ビズジュエンド

 

「……」
アドレス帳を開こうとして、やっぱやめた、と携帯電話を閉じる。というより、そもそも連絡先を知らなかった。
連絡を取ろうと思えば何とかなるかもしれない。けれど、この想いを告げた所でどうなるというのだ。
きっとあの人にとって、あれはただの遊びだ。こんな子供の事などもう忘れているに違いない。
あの人は連絡先を聞こうとはしなかった。それはつまりそういう事なのだろう。
ジュードは手にしていた携帯電話をベッドの上に放り投げると、僕って馬鹿だな、と苦笑する。
よりによってたった二度会っただけの人を好きになるなんて。
ルドガーだってユリウスだってあのリドウですら優しかった。せめてその内の誰かを好きになってたら良かったのに。
好きだと言ってくれた人に、それを返せたらよかったのに。どうしてこんな虚しい一方通行に陥ってしまったのだろう。
「……ビズリーさん……」
ビズリーの強い眼差しが甦る。あの眼差しで射抜かれた瞬間、きっと自分はあの人に恋をしていたのだろう。
親子ほどに歳の離れた自分を、ただの学生でしかない自分をあの人が対等に見てくれるとは思えない。
それでも好きになってしまったのだ。この想いはすぐには消えてはくれないだろう。
つきりと胸を食む痛みに、ジュードは小さな溜息を落とすと目を閉じた。

 


