歪曲した月
カッツェ達がノースウインドウの城を手に入れて、早くも三週間が経った。未だ皆が改装、掃除で明け暮れる中、カッツェは一人地下にある墓場に居た。
墓場だけは、やはり誰も近付こうとしないらしく人気はない。
ゾンビ達は全て火葬され、ネクロードによって掘り起こされた墓場はビクトールによって粗方整えられてはいるものの、強い死臭を漂わせている。
カッツェはこの街の出身者であるビクトール以外の者には告げぬまま、一人でそこを片付け、整備していた。
言えば、きっと自分はやらせてもらえない。
自分はこの軍の、この城の主となってしまったから。
(死者の弔いくらいは、僕にやらせてよ)
それが、この城を戦の拠点とする事への彼なりの謝罪であった。
「…ふう…」
一通り掃除し終わり、倉庫で道具を片付けていると、バタン、とドアが突然閉まった。
「え?」
更に薄暗くなってしまった小屋のドアを振り返り、カッツェはぎくりとする。
誰か、いる。
気配は全く感じられ無いが確かにドアの前に立ち塞がる影があるのだ。
ざわりと全身が総毛立つのを感じる。
自分はこの感覚を知っていた。
「お久し振りですね…カッツェ君…でしたね?」
「ネクロード!!」
闇色のマントに包まれた男はにやりと笑う。
「覚えていて下さったのですね。光栄です」
カッツェは咄嗟にトンファーを構えようとしてはっとする。城内だからと、トンファーは自室に置いて来てしまったのだ。
(しまった!!)
「今日は掛かって来ないのですか?」
武器が無いと分かっていてわざわざ言ってくるネクロードにカッツェは舌打ちする。
「く……何をしに来た!!」
ネクロードはいやな笑みを浮かべたままゆっくりと近付いてくるが、カッツェが下がろうとしても、機具が邪魔して動けない。
「ある物を探していましてね…ここの死体達が持ってはいないかと思ったのですが…」
「近寄るな!!」
カッツェが睨みを効かせて牽制する。だが、まだ幼い少年の眼差しでは殆どその効果を現わさなかった。
「来てみればあなたが居るじゃありませんか」
カッツェに密着しそうなほど近付いた時、かつん、とネクロードが足を止める。
「わっ!?」
とん、とネクロードに肩を押され、バランスを崩したカッツェは背後のバケツやらスコップやらの中へ倒れ込む。そこにネクロードは圧し掛かり、カッツェを押え込んだ。
「私は美しい女性も好きですが、あなたのような愛らしい少年も好きなのですよ」
そう言い、ネクロードはカッツェの服を丁寧に脱がしていく。カッツェが近くに転がっている物で攻撃しようと手を伸ばすとその手を掴まれてしまった。
「あ!」
「おやおや、おいたはいけませんよ…」
空気に晒しされた上半身に手を掴んでいない方の手を滑らせ、その冷たさにびくりと揺れたカッツェにネクロードは笑う。
「この手はこうしてしまいましょう」
ネクロードの目が赤く光ったかと思うと隅にあった縄が浮き、まるで生き物の様にカッツェの両腕を絡め取る。
「放し…っ」
ネクロードは再び白い肌に手を滑らすと感嘆の笑みを浮かべる。
「素晴らしい…ここまで上質な少年は久しぶりですよ…」
「や、だっ…」
カッツェの白い肌をネクロードの青白く筋張った手が蠢き、その突起に辿り着くとそれを軽く摘まむ。
「や…」
カッツェがぴくりと反応する。
摘ままれ、擦られていく内にその突起はぷつりと立ち上っていった。
カッツェは悔しそうにネクロードを睨み付ける。だが、その視線さえもネクロードを煽るだけで、カッツェは悔しそうに下唇を噛む。
「っ…んん……」
ネクロードはその突起を赤黒い舌先でちろちろと舐め、身を捩って逃れようとするカッツェの反応を楽しむ。
下肢に手を伸ばし、そのスパッツを一気に下げるとその性器を握り込んだ。
