つきのひかりとて
「お前はまるで、月のようだ」 薄暗い中で不意に響いた声に、眠りかけていた僕は思わず目を見開いてしまった。 言われた事を頭の中で反芻してみる。 僕の気のせい?聞き間違い?寝ぼけてた? ううん、こんなにはっきりと耳に残ってるんだから…。 僕がそっと見上げると、すぐ目の前には海馬君の顔があった。 部屋の中は電気一つ点いていないけれど、薄いレースのカーテンの向こうから微かに差し込む光でその端正な顔が見て取れた。 「…何をしている」 「あ、ううん、つい」 思わずその額に手を当ててしまい、はっとしてシーツの中に手を引っ込める。 いや、だって、ねえ。 「なんていうか、ちょっと、びっくりしちゃって…」 「ふぅん?」 もの凄く広いベッドの真ん中で、海馬君はいつも僕を抱き枕にして眠る。 たまにちょっと苦しい時もあるんだけれど、海馬君の寝顔を見るとまあいいかって気になっちゃう。 だって、あの海馬君が、僕に寝顔を曝け出してるんだよ。 それって、とっても凄い…ううん、嬉しいことだよね。 だから今日も僕はキングサイズのベッドの真ん中で、まるでシングルサイズのベッドで眠るように海馬君とくっついて眠る。 髪を撫でてくれる手がとても気持ちよくて、今日は僕が先に寝ちゃうなあって思いながらうとうとしてた。 はずだったんだけど。 「だって、海馬君って凄く現実主義だから、そういうこと言わない人だと思ってて…えと…ごめん」 「何故そこで謝る」 「んっと…僕が、なんていうか、勝手に海馬君像を作り上げちゃってた、から?」 「そんなことでお前は謝るのか」 声に不機嫌さは無くてほっとする。 別にご機嫌取りをするつもりじゃなくて、ただやっぱり一緒にいる時は楽しく過ごしたいし。 僕がそう説明すると、海馬君はいつもみたいにふんって鼻で笑った。 「愛する者に睦言の一つや二つ囁けなくてどうする」 「むっ…」 思わず言葉を詰まらせた僕に、海馬君はくつくつと喉を鳴らして笑った。 「…月の光だが、月自体に発効能力は無くその光は太陽の光を反射したものであり、その満ち欠けは太陽光をどの位置で受けているかによって変わってくる」 「うん、学校で習ったよ」 「…貴様はいつか、俺に言った」 少しだけトーンの落ちたその声に、どきりとする。 それはいつものようなドキドキじゃなくて、心臓をぎゅっと掴まれたような、体が一瞬強張る、冷たいそれ。 「ヤツの存在があればこそ、自分は輝けるのだと」 「……」 視線を伏せ、海馬君のシャツを握り締める。 指先から伝わってくる温もりは変わらないはずなのに、一瞬にして感じ取ることが出来なくなってしまった。 体はこんなにぴったりとくっついているのに、途端に遠く感じてしまう。 「…ボクは……」 「…月が太陽によって姿を変化させるように、地球もまた、月の影響下にある」 「え?」 まるで話を変えるように続ける海馬君に、あれ、と僕はまたそっと海馬君を見上げた。 「潮の満ち干きは月の引力に寄るものだ」 「うん」 「貴様が月でヤツが太陽ならば、俺はこの惑星だ」 「海馬君が、地球?」 海馬君の低い声は耳に心地よくて、少しくすぐったい。そんな僕を知ってか、海馬君はそっと僕の耳元で囁いた。 「そう、月の動向一つに海の満ち干きを左右される、愚かな惑星だ」 「海馬君…」 僕はもそもそとシーツの中から手を伸ばし、海馬君をぎゅっと抱きしめた。 「遊戯?」 「海馬君は愚かなんかじゃないよ」 確かに、海馬君はこの星のようだと思う。 理不尽な痛みを受け、それでもその手は多くのものを生み出してきた。 多くの子供達に夢を与え、今この瞬間も与え続けている。 そして不安で心が壊れてしまいそうで、何処かへ行ってしまいそうになっていた僕を引きとめ続けてくれたのも彼だ。 何より、今は暗くて見えないけれどその瞳は強い意志を宿した、とてもきれいな青。 その青が僕は何よりも大好きで。 「僕は海馬君が地球でも人間でも、大好きだよ」 すると海馬君も小さく笑いながら僕を抱きしめる力をそっと強めてきた。 「今宵は新月。月は太陽と地球に挟まれ、太陽はその姿を思う存分愛でる事が許されるが地球からはその姿を見ることは叶わん。ならば」 突然、ばさっと大きな音を立ててシーツが暗闇の中で舞ったかと思えば次の瞬間には僕は海馬君に見下ろされる格好になっていた。 「地に堕とすまでだ」 暗い中でも分かる、今、海馬君は絶対、絶対、にやりって笑ってる…! 「あ、あの、僕、明日、学校…なんだけど…知ってる、よね…?」 「案ずるな、俺も朝イチで重役会議だ。ついでに訂正しておいてやろう。『明日』では無い。『今日』だ」 余計悪いよ!!! ああ、けれど悲しいかな、こういう時抵抗しても無駄ってことを僕は嫌って程知っちゃってて。 「…痕は、つけないでね?」 だからせめてこれくらいの要求を突きつけるしか出来なくて。 「善処してやらんでもない」 僕の溜息交じりの苦笑は、唇から漏れる前にその出口を塞がれた。 *** すまん、半分くらい寝ながら書いてるからなんか支離死滅かもしれぬ。 最初は王様がいなくなってからの鬱AIBOの予定だったのですが、気付いたら甘カイオモ に。前回がカイオモ予定が気付いたら鬱AIBOになってたので無意識にそのリベンジを果たしたようです。(笑) あかん、真面目に文章の書き方を忘れてるよ…orz |