「そうか……」
ごめんなさい、と頭を下げたジュードに、ルドガーはそうだと思ってたと苦笑した。
「僕、好きな人がいて……あの人が僕の事をなんとも思ってなくても、好きな事に変わりはないから……」
「ジュードは告白しないのか?」
とんでもない、とジュードはぶんぶんと首を横に振る。
「僕みたいな子供、相手にして貰えないよ!」
そんなジュードに、ルドガーはジュードはその人の事が本当に好きなんだな、と微笑んだ。
「だからそんなに臆病になってるんだ」
「臆病……そう、なのかもしれないね……」
迷惑がられるのが怖い。拒絶されるのが怖い。厳しさの中に宿った優しい光が消えるのを見たくない。
「僕、逃げてる……のかな」
ジュードの問いに、ルドガーはどうだろうな、と微笑む。
「その答えはジュードにしか出せない事だから」
「そう、だよね……」
俯くジュードの髪をルドガーの手がくしゃりと撫で、そのままわしゃわしゃとかき混ぜる。
「一度当たって砕けてみればいいんじゃないかな。俺みたいに玉砕したとしても、結構すっきりするから」
「ご、ごめん……」
恐縮するジュードに、ルドガーはくつくつと喉を鳴らして笑った。
「俺に悪いと思うなら、その分その好きな人に幸せにして貰えよ」
ジュードは笑うルドガーを見上げ、ありがとう、と微笑んだ。
それがつい一時間ほど前の事。
「……」
来てしまった。ジュードはクランスピア社の前で盛大な溜息を吐いた。
学校にいる間、ずっとビズリーの事が頭を離れなかった。それでつい、というかうっかり、というか、帰路に着く筈の足はクランスピア社へと向かっていた。
ルドガーはああ言っていたが、当たって砕ける為にはまずビズリーに会う事が難しい。
それはジュードの心の準備がどうこう以前に、大会社の社長にただの学生の自分が会う事などまず無理だ。
前回はリドウのお使いでここに来て偶然会っただけだし、最初に至っては彼がユリウスを訪ねてきた時にたまたまそこに居合わせただけだ。
また会えるなんてそんな偶然あるわけない。
帰ろう。そう思って踵を返すと、視線の先で見るからに高級車、というかあれは所謂ロールス・ロイスというやつではないかと思われる車が路肩に寄って止まった。
その後部座席から降り立ったのは、ビズリーだった。
秘書を従えて歩くその男に視線が奪われる。ふとビズリーがジュードを見た。どきりと心臓がうるさい音を立てる。
彼は真っ直ぐジュードの元へ歩み寄ってくると、その強い眼差しで見下ろしてきた。
「今日もリドウのお使いかな」
男の低い声に、ジュードはふるふると首を横に振って違います、と否定した。
「あの、僕……!」
ビズリーを切なげな瞳で見上げたジュードは、しかしすぐに俯くといいえ、と打ち消す。
やっぱり駄目だ。言えるわけがない。
「たまたま、通りがかっただけです……」
ぼそぼそとそう言うジュードをビズリーはじっと見下ろしていたが、ならば、と声を掛けた。
「また私に少し付き合ってくれないか」
「え……」
きょとんとしてジュードが見上げると、ビズリーはふっと表情を和らげる。
「君はどうやら私に用がある様だ」
「え、あの、それは……!」
違うんです、と否定しようとしてもその言葉がまるで喉の奥で引っかかってしまったかのように出て来ない。
「ついて来なさい」
赤のコートを翻して歩き出したビズリーの後をジュードは慌てて追う。
前回と同じ、社長室の奥の応接室に通されると、また秘書の女性は紅茶を供すと一礼をして出て行ってしまった。
「さて、どんな話があるのかね」
「ぼ、僕は別に……」
視線を逸らすジュードに、ビズリーが低く笑う。
「ここまで来たのだ。言ってしまった方が楽になると思うが?」
「……」
ジュードは自分の前に置かれた紅茶の注がれたカップを見下ろし、僕、と切り出した。
「ビズリーさんの事が、好きです」
ジュードの言葉にビズリーが微かに目を見開く。
「……ほう?」
「貴方はただ興味本位で僕に手を出したんだろうってわかってます。でも、あの日の事は、僕にとっては大切な……」
そこまで言ってジュードはふるふると首を横に振った。
「……貴方に迷惑をかけるつもりはありません。もう、ここへも来ません。僕が言いたかったのはそれだけです」
紅茶、ありがとうございました。ジュードはぺこりとお辞儀をして立ち上がると部屋を出ようとする。
「待ちなさい」
「……」
ぴくりとジュードの肩が震えてその歩みが止まる。
「私の返事を聞かずに帰っても良いのかな?」
「……聞かなくても、わかってますから」
ジュードの応えに、そうかな、とビズリーが笑う。
「君が考えている私の返答と、私自身の返答は食い違っているように思えるのだがね」
「え……?」
思わずジュードが振り返ると、ビズリーもまた立ち上がってジュードに歩み寄った。そしてその頬に武骨な手を添えると、戸惑いの表情で見上げてくるジュードをじっと見下ろす。
「あの日の事を、私はただの思い出にするつもりはない」
「それって……」
ジュードの戸惑いを宿した眼差しの奥に僅かに揺れるものが見えた。微かな希望という名の期待を宿したその瞳を真っ直ぐに見つめてビズリーは言う。
「私はこれからも君と未来を紡いでいくつもりだ。勿論、君がそれを受け入れてくれるのであれば、だがな」
「でも、だって、だったらどうして……」
今まで何もアクションをして起こさなかったビズリーを、ジュードは不安げに見上げた。
「君がこうして自分から私の所へやってくるのを待っていたのだよ」
強引に奪うのも嫌いではないがな、と唇の端を歪めて笑う男を本当に?とジュードは見詰める。
「僕を、待ってたの……?」
ビズリーはジュードの手を取ると、ああ、と頷いてその手の甲に口付けた。
「ずっと君を待っていた」
「ビズリーさん……!」
瞳を潤ませた少年に、ビズリーはさあ、とその腕を広げて微笑む。
「私の腕は空いているぞ」
ジュードが迷わずその腕の中に飛び込むと、男の太い腕がジュードを抱きしめる。
苦しいくらいのそれにジュードはほうっと感嘆の溜息を洩らした。
「……こうして貴方に抱きしめて欲しかった」
「私もこうして君を抱きしめたかった」
僅かに腕の力が緩み、ジュードはビズリーを見上げる。
自然と唇が合わさり、それはすぐに深いものへと変わって行った。

 


