我が道を行く!!





え〜、こちら現場のアカシア龍騎士団四天王カーシュです。小僧、俺様、パレポリ犬一行は現在、船を降り立ち死炎山前で屯っております。とても小僧の見てくれが暑くらしいでっす。以上、現場でしたァ〜。スタジオ返しま〜す。

…いや、ちょっと遊んでみただけだって。

本当ならクソ暑い死炎山をさっさと駆け抜けて古龍の砦まで行く所だけどよ、時間も遅い事だし一日中歩きっぱなしだったし死炎山内は暑い事だしあ〜…まあ、とにかくそういう事で、死炎山入り口付近で野宿する事になったワケよ。

「今日はこの辺で寝ようか」
樹の脇に荷物を置きながらデカネコ姿のセルジュがパレポリ犬に話しかける。
「ええ、そうですね」
スカして答えるパレポリ犬。
何でこいつに話を振るんだよ。俺に聞けっつーの、俺に。
「じゃあ、イシトは荷物見ててね。で、カーシュは一緒に薪拾いに行こう?」
くるりとこちらを見るセルジュ。これが本当の姿だったらきっとあの大きな目をきゅるっとさせて小首を傾げながら…といった感じになるのだろう。…が、生憎今のセルジュはこのデカネコいや、ヤマネコか。まあいいじゃねえかそんな事。ま、とにかくそんな姿で、当然俺よりデカイわ声はダンディー&ハスキーヴォイスだわで可愛いげ全くナッシング。
「カーシュ?」
セルジュがいぶかしげに俺様を見つめる。ああ、これが元の姿だったらすぐにでも押し倒してあの小さな唇の中に舌を捻じ込んでその柔らかい肌に痕を…

チャキ。

さりげに響いた音に俺はハッとする。パレポリ犬が銃弾を装填したのだ。
「あれ?イシト、銃なんて出してどうしたの?敵?」
「いえ、ちょっと銃の点検をしただけですよ」
にこりとセルジュに笑いかけ、ちらりと俺を見るパレポリ犬。
危ねえ危ねえ。さっきの妄想がつい顔に出ていたらしい。
「そう?じゃ、行ってくるね」
「ええ、行ってらっしゃい。お気を付けて…身近なものには特に、ね」
「?うん」
含みを持った言い方に俺はぎくりとしながらも、微かな下心を胸に抱きながらセルジュと共に森の中へと向かった。


「え〜っと、これくらいでいいよね」
セルジュが小枝を抱えて俺を振り返る。
…突然だが、俺は未だ馴れないものがある。それはこの口調と声のギャップだ。
だってよ、考えても見ろよ。あのヤマネコの姿で、あのひっくい声で
「カーシュ?どうしたの?」
ホラ、セルジュと分かっていても声だけ聞くとおっそろしー!!
何?セルジュが傷つくって?わかってらあ!んな事!!
だけどよ、こりゃあ喩えるなら蛇骨大佐がピンクハウス着て
「今日は蛇骨大剣のお手入れをしたのん」
って言うくらいおっそろしいんだぞ?!

……………ピンクハウス……………

うげ!!吐きそう!!!
大佐!申し訳ありません!!!もう二度とこんな環境破壊な事考えません!!!
「………シュ……カーシュってば!」
「え?」
俺ははっとして暴走した思考を飛ばすと、セルジュが「もう、どうしたのさ」と顔を顰める。
ん?
その微かな表情の変化に、素晴らしい俺様はある事に気付いた。
「お前、笑わなくなったな」
「へ?」
セルジュはその切れ長の目を少しだけ丸くすると、「笑ってるよ」と答えてきた。

いいや、笑ってねえ。
確かにデカネコの姿じゃあ表情はあまり変わんねえけどよ、怒った笑ったの表情変化を見抜けないほど俺は抜けちゃあいねえ。

「…………だって笑うと僕、怖いんだもん」

あん?いいじゃねえか、その顔は元々怖ぇんだからよ、これ以上怖くなんねえよ。

「でも……」

ホラ、笑ってみろって。まあ、俺だってデカネコの笑顔なんざ見たくもねえけどよ、今こうやって「ここにいる」のはお前だろう。だから笑っていいんだぜ。
身体が他人(他猫?)に囚われてても心まで囚われちゃいけねぇぞ。
おお、今俺様ってば素晴らしい事言ってんじゃねえか!
ホラ見ろ、セルジュも俺様に惚れ直してるぜ。

