闇ハ優シク僕ノタメニ
ジョツカ軍がハイランド軍に勝利し、ミジョツカ国を打ち建てたその夜、城内では未だに宴でにぎわっていた。
そんな中、テラスには二つの影があった。
夜闇を背後に背負った黒騎士と、この戦を勝利に導いた幼き軍主だった。
「もう行っちゃうんだ」
カッツェは男に問い掛けるが、男は答えない。
「また、会える?」
男は答えない。
「僕の事、ずっと覚えていてくれる?」
やっと男は「わからん」と答えを返してきた。カッツェは首を軽く傾げると、
「…僕、ずっと忘れないから」
と少し笑った。
「ペシュメルガが僕の事忘れても、ずっと覚えてるから…」
いつもの明るい笑顔ではなく、憂いを帯びた、大人びた笑顔。
カッツェは男に近寄ると「ねえ、キスして」と抱き着く。
そっと、触れるだけのキス。
「……さようなら……」
僅かに離れた唇から別れの言葉が漏れる。その表情は泣きたいのを抑え、無理に笑おうとしていた。
ペシュメルガはカッツェの耳元に唇を寄せると、そっと囁いた。
――「……………………」
カッツェの瞳が大きく見開かれる。
ペシュメルガはとん、と地を蹴ってテラスから外へ出た。普通なら落下する所だが、彼の体はその場に浮き、そのまま闇に包まれて消えていった。
残るのは、闇と、静寂と…
「…っ…ペシュメルガ…!!」
囁かれた言葉。
目の前が見る間にぼやけてぱたぱたと涙が溢れ出す。ぺたりと座り込むとカッツェは自分の顔を手で覆う。その指の間からも涙は溢れ、止まらなかった。
もう、何処に居るのかわからない、愛しい人に告げる。
「ずっと…ずっと忘れないからっ……!!」
「絶対に……!!」
(終)
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終った終った!!「恋歌2」が進まなくて気晴らしに書いたペシュ主!!短編だよ!やったあ!
「恋歌」みたいに延々と続いてないわよ!!(死)
2000/06/08/高槻桂