優しいウソ





(…っか〜調子に乗り過ぎたな…)
大半の者が眠りに就いている真夜中。ファルガは酔いを覚ますために甲板へと脚を運んでいた。

セルジュの肉体が戻ったという事で宴会になってしまい、ほぼ半日騒ぎ続けた結果、ようやく他の仲間達が酔い潰れたり疲れたりして静かになったのはつい先程の事だ。
風にでもあたるかと、小さな電球一つが灯るだけの中を躊躇なく船首に向かって足を進めた。
「ん?」
船首には、どうやら先客がいたらしい。
暗闇の中、相手はファルガの足音に気付きこちらを見ているようだった。
「…誰…?」
遠慮気に問い掛けてくるその声は、先程の宴会の主役だった。
「何だ、セー公か」
月は雲によって覆われ、少年のすぐ隣に立ってやっと、相手の表情が何とかわかるほど辺りは暗かった。
「ファルガ…」
セルジュはやってきた相手がファルガだと認識して僅かにほっとしたようだった。
「どうした?こんな真夜中に」
「うん……考え事……」
「長い事潮風にあたっているとべたべたになるぞ」
風呂入ったばかりなんだろ?とセルジュの頭にぽん、と手を置かれる。
そんなファルガに
「父さんって、こんな感じなのかな」
と、くすりと笑みを零す。
セルジュが微笑む反面、ファルガはふと真顔に返る。
「…俺には勿体無いな」
懐から葉巻を取り出し火をつける。その小さな炎に照られたファルガの表情が暗く感じたのは、この闇だけの所為ではないとセルジュは知っていた。


俺は家族を捨てた男だ。


煙を夜空に吐き出す男の姿は、まるでそう言っているようだった。
「ファルガ…」
なんて言っていいのかわからない。
「えと、あの……わっ!?」
何か声を掛けようと言葉を探していると、ぐいっと強い力で引き寄せられた。
「ファルガ?」
ファルガは咥えていた葉巻を投げ捨てる。葉巻は細く火の尾を引いて暗い海の中に消えていった。
「ねえ、どうしたの?」
「愛している」
「……うん」
幾度となく囁かれた言葉。
セルジュはそっとその逞しい背に腕を回す。
「家族を置き去りにした俺が言う権利はないとわかっている。だが……」
「ファルガ…そんなに力入れられると苦しいよ…」
ファルガは腕の中の少年の顎に手を添え、その唇を貪るように口付ける。
「……ふ…っ………ん……」
侵入してきた舌は熱く、葉巻の苦い味がセルジュの口内に広がり、舌を根元からなぞるように舐められた。
「…ん………ふぁ……」
舌先を合わせ、何度も絡めあう。セルジュは立っていられなくなり、かくりと膝が折れる。だが、ファルガはセルジュの体をしっかりと抱きとめていて離そうとしない。
「は……ぅん……」
唾液の交じり合う卑猥な音と、二人の息遣いだけが闇夜の中の、唯一の音だった。
「んん…………ぁ……は、ぁ……」
長い口付けから解放されたセルジュは微かに涙で潤んだ瞳でファルガを見上げる。
ファルガはその瞼に口付け、セルジュは擽ったそうにそれを受け入れた。
「…もう、大切なヤツを失うのはうんざりなんだ…」
辛そうに吐き出された想いを受け止めるように、セルジュは男の体をしっかりと抱きしめ、その首筋に顔を埋める。
「大丈夫……僕はずっとファルガの側にいるよ……」

そして再び口付けを交わす。

優しいキス
優しいウソ
お互い、違う次元に生きる自分達がこうして共に居られるのはこの旅の間だけだと知っていた。


それでも、信じたかった。

この、優しいウソが真実になる日が来る事を。


「僕はずっとここにいるよ……」






(了)

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警備員「ファルガ様を騙る輩発見!!直ちにひっ捕らえます!!」
高槻「許して下さい!資料が少なくてどうしてもこれ以上は…!!」
警備員「言い訳なぞ聞かん!!さっさと歩け!!」
高槻「ああーーーそんなーーー!!!」
(どこかへ連行されていってしまった)
レナ「…と、言うわけで高槻はひっ捕らえられちゃったみたいだから私が代わりに話すわね♪
高槻ね、何だか書きながら「俺は何をやっているんだ」ってぶつぶつ言っていたけれど…どうやら最近
えっちぃ事とか書くのが苦痛らしいのよね。ま、ただ単に面倒臭いからなんだろうけど。…それにしても、
ファルガさん、奥さんは人魚で、今度はセルジュに惚れるなんて…どうして楽な恋愛できないのかしらね?
セルジュ、この旅が終ったら…はっ!これってネタバレ?ま、いいわ。高槻の様子見に行ってこ〜よぉっと!」
かん様、こんなエセファルセル押し付けて申し訳ないです!!精進いたします!!
(2000/05/24/高槻桂)

 

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