「…本当に後悔しない…?」

しつけえな。大丈夫だって。

「……じゃあ……」

……………………………………。





「ああ、お帰りなさい、セルジュ……カーシュはどうかしたのですか?」
「……あのね、ちょっと何処かイッちゃった……」
セルジュの後ろからフラフラと着いて来るカーシュの瞳は焦点が合っておらず、どこか遠いところを見ている。
「???」
イシトは眉を顰めたが、とりあえず今のうちにセルジュと交流を持っておこうとカーシュを無視して夕飯の準備を始める。
姿がゴツイからと言っても中身はあの向日葵のような、超を何回書いても足りないくらい超可愛いセルジュなのだ。
この少年が元の肉体に戻った時、手に入れるのは自分だとほくそ笑みながらイシトは保存食と道中採集した果実を取り出す。
「ああ、そのナイフを取ってください」
「うん、はい」
呆然と座り込んでいる生気の抜けたカーシュを余所に、二人は微笑ましく真っ赤な果実を剥き始めたのだった。




酷い目にあったぜ。いや、自業自得っちゃあそうなんだけどよ。
だってよ、どうせチェシャネコ程度だと思ってたんだよ。
まさかあんな………
いや、思い出すだけで恐ろしい。もうこの事は忘れよう。
とにかく、気がつけば既に日は沈んでてよ、明かりは微かに燻っている焚き火だけと来たもんだ。まあ後は寝るだけなんだから飯は朝纏めて食うとして……

小僧何処行ったんだ?

寝ている(多分タヌキ寝入りしてるんだろうが)のはパレポリ犬だけで、あのでっかいニャー様の姿は無い。
トイレか?

………………

結構時間経ったよな。トイレじゃねえのか?
よっこらしょっと。仕方ねえな、俺様がちょっくら探しに行ってやるか。


……って適当に森ん中入ったけどよ、何処に居るんだ?あの小僧。ただでさえ今は真っ黒な格好してるんだからよくわかんねえ…。
…おい、海辺まで来ちまったよ。引き返すか?

「…カーシュ…?」

お!!居た!!こりゃあ愛の力の成せる技だな。

「どうしたの?」

どうしたじゃねえだろ!!お前を探しに来たんだろうが!!

「あ、そうか、ごめんね」

う、え、あ、ああ、いや、あんま心配かけんなよ?
明日はあの砦ん中突っ走るんだからよ。

「うん…あのね、カーシュ、僕の身体が取り戻せたら……」

うん?

「ううん……なんでも無いよ」

……おい小僧、お前が元の身体に戻った時はお前を抱きしめていいか?
むしろキスしていいか?
……そんな目ぇでっけかくしてんじゃねえよ。俺だってずっと思ってきたんだぜ?

「……ありがとう、カーシュ」

ん〜っ!!!これがセルジュの身体だったらすっげー可愛いだろうな!!
……………………ええい!デカネコだろうが知るか!!

「カーシュ…」

ま、さすがの俺様でもヤマネコにキスかます事は出来ねえがよ、頭撫でてやる事ぐらいは出来るってぇの。

「……ありがとう……」

お、ちょっとだけ笑ったな。これくらいなら普通だな。
さ、もう寝るぞ。




ざかざかと死炎山を突っ切り、いつから待っていたのか、何気に目の下にクマが出来ている小僧の姿をしたヤマネコもぷちっと追っ払い、俺達は最上階まで来ていた。
小僧は今、この扉の奥に居る。

独りで、自分を取り戻しに行ってんだ。

俺には、待つ事しかできねえ……。
パレポリ犬も落ち着いているように見えるが視線が泳いでやがる。


カシャァン…!!


「なんだ?!」
扉の奥から聞えてきた、何かが割れるような音にパレポリ犬が真っ先に反応する。
さすが犬。
ってそれ所じゃねえ!!あの巫女の姉ちゃんは「大丈夫ですよ…ふふ…」とか言ってやがったけどよ、心配に違いはねえっつーの!!
「っらあ!!」

ガゴオン!!