「やめ、ろっ…ぅ…ぁ」
性器をなぞる乾いた肌が敏感なそこに刺激を与えていく。カッツェは目をきつく閉じて首を左右に振った。
「やめろと言われましても私には止めるつもりはないのでね…」
喉で低く笑うと舐っていた胸の突起から離れ、今度はその勃ち上がりかかっているカッツェの性器を口内へと迎え入れるとカッツェが小さく悲鳴を上げる。
ぺちゃ、と唾液が性器に絡む音がシンとした倉庫の中に響く。カッツェは赤面して聞かない様に意識するが、まるでそこだけ切り取ったかのように性器を舌で弄られる音は鮮明に聞え、そこを中心として甘い痺れがカッツェの全身を駆け巡っていく。
「あっ……はぁ……ぁん……」
「意外と淫乱なのですね…ほら、もうこんなに固くなって…」
舌先で先端の窪みを突付き、にやりと笑う。
「ちが…っ」
「気付いていないのですか?自ら腰を突き出しているくせに…」
「ひぁっ!やだっ……」
カッツェはその咥えられ、欲望のままに勃ち上がった性器にカリ、と牙の先で引っかかれて仰け反る。
「おや……君は男を咥え込むのは始めてじゃないでしょう?」
「な、んで…」
カッツェが涙の滲んできた瞳でネクロードを見るとネクロードは人差し指を後方へ滑らせ、その蕾に指を突き入れる。
「ひいっ」
カッツェが悲鳴を上げ、背をぐっと撓らせる。
「ココが「早く挿れて欲しい」とヒクついてますよ」
「ひぁぅっや、やめっ……ぃやあ…」
性器を咥えられ、後部をぐちぐちと刺激されたカッツェはまるで陸へ打ち上げられた魚の様にびくびくと痙攣する。
「ですが…締まりは悪くないようですね…」
ネクロードの舌は性器に絡められ吸い上げられる。指は指でゆっくりと抜き差しし、性感帯を探る。
「は、あん……ぅん……ああっ、んっ…」
体内に沈められた指がある一点を擦ると、カッツェが一層激しく跳ねる。ネクロードがそこを執拗に指の腹で擦ると、カッツェはあっさりとネクロードの口内に熱を放った。
「っはぁ……」
こくりとその精液を飲み下す音が聞え、カッツェは羞恥に苛まれる。
ネクロードはゆっくりと起き上がると、見せ付けるようにカッツェの精液に濡れた唇を舐める。そのまま震えるカッツェの頬をべろりと舐め、首筋へと伝わせていく。
「ぃやっ!」
カッツェは顔を背けるが、結果その首筋を晒す事となり、ネクロードを喜ばせる。
「この白い肌に似合うのはやはり血の色でしょうね…」
「や、やだ…」
ネクロードの舌が首筋まで辿り着くと、血管の透けて見えるそこを丹念に舐める。
「やだっ、止めて!」
ネクロードが何をしようとしているのかに気付いたカッツェは首を竦めようとするが、ネクロードが手でカッツェの顔を押さえつけていて動けない。
「あなたの血はさぞかし美味なのでしょうね…」
「いやあ!!」
抵抗しようにも腕に絡まる縄はそれを許さず、足で蹴ろうにもネクロードは脚の間に身を挟ませている為にそれもままならない。
くつくつと笑い、ネクロードはその白い肌に己の牙を立てる。
「ひっ…あっ…?」
ぷつりと牙の先を突つくように軽く噛まれると、ぞくりと背筋がしびれた。ネクロードは薄く血の滲んできたそこを舐め取る。
「少し噛まれただけなのに、感じたのでしょう?」
「ちがっ…!!」
「隠さなくてもいいのですよ?私は食事中に騒がれるのは嫌いでしてね……長年生きているといろいろと小細工が出来るようになってくるのですよ……」
ほら、とネクロードは再び同じ所に牙を立てる。
「あっ、はあぁ…ん……」
牙の先端を差し込まれるだけで先程と同じ様にぞくぞくとした感覚が全身を駆け巡り、セックスをしている時の様に下肢が痺れてくる。
「ほら、ココは素直ですよ?」
つぷりと牙を抜かれ、白濁してきた意識の中、再び熱を帯び始めた性器を撫で上げられてカッツェは声を上げる。
