夜と夢




ビクトールはいつもの様にフリックと共に酒場で酒を、言葉を躱して時を過ごしていた。
何時しかボトルを何本も空けており、とうとうフリックが潰れる寸前までになりギブアップした。

「悪い、俺はもう寝るぜ」

彼はそう言って酔っているわりにしっかりとした足取りで自室へと戻っていった。
一人取り残されたビクトールはレオナに酒の礼を述べて自分とレオナしかいない酒場を後にしたのだった。
「少し酔いを覚ましていくか…」
自室へ向かっていた脚の進路方向を変え、長い階段を上っていく。窓から差し込む月の光と夜の風が、アルコールの膜の張ったビクトールの思考をクリアにしていった。
最上階まで上がり、その扉の向うで安らかな寝息を立てているであろう城主を思いながら屋上への階段を上っていく。
「少し寒ぃな…」


「ビクトールさん?」


屋上へ出ると、幼さの残る声がビクトールを迎えた。ビクトールは月明かりに照らされているその人物を見て目を丸くする。
「お?…ジュンじゃねえか」
そこにいたのは、先程思い描いたこの城の主、ジュンだった。
「どうした?眠れねえのか?」
ビクトールがジュンに近寄ると、彼はクスッと笑って夜空を見上げる。


「……夢が、降ってこないかなって…」


「あ?」
「知ってる?夢はね、星から降ってくるんだよ」

だから、降ってくる所を見たくて小さな頃はよく遅くまで起きてたんだ。
でもそれがゲンカクじいちゃんにばれちゃって……
ゲンカクじいちゃんにね、夢は僕が眠るのを待ってるから、だから寝なさいって。

ジュンは懐かしそうにそう語り、ふわりと柔らかな笑みを浮かべて目を細める。
「夢を見ると、毎回ナナミと今日はこんな夢を見たんだって語り合って…」

目を閉じて睡魔に身を委ね、星の光を受け止めるとナナミの夢を見る。
目を閉じて睡魔に身を委ね、星の光を受け入れるとジョウイの夢を見る。

楽しかった小さな頃の思い出。

「でも、夢は夜が明けると消えていくんだ。星の光と共に…」

ジュンは自嘲気味にクスリと笑うと俯く。ビクトールはそんなジュンを引き寄せるとぎゅっとその細い体を抱きしめる。
「ビクトールさん……」
折れそうなその細くしなやかな体を抱き、ごつごつとした自分の右手を彼の髪に差し込んでゆったりと梳いてやる。
「…目を覚ますと、いつも想うんだ…」
気持ち良さそうに目を閉じながらジュンは言葉を紡ぐ。
「あの頃は、こんな未来が待っているなんて、思ってもみなかったって…」
「……後悔してんのか?」
ジュンの顎をくいっと指先で持ち上げ、その月明かりに照らされ桜色に光るその唇に自分の唇を重ねる。
「んっ……」
ビクトールの舌がぺちゃりとジュンの唇を舐め、ジュンの体はぴくりと震える。
「……びくとぉるさん…僕、後悔…してないよ…?」
ジュンはそう言いながらビクトールの厚い胸板に顔を埋める。

だが、言外にビクトールには少年の呼び声が聞える気がして止まなかった。


夢よ、帰ってきて……

星よ、届けて……

夜よ、早く訪れて……



優しい夢よ、帰ってきて下さい……





その呼び声が、少年の喜びの声なのか、悲しみの声なのか……

「ジュン……」


どうか、この少年に………

優しい、夢を……






(END)
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あああっ!!なんだか訳の分からない物を書いてしまったァ!元気出してもらおうと書いたのに何だか余計落ち込ませるような駄作送ってごめんね〜!!しかも中途半端なビク主だ……うう〜ん……(汗)
ジキルしゃん、こんな駄作で元気出せれないと思うけど、これからも頑張ってね!
(2000/09/02/高槻桂)

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