取り敢えず、蹴破る。一発で決まった俺様って素晴らしい脚力の持ちヌシ。
「大丈夫かこぞ……!?」

部屋の中心には、水溜まり(何でこんな所に水があるんだ?)の中で膝をついている小僧がいた。
その肉体は元の少年のもので、何より……

「あ……カーシュ……」

俺はつかつかと小僧に近寄るとその呆けている唇に口付けた。
小僧はまだ身体が上手く馴染まないのかロクな抵抗しやしねえ。

「んん…!!」

素っ裸で居るお前が悪い!!誘ってるとしか思えねえ!!!
そのまま押し倒してずっと触れたかったその肌に指を滑らす。

ヂャキッ、ゴツ。

聞き覚えのある音がしたと思ったら後頭部になんか硬いモン当てられて俺は固まる。
そおっと振り返れば予想通り、スッゲー目つきして銃を俺に向けているパレポリ犬。
「セルジュから離れなさい」
うわ〜お!パレポリ犬、ご立腹??
パレポリ犬は小僧ににこりと笑って
「セルジュ、君の服です。私達は外に居ますので着替えれたら出てきて下さいね」
そう言って俺をずるずる引っ張っていく。
ああ、小僧のお着替えシーーーン!!!!





「……るんです!全く…あなたという人は理性という物が無いのですか?!」
あ〜あ、うざってえなあ〜さっきからパレポリ犬がキャンキャンキャンキャン吠えやがるからセルジュの感触忘れちまったじゃねえか!!
「おい、お前、聞いていているのか?!」
聞いてねえよ、馬鹿かてめぇ、犬語なんざ理解できんっつーの。
「………まあ、いい。次があったその時は即、発砲させてもらう」
ハイハイ、勝手に言ってろ。

ギイ………

お!!小僧!!!
「セルジュ!!」
やっと着替え終わったのか?全くとろとろしてんな、お前。

「セルジュ…」

うお?!と、突然出てくるなよ、この巫女!!寿命縮んたら責任取れ!!
お?龍の涙、割れちまったのか。勿体ねえ気もするけどよ、セルジュが元に戻るためにそれが必要なら仕方ねえな。
さ、帰ろうぜ。




「うわ……雨、降ってる……」
セルジュが空を覆っている雨雲と、バカみてえに落下してくる雨を見上げて呟く。
「死炎山まで走りましょうか…」
「うん。あ、二人とも、僕多分走るの遅いと思うから先行ってていいよ」

なんだぁ?まだ身体、馴染んでねえのか?

「う〜ん…まだ、何と無くギシギシするんだよね。だから上手く走れるか自信が無いんだ」

仕方ねえな…いよっと。

「うわ!?」
セルジュを抱きかかえると俺は何か言いたげなパレポリ犬を振り返る。

行くぞ。

「……ああ」
「…………なんでお姫様抱っこするんだよ…」

ああ?お前はコレだろ、やっぱ。

「何だよそれ!!」
ハイハイハーイ、ごちゃごちゃ言ってねえで、ちゃきちゃき行くぞ!!

………………………

死炎山の入り口に辿り着くと、中から流れてくる熱気と雨の湿気ですっげえ気色悪りィ。
っかー、やっぱこれくらいは濡れるわな。よっと、ほらよ、小僧。お前はそれ程濡れてねえよな?この俺様が濡れない様にしっかりと抱きかかえてやったからな。

「カーシュ…あ、あのね…」

??なに照れてんだ?おま………

ちゅ。

「あ!!」
パレポリ犬が顔を引き攣らせる。が、そんなことどうだっていい。
俺はセルジュにキスされた頬を押さえながらぽかんとしてセルジュを見つめる。

「………お礼」

セルジュが顔を赤くして俯く。
俺の事を想っているから、こんな風にきゅっと恥ずかしそうに目を閉じる仕種をして、目元をピンクに染めるのだと思うと押し倒したくなる反面、

ま、今はこれでもいいか。

そんな気分になる。
俺は美味いモンは後で食うタイプだからな。
天下無敵号に戻ったら、食ってやる。
嫌だって言っても聞いてやらねえ。
覚悟してろよ。
なあ?小僧。







(END)

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俺はどうやらカーシュを唯我独尊的バカと思っている節があるようです…。少し前までなんだか暗い話ばかり書いていたのでどうやらその反動で最近書く話は大概明るいかギャクってマス。でも一度暗い話を書くとまたどんどん他の話しも暗くなっていくんだろうな…なんか周期があるんだよね〜。明るいネタが浮かぶ日と暗いネタが浮かぶ日って感じにさ。コントロールできないのかね、俺…。
それでは、お待たせした上にこんなワケのわからないカーセルですが、ES様に捧げます。666(何だか妖しい数字だ…)HIT、有り難うございましたvV
(2000/06/04/高槻桂)

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