぷとした水音を立ててアルヴィンの指を飲み込んだ。
時折きゅっとアルヴィンの指を締め付け、そしてもっと奥へと誘う様に蠢いた。
「いやらしい事なんてなーんにも知らないって顔して、しっかり旦那様に開発されてんだな」
くっと唇の端を歪めて笑えば、ジュードの頬にさっと朱が上る。
「そんな、こと……」
細い腕を片手で易々と押さえつけたまま、アルヴィンは中を抉る指の数を増やしていく。
ガイアスによって拓かれる事に慣れたそこはアルヴィンの指も飲み込んでいき、もっと強い刺激を求めてひくついた。
頃合いかな、とアルヴィンは愛液に塗れた指を引き抜くと自らのトラウザーズの前を寛げ、既にそそり立っている自身を取り出してジュードの秘所に押し当てた。
「や、やだっ、アルヴィン、やめて……!」
ジュードの涙を滲ませたその懇願に、しかしアルヴィンはちろりと自らの唇を舐め、笑みすら浮かべてその肉壺を貫いた。
「ひあっ」
一気に根元まで押し込まれ、ジュードの体が雷にでも打たれたかのように跳ねる。
ひくひくと蠢きながらもきつく締め上げてくるその内壁に、アルヴィンは感嘆の溜息を吐いた。
「ジュード君のナカ、すっごく温かくて気持ちいいぜ……」
「やだ、抜いて、抜いてよアルヴィン……!」
「ジュード君の中にあっついのたくさん注いだら抜いてやるよ」
「や、ある、あっ、あっ」
容赦のないその腰の動きにジュードがはらはらと涙を零すと、アルヴィンの舌がそれをべろりと舐めとった。
「あっ、あっ、やっ、んっ」
「ジュード、ジュード……!」
細い腰を掴んで激しく腰を進めていたアルヴィンはやがて小さく呻いてジュードの中で熱を放った。
「あ、あ……」
脱力して呆然としているジュードの頬に口付けて、アルヴィンは優しく笑った。
「愛してる、ジュード」
「……」
応えはなかったが、それでもアルヴィンは満ち足りていた。
これで、ジュードは俺のものだ。
埋め込んでいた自身を引き抜くと、白濁とした粘液がそこから溢れて零れ落ちる。
それを眺めながら、アルヴィンは薄暗い笑みを浮かべた。

 


その翌日から、ジュードは自由時間をどこか別の所で過ごす様になった。
いつ訪れても部屋は無人で、避けられてるなあとアルヴィンはくつりと笑う。
本当ならあと何日かは続けて種を植えつけてやりたかったのだが、逃げられた。
まあいい。アルヴィンはチェストの引き出しを勝手に開け、中から小さな薬瓶を取り出す。
今ではもう何の効果もないそれがアルヴィンの手の中で転がる。
さて、来月が楽しみだ。
手の中のそれを元の場所に戻すと、アルヴィンはジュードの部屋を出た。
その頃、ジュードはレイアの部屋で時間を潰していた。
「ごめんね、折角の非番なのに」
申し訳なさそうに言うジュードに、レイアは気にしないで、と笑う。
「どうせ行く所もやる事も無かったし、寧ろジュードが来てくれて嬉しいんだ」
この広い屋敷ではアッパー・サーヴァントとロワー・サーヴァントではお茶をする部屋も違ってくる。
同じ屋敷で働いていても余り接触する事が無い二人は、時折こうしてお互いの部屋を行き来して親交を深めていた。
「でも、アルヴィン君は良いの?」
「え?」
突然レイアの口から出たアルヴィンの名にジュードはぴくりと肩を揺らす。
しかしレイアはそれに気付かずにぽりぽりとクッキーを齧りながらだってさあと続ける。
「この時間はいっつもアルヴィン君と一緒だったじゃん。なのに最近よくこっち来てるけど、喧嘩でもしたの?」
「うん……そんな感じ、かな……」
曖昧に笑うジュードに、どうせアルヴィン君が悪いんでしょ、とレイアが笑う。
「アルヴィン君はさ、ジュードに甘えてるんだよ」
レイアの言葉にジュードはきょとんと小首を傾げる。
「アルヴィンが僕に?」
「そう。だってアルヴィン君ってジュードの事大好きじゃん」
「えっ、そ、そう、なの?」
頬を染めながら問い返せば、そうそう、とレイアは何枚目かのクッキーに手を伸ばした。
「バレバレっていうか、あれは隠そうとしてないんだろうね。アルヴィン君ってどっちかっていうと一匹狼タイプだったのに、ジュードには尻尾振って寄って行くんだもん」
わかってないのはジュードだけだよ、と笑われてジュードは顔を赤くして俯く。
確かにアルヴィンに好きだと言われるまで、アルヴィンをそういった対象として見た事は無かった。
愛してると言われても今一つぴんと来ず、けれどまたあんな事になるのは困るのでここ数日避けている。
「……あのさ、ジュード」
それまで呑気な空気を醸し出していたレイアがふと真顔になってジュードを見た。
「もし、もしね、ジュードがアルヴィン君を好きだって思うなら、私は応援するよ。きっとミラたちもそう言うと思う」
「レイア……」
「応援する事しか出来ないけど……きっと、あのね……旦那様も、許してくれると思う」
「!」
表情を強張らせたジュードに、レイアはごめん、と視線を落とした。
「言っちゃいけない事だってわかってるけど、でもっ」
「ありがとう、レイア」
ジュードの穏やかな声にレイアは顔を上げる。
「ジュード……」
優しげな笑みを浮かべたジュードは、言わせちゃってごめんね、と苦笑した。