ビズリーの熱は太くて、最初の時と同じように飲み込むのに時間がかかった。
それでも一旦根元まで受け入れてしまえば内壁はそれに馴染もうと蠢いたし、馴染んで来ればそれで擦って欲しくて仕方が無くなってくる。
「ビズリーさん、もう、動いて良いから……」
応接室の全面窓に手をついてジュードは振り返ると背後から己を貫いている男を切なげな瞳で見た。
「ああ……中も私を誘っている事だ。そうさせてもらおう」
ずるる、とギリギリの所まで引き抜かれ、またゆっくりと奥を目指して入り込んでくる。
じれったいその動きに、けれどゆっくりだからこそ感じられるもどかしいまでの快感にジュードは震えた。
ぐぷん、ぐぷんと粘膜が擦られる音が応接室に響く。もしここであの秘書の人が入ってきたら、と思うとジュードは堪らない思いに駆られた。
「何を考えている。中がうねっているぞ」
「あ、だって、こんな所で、こんな、こと、あっ」
ぬくんと押し込まれた熱をジュードの内壁はいやらしく締め付ける。
「今更、だな」
「ひあっ」
強く突き上げられてジュードが甲高い声を上げた。きゅうっと締め付けてくる内壁を抉る様にビズリーは腰を叩きつけた。
「あっ、あっ、激しいっ、こんな、あっ」
突然激しくなった律動にジュードは背を撓らせて震える。ビズリーの一番太い所がジュードの感じる所を強く擦って、ジュードは引っ切り無しに嬌声を上げた。
「あっ、あっ、ビズリーさ、ビズリーさんっ」
強い律動にやがてジュードは耐えきれなくなってもうだめ、いっちゃう、と震える声で喘いだ。
「私もそろそろ限界だ……出すぞ、ジュード」
「あっ、あっ、出して、中でいっぱい出してぇっ」
きゅんきゅんと締め付けてくるそこを強く抉ると、ジュードが甲高い声を上げて達する。
ビズリーもまたその細い腰を強く掴み、叩きつけるようにして根元まで押し込むとジュードの中に熱を注ぎ込んだ。
「あ、あ……」
びゅくびゅくと注ぎ込まれるそれを、ジュードはぶるりと震えて受け止めた。

 


ビズリーの住むマンション、その寝室のベッドの上でジュードは尻を高く突きだす格好でそれを受け入れていた。
身動きするたびにごろごろと中で動くそれに、ジュードは荒い息を漏らしながらビズリーの熱を唇と舌で愛撫する。
「ん、ふ……んむ……」
零れた唾液が顎を伝って零れ落ちた。それでも懸命に銜え込み、舌を這わせているとさらりと髪を撫でられる。
「さて、そろそろか」
ビズリーが頭上で低く言った。
「尻をこちらに向けなさい」
「ん……」
身を起こすと体内のそれがごろりと動いて、ジュードはじりじりと身を焦がす快感に震えながら言われたとおりにする。
ジュードの蕾からは一本の紐が垂れていて、その先端には輪っかが付いている。
ビズリーがその輪に指を掛け、ゆっくりと引っ張るとひくつく蕾の中からピンク色の球体が現れる。
「ああっ」
ゆっくりと引き抜かれるその快感にジュードが喘ぐ。一つ、また一つとそれは姿を現し、その度にジュードは声を上げた。
全部引き抜くと、蕾が物欲しげにひくひくと蠢いている。ビズリーは手にしたそれをシーツの上に転がすと、ジュードの腰を掴んで引き寄せた。
「あっ……」
「ゆっくり、腰を落としなさい」
言われるがままに腰を落としていくと、ぬくんと太い先端が入り込み、ずぶずぶと太いその熱を飲み込んでいく。
「あああ……!」
熱を受け入れただけでジュードはきゅうっと締め付けて達する。ぱたたっと音を立てシーツの上に白濁としたそれが落ちた。
「は……あ……」
達した事で体の力が抜け、一層奥までビズリーの熱を飲み込んでいく。根元まで飲み込むと、ぐんっと下から突き上げられてジュードは尾を踏まれた犬のように鳴いた。
「あっ、あ、だめ、まだ僕、あっ」
「すまないが、待てそうにない」
「ひあっ、あっ、あっ」
性具のおかげで柔らかくなっているそこはビズリーの太い熱も嬉々として飲み込み、締め付ける。
「あっ、あっ、あ、んんっ」
やがてジュードが何度目かの絶頂を迎えると、体の奥でビズリーの熱もまた弾けたのを感じた。
荒い息を吐きながら前に倒れ込みそうになるジュードの体をビズリーは支え、自分の方に凭れ掛からせる。
「あっ……」
繋がったまま抱き寄せられ、ジュードは背後から回された太い腕に手を添えた。するとビズリーの手がジュードのその手を取り、指を絡めてくる。
「……人をこんなに愛しいと思ったのは久し振りだ」
囁かれる低音にぞくぞくしながらジュードは僕も、と返す。
「こんな風に人を好きになったのは、初めてです……」
すると一層強く抱き寄せられ、その首筋に口付けられた。
そして耳元で小さく囁かれたそれに、ジュードは嬉しそうに目を細めて笑う。
「うん……僕もだよ」
体内に埋め込まれたままのそれがぴくりと反応し、力を取り戻していくのを感じたジュードはまだ夜が終わらない事を悟り、甘い息を漏らした。

 


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