リドジュエンド

 


リドウの携帯番号を呼び出すと、ジュードは通話ボタンを押して起き上がった。
何度かコール音の後、どうしたのジュードちゃん、と相変わらず気だるげな声がジュードの耳に届いた。
「今、大丈夫?」
『いいぜ?ジュードちゃんの御用とあれば何を置いても最優先事項さ』
いつもの調子のリドウにくすりと笑ってあのね、とジュードは告げる。
「僕、リドウさんの事好きみたいなんだよね」
『……は?』
「リドウさんは僕の事からかって遊んでるだけだってわかってるけど、好きになっちゃったんだから責任とってよね」
『……』
リドウは長い沈黙の後、本気で言ってんの、と聞いてきた。
「本気だよ」
ジュードはリドウから貰ったキーホルダーをポケットの中で弄りながらあーあ、と溜息を吐く。
「なんでリドウさんの事好きになっちゃったんだろ。馬鹿だよね、僕」
『……ジュードちゃん、今どこ』
「え?部屋だけど?」
『今すぐ迎えに行くから、マンションの前で待ってな』
ぷつっと途切れる音がして通話が一方的に打ち切られる。前にもこんな事があったな、と思いながらジュードは携帯電話と財布をポケットに押し込んで部屋を出た。
取り敢えず、ルドガーとユリウスさんには明日謝ろう。僕が好きなのは、リドウさんだからって。
そう思いながらマンションの前で暫く待っていると、暗い中でも目立つ赤い車がジュードの前に止まり、ジュードはそれに乗り込んだ。
「今までつれなかったのにどういう心境の変化なわけ」
「変化っていうか、ずっと考えてた事だよ」
「ふうん……」
それっきりリドウは黙ってしまい、ジュードもまた黙った。
ルドガーに告白されて、嫌じゃなかった。戸惑ったけれど、好意を持たれているという嬉しさもあった。
でも。ジュードはリドウの横顔をちらりと見る。
ルドガーとは、リドウとしたような事をしたいとは思わなかった。
なのにリドウとならば、もう一度してみたいとさえ思っている自分がいる。
恥ずかしいけれど、リドウに触れるのは気持ちが良かった。
マンションに着くと、ジュードはリドウの後に続いて彼の部屋へと入った。
「わっ」
靴を脱ぐなり腕を引っ張られ、足早に部屋を突っ切る。
「リドウさん?」
寝室に連れ込まれ、半ば突き飛ばす様にベッドの上に押し倒されたジュードは伸し掛かってくる男を見上げた。
「責任、取ってやるよ」
「え?」
きょとんとして見上げると、ジュードちゃんが言った事だろ、とリドウが呆れたように見下ろしてきた。
そういえばそんな事を言ったような気もする。
「思い出したかな?」
「ええと……はい」
「オーケィ。俺に責任を取らせるんだから、そっちも覚悟してもらうぜ?ジュード」
「!」
初めてちゃん付けされなかった。まるで対等だと認めてもらったようで、ジュードは嬉しくなってふにゃんと笑った。
「うん!」
「……」
その笑顔を凝視していたリドウは視線を逸らし、やばいねこりゃ、と唇の端を歪めて笑う。
そんなリドウの肩から長い髪が流れ落ち、ジュードの頬を擽る。ジュードはその髪を手に取るとそっと口付けてリドウを見上げた。
「責任、とってね」
「……それって誘ってる?」
「え!そ、そんなつもりじゃないんだけど……」
でも、とジュードは恥ずかしそうに視線を横に逸らすとそれでもいいよ、と告げる。
「しても、いいよ……」
顔を赤らめてそう言うジュードを見下ろしていたリドウは、天然って怖いねえと呟いた。

 


