ルドジュエンド

 

ルドガーの携帯番号を呼び出すと、ジュードは通話ボタンを押して起き上がった。
何度かコール音がして、もしもし?とルドガーの声がした。
『どうしたんだ、忘れ物か?』
ルドガーの声に、ううん、違うんだとジュードは苦笑する。
「本当はちゃんと面と向かって言おうって思ってたんだけど、決心がつくのに今までかかっちゃって」
『え?』
「あのね、ルドガーが僕に言ってくれた事、今も有効かな」
『ちょ、ちょっと待って!』
慌てたようにルドガーは言うと、扉の開閉する音が聞こえた。
『……お待たせ。兄さんとテレビ見てたから、さ』
「あ、ごめん」
どうやら自室に籠った音だったらしい。思わず笑うと、話の続きだけど、とルドガーが言う。
『この前言った事に変わりはない。今だってジュードの事が好きだ』
「そう……ありがとう」
ジュードはルドガーの言葉を受け止めるとゆっくりと瞬きをしてあのね、と告げた。
「僕も、ルドガーの事が好きだよ」
『……え』
「返事が遅くなってごめんね」
『いや、それは良いんだけど……本当、に?』
恐る恐るという風に聞いてくるルドガーに、本当だよ、とジュードは微笑む。
「最初はね、ミラやレイアと同じように一緒にいると楽しいだけだった。でも、今は違う」
その、とジュードは僅かに言い淀んで思い切って言葉にした。
「僕ね、もっとルドガーを知りたい。触れあいたい」
『え、それって、その……』
ルドガーもまた同じように言い淀み、ジュードはうん、と照れくさそうに頷いた。
「そう、取ってもらっても構わないよ」
『……』
電話向こうでしばらく沈黙を保ったルドガーは、やがてあのさ、と控えめな声を出す。
『これからそっちに行ったら……ダメかな』
「え?」
『ジュードの気持ち、電話じゃなくてちゃんと面と向かって聞きたいんだ』
その言葉に、ジュードはふふっと笑うと良いよ、と告げた。
「なら、駅で待ってるから」
気を付けて来てね、と言えばわかった、と笑う気配がしてまた後で、と通話が切られる。
沈黙した携帯電話を見おろし、ジュードは言っちゃった、と嬉しそうに笑った。

 


「……」
手の中の携帯電話を見下ろして、ルドガーは湧き上がる嬉しさにぐっと拳を握りしめた。
「……よし!」
ルドガーは上着を手にすると財布と携帯電話をポケットに押し込んで部屋を出る。
「兄さん、ちょっと出かけてくるから」
テレビを見ていたユリウスがこんな時間にか、とルドガーを見た。
「うん、ジュードの所に行ってくる。直接会って話したい事があるから」
「そうか。気を付けるんだぞ」
「うん」
行ってきます、と出ていく弟を見送って、ユリウスはふう、と一つ溜息を吐いた。
「……これで良かったんだよな」
自分より、弟の幸せを願っていたい。
ジュードへの想いは暫くの間はこの身を食むだろう。それでも。
「よかったな、ルドガー、ジュード……」
彼らが幸せなら、それで良い。ユリウスは自嘲気味に笑って天井を見上げた。
その頃、ルドガーは駅へと向かって走っていた。一秒だって惜しい。早くジュードに会いたい。
駅に辿り着き、やってきた電車に飛び乗ってジュードのマンションの最寄駅へと向かう。
電車を降りて改札を抜けると、わかり易い所にジュードが佇んでいた。
その小柄な体を抱きしめたい衝動に駆られながら駆け寄ると、ジュードが照れくさそうに笑った。
「ごめんね、わざわざ」
「いや、良いんだ。俺が会いたかったから」
ジュードはくすっと笑うとありがとう、と告げて歩き出した。
「でも思ったより早かったね」
並んで歩きながらそう言うジュードに、ああ、とルドガーは頷く。
「駅まで走ったから」
「そんなに急がなくて良かったのに」
「でも、少しでも早くジュードに会いたかったから」
するとジュードはそう、と俯く。暗いからはっきりとはわからないが、きっとジュードは顔を赤らめているのだろうと思うと愛しさが込み上げてくる。
こっち、と案内された先にそのマンションはあった。エレベーターに乗って五階で降り、部屋の前に立つ。
「どうぞ」
促されて中へと入ると、全体的にアイボリーで纏められた柔らかな印象の部屋だった。
小さな座椅子に置かれたパステルグリーンのクッションがアクセントとなって部屋を彩っていた。
「狭くてごめんね」
「いや、一人暮らしならこんなものじゃないのか?」
そうかな、と小首を傾げたジュードはお茶淹れるね、とキッチンへと向かう。
その後を追いかけて、紅茶葉の缶を取り出したジュードを背後から抱きしめる。
「ル、ドガー?」
「お茶も良いけど、まずはジュードの気持ちを聞きたい」
首筋に顔を埋めると、その肌からは良い匂いがしてルドガーの情欲を煽った。
ジュードは焦らないで、と笑うとルドガーに抱きしめられたまま紅茶の用意を進める。
「親戚に分けてもらった特製の紅茶を淹れるから」
とっても美味しいんだよ、と笑うジュードに、わかった、とルドガーは渋々その体を離した。
そして供された紅茶は、確かに美味しかった。ほっとするような味と柑橘系の香りが爽やかで好ましい。
「僕ね、ルドガーに告白されるまで誰かに恋をした事って殆どなかったんだ」
ジュードは手の中のカップを穏やかな目で見下ろして言う。
「だから誰かを特別に好きになるっていうのがよくわからなくて……答えを出すまで時間がかかっちゃってごめんね」
ふるふると首を横に振るルドガーに、ありがとう、とジュードは微笑む。
「ルドガーの事は好きだなっていう思いはあったんだけど、はっきりしなくて……でも僕、ある人からも好きだって言われてて……」
「え!」
驚いた声を上げるルドガーに、ジュードは苦笑した。
「その人の事も大切だったんだけど、ルドガーへの気持ちとは何か違うなって気付いて……」
だが、それは逆だったのだと気付いた。その気持ちがルドガーへの気持ちと違うのではなく、ルドガーへの気持ちが他のみんなへの気持ちとは違うのだと。
ジュードは真っ直ぐにルドガーを見て告げる。
「僕は、ルドガーが好きだよ」
「ジュード……」
ルドガーは傍らの少年を見詰め、呼び寄せられたように顔を寄せるとそっと口付けた。
「……俺も、好きだよ」
伏せられていた蜂蜜色の瞳がルドガーを捉える。少しだけ戸惑いを滲ませたそれを不思議に思っていると、あのね、とジュードが視線を逸らして言った。
「僕、誰かと付き合った事とか無いんだけど……その……」
俯いてしまったジュードはもう一度あのね、と言ってその続きを紡いだ。
「ルドガー以外の人とも、こういう事、した事あるんだ……」
きょとんとしたルドガーに、ごめん、とジュードは俯いて言う。
「嫌、だよね……」
「嫌っていうか、吃驚はしたけど……」
俯いたままのジュードに腕を伸ばし、ルドガーはその体を抱きしめる。
「ジュードの最初の男になれないのは残念だけど、でもその代りこれからは全部俺が貰うからそれでいい」
「ルドガー……」
恐る恐るというようにジュードがルドガーの背に腕を廻してくる。花の香りのする首筋に顔を埋め、ルドガーはそこに強く吸いついた。
「っ……」
ぴくりと震えたジュードの首筋から唇を離すと、ルドガーは笑って言う。
「ジュードが俺のものだっていう印」
その言葉にジュードはルドガーと同じように笑うと力強く頷いた。
「うんっ」
「もっと、ジュードに触れても良いか?」
ジュードは頬を朱に染めると、ルドガーの首筋にすりっと頬を寄せて囁くような小さな声で言う。
「たくさん触って……」
ルドガーはジュードに再び口付け、ベッドへと誘った。