「ひゃあっ…いやあ……」
「貴方も快楽の内に飲まれるといい……最高の快楽と言うモノを教えてあげましょう……」
そして再度牙を立てられ、カッツェは成す術も無く、恐怖から涙の溢れる目をぎゅっと閉じた。
ごとん。
「え…」
首筋にあたっていた感触が床に落ち、腕を戒めていた縄がふっとその力を無くす。カッツェは恐る恐る瞼を開け、目に飛び込んできた光景に喉を引き攣らせた声を上げた。
転がったのは表情をにやつかせたままのネクロードの首だった。そして頭部を失った、血の通わない肉体は力を無くしてカッツェの上にどさりと倒れ落ちる。
「ぃ…ぃやあああああ!!!」
カッツェは錯乱してたのかと思うほどの声を張り上げ、それから逃れようとする。
「落ち着け、カッツェ!」
低い男の声がしてネクロードの肉体を取り払われる。カッツェはその人物の姿を認めるとその名を呼んでしがみ付いた。
「ビクトールさん!ビクトールさんビクトールさん!!!!」
逞しい胸板に顔を埋め、カッツェは泣きじゃくる。ビクトールはその細い体を抱きしめ、今さっき切り捨てたネクロードの死体を見る。
(やっぱ影かよ……)
ぼぞりと崩れ落ち、砂になって最後には消えてしまったそこを睨み付けると、ビクトールはわんわん泣いているカッツェの背をぽんぽんとあやすように叩いてやる。
「ぇえええーーん!!」
「あ〜よしよし、ホラ、泣き止めって」
「…っう……ぅっく……」
しゃくりあげているカッツェを離すと、散乱している彼の服を掻き集めて着せてやる。
「お前の姿が見当たらねえから探してたらよ、あの糞ヤロウの気配がするとか星辰剣が抜かしたもんで来てみたらお前を襲ってるじゃねえか。問答無用で切り捨てたんだが…悪かったな、こんな所の整備、お前に任せちまって」
黄色のスカーフを巻いてやるとカッツェはふるふると首を振った。
「ビクトールさんは悪くないよ…武器も持たずに一人になった僕が悪いんだ……」
まだ震えて上手く出ない声でぼそぼそと言うカッツェの額に、いつの間にか外れてしまっていたサークレットを嵌めてやる。
「よし。じゃ、水浴びでも行ってくっか?」
項垂れているカッツェの肩をぽんと叩いてビクトールは立ち上った。
「……ビクトールさんも一緒に?」
ぼそりと囁かれた言葉にビクトールは小さく吹き出す。
「ああ、行ってやるからそんな泣きそうな顔すんなって」
「だって……」
再び泣き声になったカッツェの頭を柔らかく撫でてやりその身体を抱きかかえる。
「あの糞ヤロウに触わられた所、キレイにしてやるからな」
悪戯っぽくにっと笑ったビクトールの意図を察したカッツェは仄かに紅くなるとその太い首に縄の跡の残る腕を回して囁いた。
「全部キレイにしてね」
(了)
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ネクロ主。ああ、引かないで!!ここまで読んだんなら最後まで付き合って〜!(>_<)これもアルバート主と同じくあみだで生き残ってしまった方です。ホンマなんでこんな異色物ばっか生き残るん?!って気分ですが、まあ神に選ばれてしまったなら仕方ないさ………吸血鬼の癖に神に選ばれるとはけしからん!!(本音)で、話的にいつもの如くオチが無かったので急遽ビク主をベースに加えて書き直しました。ま、この終わり方もかなり強引ですが(汗)これ、おまけ有ります。その後が…もちビク主エロです。マジ、ヤってるだけなんであんま見ない方が幸せかと…(死)さて、何処にあるのでしょうね…(バレバレだっつーの)
(2000/07/03/高槻桂)
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