 


それから一か月が過ぎてもジュードは相変わらずアルヴィンを避けていた。
きっと自分はアルヴィンの事が好きなのだろう。それはわかっている。
あんな事になってしまったけれど、いつもジュードを笑わせてくれたのはアルヴィンだった。
少しの菓子と、弾む談笑。その時間がとても楽しかった。嬉しかった。
けれど自分が感じているこの好きという感情が、アルヴィンが求めているそれと同じなのかまではわからない。
この年になるまで恋愛の経験など皆無と言っていい程それと縁のない環境で育ったジュードは初めての事に頭を悩ませた。
そんなある日、ジュードはふと月のものが来ていない事に気付いた。
前回の月のものが終わってからの日数を指折り数えてみて、やはりいつもより遅れていると気付く。
元々ジュードの周期は不安定で、月のものが来るまでの期間にもばらつきがあった。
ここ数か月は安定していたのだが、またずれはじめたのかもしれない。
けれど、とジュードは思う。ガイアスとは今でもほぼ毎夜寝所を共にしている。
もしかして、とジュードはそっと己の下腹部に手を当てる。
「……赤ちゃん……?」
やっと、授かった?ぱあっと表情を輝かせた次の瞬間、ジュードははっとして待って、と思う。
もしこれが妊娠だとして、それは本当にガイアスとの子なのか。
アルヴィンとは一度だけだった。それでも中に熱を放たれた事に違いはない。
まさか、と思う。いや、そんなはずはない。ただ月のものが遅れているだけだ。
もしかしたら明日には月のものが来るかもしれない。そうだ、そうに違いない。
ジュードは己にそう言い聞かせ、祈る様に胸の前で手を組んだ。
だが、それから一週間が過ぎても、二週間が過ぎても月のものが来る気配は無かった。
そしてその夜、いつもの様にガイアスに抱かれて広いベッドの上で脱力していると、ガイアスがそういえば、とジュードを見下ろした。
「今月は月のものが来ていないようだが……」
ガイアスの言葉にぴくりとジュードは肩を揺らして恐る恐るガイアスを見上げる。
「それは、その……」
落ち着きを無くしたジュードを、ガイアスはまさかと見る。
「子が出来たのか」
「……まだ、わからないんですけど……」
「だが月のものは来ていないのだな」
「……はい」
ジュードが視線を彷徨わせながら頷くと、ガイアスはジュードの小柄な体をそっと抱き寄せた。
「そうか……明日、イスラを呼ぼう」
「でも、まだわからないと思いますけど……」
おどおどと告げるジュードに、念の為だ、とガイアスはその髪に口付けながら言う。
「だが本当に子を授かったのであれば、これ以上に喜ばしい事は無い」
「……はい……」
翌日、ジュードを診察したイスラは、何処か硬い面持ちでおめでとう、と告げた。
「検査薬に反応があったわ。まず妊娠してると考えていいと思う」
「……そう、ですか」
どうしよう。ジュードは何度もその言葉を繰り返しながら広い廊下を歩く。
ガイアスの執務室に向かう歩みはどんどん遅くなっていった。
使用人専用の階段を上がっていく途中でその歩みはとうとう止まってしまう。
このお腹の子の父親は、どっちなんだろう。
時期を考えても、ガイアスとアルヴィン、どちらの可能性もある。
どうしよう。なんて言えばいいんだろう。
階段の途中で立ち止まっていると、ふと誰かが降りてきてジュードははっと顔を上げた。
「ジュード君、みっけ」
降りてきたのはどこか上機嫌な面持ちのアルヴィンだった。
「アルヴィン……仕事は?」
「ああ、ちょっと抜けてきた。おたくを探してたんだよ」
「え……僕を?」
こうしてまともに顔を合わせるのは久しぶりだった。
ジュードが戸惑いながらアルヴィンを見上げていると、あのさ、とアルヴィンが嬉しそうに言った。
「妊娠、したんだって?」
「!」
イスラに診て貰ったのはついさっきの事だ。ジュードは誰にも言って無い。どうしてそれを知っているのか。
「俺、イスラとオトモダチでさぁ。教えてもらったんだよ」
目を見開いて固まっているジュードを見下ろして、なあジュード君、とアルヴィンが笑って言う。
「誰の子なんだろうな?」
「っ」
蒼白な顔で見上げてくるジュードに、アルヴィンは心底楽しそうに笑みを浮かべる。
「俺の子だったりして」
「そ、れは……」
「だとしたら、旦那様は何て言うかねえ」
「……」
耐えきれないと言う様に視線を逸らし、足元へと向けるジュードにアルヴィンは逃げちゃおうか、と告げた。
「え……」
思わず顔を上げてアルヴィンを見ると、薄い笑みを浮かべながらアルヴィンはジュードを見下ろしていた。
「俺と二人でこの屋敷から逃げようぜ」
「なに、言ってるの……」
困惑するジュードに構わずアルヴィンは言葉を続ける。
「俺なら生まれてくる子がどっちの子かなんて事は気にしないし、跡取りを残すためだけの道具みたいな扱いは絶対にしない」
だからジュード。アルヴィンがジュードへと手を差し伸べた。
「俺の手を取れ」
アルヴィンの言葉に、ジュードは己の心が揺れ動いている事に気付いた。
生まれてきた子がもしアルヴィンの子としての特徴を備えて生まれてきたなら、ガイアスはきっと許さないだろう。
けれど今ここでアルヴィンと逃げてしまったら、その咎は両親にも降りかかるかもしれない。
「僕は……」

 


→ガイアスに全てを打ち明ける。

 


→アルヴィンの手を取る

 


 


戻る