 


男とは勿論の事、女ともそういう経験の無いルドガーはたどたどしくもジュードの体を弄り、その体を貫いた。
「あっ、んっ、んっ」
こんな気持ちいいの、初めてだ。ルドガーは衝動のままに腰を振り、ジュードの中を抉った。
ジュードの甘い声が耳に心地よく、もっと聞いていたいと思う。
腰を振りながら繋がった所を見下ろすと、自分の熱がジュードの中を出入りしていて酷く卑猥だった。
「……ジュード、気持ち、いいか……?」
荒い息を吐きながら問うと、ジュードは揺さぶられながらこくこくと頷いた。
「あっ、あ、きもちい、もっと擦って……!」
「っ」
ジュードの快感に蕩けた声がルドガーの下半身を直撃する。
「あ、あっ、なかでおっきく……!」
力を増したそれにジュードが嬉しそうな声を上げた。駄目だ、これ以上は持たない。
ルドガーはジュードの脚を抱え直すと一層激しく腰を振った。ジュードの唇から絶え間なく嬌声が漏れる。
「ジュード、ジュード……!」
譫言の様にその名を呼んでルドガーは高みを目指して駆けあがっていく。耐えるのを止めた途端にあっという間にその瞬間は訪れ、ルドガーはジュードの中に熱を吐き出した。
「ん、んんっ」
ジュードもまたびくんと震えて熱を放出した。その瞬間の内壁の蠢きが気持ち良くて、それをやり過ごす様にルドガーは甘さを帯びた息を吐いた。
「……ジュード……」
繋がったままその体を抱きしめると、ジュードもまたルドガーの背に腕を廻してくる。
ひくんと余韻を味わう様に蠢いている内壁に、ルドガーはもう一度その体を堪能したいと思った。
けれどふと時計を見たルドガーは、深夜に差し掛かろうとしているその時間にマズイ、と思う。
「終電って何時までだっけ」
腕の中のジュードを見下ろすと、未だにとろんとしていたジュードは潤んだ瞳でルドガーを見上げた。
「……帰っちゃう、の?」
「!」
その寂しげな表情に、ルドガーはぶんぶんと首を横に振って帰らない、と告げた。
名残惜しく思いながらも熱の引いたそれをジュードの中から引き抜くと、ルドガーは床に散らばった服の中から携帯電話を取り出す。
ジュードの家に泊まる旨を明記したメールを送ると、すぐに兄から返信が届いた。
程々にな、と一言記されたそれに、ルドガーはぼっと顔を赤くする。
これは、ばれている、のか?ルドガーが慌てていると、身を起こしたジュードがちゅっと音を立ててルドガーの頬に口付けた。
「どうしたの?ルドガー」
花が綻ぶように微笑むジュードに、ルドガーは何でもない、と首を横に振って携帯電話を閉じた。
兄さんには明日謝ろう。そう思いながら、ルドガーはジュードの体を抱き込んでとさりとベッドの上に横たえた。

 


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