「ん……あ、ぁんっ……」
リドウの長い指がジュードの内壁を擦り、その舌が胸の突起を舐っていた。
ゆっくりと時間をかけて解されたそこは指だけじゃもう物足りなくなっていて、もっと強い刺激を求めてひくついている。
「リ、ドウさ……も、挿れて、いい、から……」
しかしリドウはだーめ、と低く笑って先に進もうとしない。
「ちゃんと慣らしておかないと痛いのはジュードだぜ」
胸の突起に歯を立てられ、ジュードはぴくんと体を震わせる。
リドウの指はジュードの感じる所を擦っていて気持ちが良い。それでもこの体はそれ以上の快感を知っている。満たされる事の充足感を知っている。
もどかしくてじれったくて。ジュードはお願い、と涙で潤んだ瞳でリドウを見た。
「リドウさんの、挿れて……?」
艶やかさと愛らしさを兼ね備えたそのおねだりにリドウは思わず喉を鳴らす。そして自らの唇をちろりと舐めると、身を起こして指を引き抜いた。
「あ……」
リドウがスラックスの前を寛げ、その中から取り出したものをジュードは物欲しそうに見つめる。
「そんな顔しなくても、すぐにあげるから」
くつりと笑ってリドウはジュードの脚を抱え上げると、硬く勃ち上がったそれをひくつくそこへと押し付けた。
「んっ……あ、あっ……!」
ゆっくりと押し入ってくるその熱を、ジュードはぞくぞくと背筋を震わせながら受け入れる。
強い圧迫感に、けれどそれすら快感なのだと体は認識して奥へと飲み込んでいく。
「……ジュード」
根元まで埋め込み、その強い快感に耐えながらリドウが気遣う様にその名を呼んだ
「だい、じょうぶ……動いて、良いよ」
そう言ってジュードはくすりと笑う。
「余裕じゃないの」
「そういうわけじゃないけど、リドウさんって見た目に寄らず優しいよね」
リドウは笑みを零すジュードの額を指先で弾き、見た目に寄らずってのは余計、と唇を尖らせた。
「でも、誰にでも優しくしてるわけじゃ無いんだぜ?」
そこの所わかってる?と問われ、わかってるよ、とジュードは腕を伸ばしてリドウの体を引き寄せて抱く。
「僕にだけ、優しくして?」
頬をすり寄せると、埋め込まれた熱がぴくりと反応を示した。徐にそれがぎりぎりまで引き抜かれ、再び奥を抉られる。
「ひ、あっ」
突然始まった律動に、ジュードは思わずそれをきゅうっと締め付けてしまった。リドウが短く呻いて耐える。
「……ジュード、不意打ちなんて卑怯だろ」
「リ、リドウさ、んっ、が、動く、からぁ、あっ、あっ」
ぬぷぬぷと卑猥な音がして全身を強い快感がびりびりと走り抜けていく。
リドウの熱はジュードの感じる所を的確に抉り、そのたびにジュードは甲高い声を上げた。
「……っ……」
さっきまで余裕ぶっていたリドウの表情が快感に歪み、息を乱してジュードの奥を抉り続ける。
リドウさんも気持ちいいんだ。嬉しさがジュードの中に溢れる。
「あっ、あっ、んっ、ふ、んんっ、んっ」
口付けられ、息苦しくてもジュードは懸命に応えた。体温の低いリドウのその舌が口内を犯していくのを受け入れる。
「ん、んっ、ふ、あ、あっ、リドウさ、リド、あっ、ああっ」
「んっ……!」
ジュードが己の腹の上に熱を吐き出すと、強く締め付けるその内壁に持って行かれるようにしてリドウもまたジュードの中で果てた。

 


後始末を終えた後、ベッドで二人でじゃれ合う。
くすくすと笑いながら髪を弄ってみたり、触れるだけの口づけを繰り返してみたり。
リドウはジュードを自分の体の上に乗せると、抱きしめて頬を寄せた。
「重くない?」
「軽い軽い」
「リドウさんて」
「ストップ。そのリドウさんての、止めてほしいな」
ジュードはきょとんとしてリドウを見下ろす。
「じゃあ何て呼べばいいの?」
「わかるだろ?ジュード」
含みを持たせてその名を呼んだリドウに、ジュードはさっと頬を赤らめるとでも、とリドウの首筋に頬を寄せる。
「年上の人を呼び捨てるのは……」
「俺とジュードは恋人同士なんだから、良いんだよ」
恋人同士、の言葉にますます顔を赤くしてジュードはうう、と呻いた。
「ほら、呼んでみな」
「……リ、リドウ……」
ぼそぼそと呼ぶと、良い子だ、とリドウは笑ってジュードの尻をズボンの上から鷲掴んだ。
「ちょっ」
「で、さっきは何が聞きたかったのかな?」
「人のお尻揉みながら言うの止めてよ!」
「だってさぁ、丁度良い所にあるからつい。で?」
一向に揉むのを止めないリドウに、もう、とジュードは唇を尖らせて言う。
「なんで、その……最中に服を脱がないのかなって……」
思わぬ事を言われたという様にリドウの目が微かに見開かれ、尻を揉む手も止まった。
「なに、俺の裸見たいんだ?」
「そ、そういう事じゃ無くて……!」
慌てるジュードに、良いぜ、とリドウが笑う。
「ジュードが脱がせてよ」
「え!」
「言い出しっぺがやらないと。そう思うだろ?」
ほら、と促され、ジュードは身を起こすとリドウの腰を跨いで座り、そのシャツのボタンに手を掛けた。
ゆっくりとボタンを外し、そっとその合わせを開いたジュードは目を見張る。
リドウの白い肌には、いくつもの古い手術痕が残っていた。
「酷いもんだろ。あっちを治せばこっちに異常が見つかって、を繰り返した結果さ」
医者がバカだったんだよ、とリドウは嘲るように笑う。
「ディラック先生と出会ってなかったら、今頃死んでたかもな」
「……この痕を見せたくなくて、脱がなかったの?」
「見てて気持ちの良いものじゃないだろ」
しかしジュードはそんな事ないよ、と優しく言うと身を屈め、胸の中心部を縦断している一番大きな傷痕に唇を落とした。
「リドウが生きる為に足掻いた証だもの」
ね?と微笑めば、それを驚いた様に見ていたリドウはふっと笑った。どこか泣き出しそうな笑みに、ジュードはその手を取って頬にあてる。
「僕に、もっとリドウを見せて」
微笑むジュードに、リドウはオーケィと笑いながらジュードに腕を伸ばした。
「望むだけ、見せてやるよ」
引き寄せられるがままにジュードはリドウに顔を寄せ、その唇に優しく口付けた。

 

 


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